第31話 危険なゲーム(4)捕縛

 吉村達は、花園神社の近くに来た。周囲は暗く、たまに通りかかる通行人がいるくらいで、あまり人影は見当たらない。

 その後を尾いて来ていた涼真は、物陰からそれを眺めていた。

(何してるのかな)

 放課後、4人は思いつめた様子で口数も少なく学校を出ると、ここへ来たのだ。

 そして今、何か言い合っているのだが、遠くて涼真の所からは聞こえなかった。

 その内、彼らは肩を落とし、そこから立ち去ろうとした。

(何をしに来たんだ?)

 わけがわからないが、涼真は距離を置いて後を追う事にした。

 その前に、湊に連絡を入れる。

 顔を合わせても不自然でない涼真が背後に付き、他は別の方向から付いて行っていた。

「今、花園神社の裏に来たんだけど。何か言い合って、すぐに帰るみたいだ」

『何かしたのか?』

「いいや。来て、何かちょっと言い合って、おしまい。何だろう」

『何かあるか?もしくは、誰かいるか?』

 涼真は周囲を見回した。

「これと言って――あ。学校の前に来てた集団の1人が神社の中にいたけど……どうしよう。こっちに走って来たぞ!」

 ちょうど拝殿の奥から出て来たチンピラの1人が、涼真を見付け、走って来る。

 気のせいかと周囲を見回すが、どうも、そいつが目指しているのは自分らしい。

「待て、コラ!」

「え、何で!?」

 吉村達の方を見ると、涼真と今の声に気付いたのか、振り返っている。

(逃げろと言うべきか!?でも)

 迷う間に、チンピラは涼真に掴みかかり、

「お前か!?」

と言い、涼真に何も言わせず、そのまま拘束するようにして、そばにとめてあった車に押し込んだ。そして、走り去る。

 それを、吉村達は呆然と見ていた。

「え、今の何?誘拐?」

「学校に来てたやつらだったよな」

 顔を見合わせて、青ざめる。

「どうしよう」

「警察に?」

「何て」

 そこに、左手から湊が走って来る。

「あ、新任の先生だ」

「あれ?向こうから来るの、保健の先生だろ?」

 右手からは雅美が走って来る。

「おい、もしかしてあれもそうか?」

 前方から来るのは悠花だ。

 彼らは、ますますこの状況に混乱した。

「おい!」

「ふぁい!!」

 湊に睨み据えるようにして声をかけられ、裏返った声で返事をした。

 雅美と悠花も到着し、囲まれている。

「あいつがお前らと間違われて連れて行かれたのはわかってるよな?今月2日の夜、ここで何があった」

 吉村達は震えていた。

「何で、先生が、そんな」

 井上が言うのに、雅美は笑った。

「私達が、教師や事務員だと思う?」

 吉村達は、ビビった。秘密組織か何かと誤解していた。

「ああ?」

 湊が、つながっていた電話から聞こえて来た声を、スピーカーで皆に聞かせた。

『お前、2日の夜にぶつかったやつか』

 それで、吉村達は一斉に顔色を悪くして、オドオドしだした。

 その様子を見ながら、返事をする。

「そうだったら?」

『アレを持って来い』

 吉村が、カバンをギュッと押さえた。

「あれ?」

『しらばっくれる気か。キャンディだよ。こいつが死ぬぞ』

「……いつ、どこへ行けばいい?」

『……ええっと、午後10時に、花園神社の中の拝殿の中だ。

 警察に知らせたらどうなるかわかってるだろうな』

「ああ、わかった」

 それで電話は切れた。

「さて」

 湊と雅美と悠花の包囲が、狭まった。

「ひいぃ!」

 吉村達は、笑顔が怖い事もあると、初めて実感した。

 

 涼真はガムテープで、口を塞がれ、両手を拘束され、後部座席に転がされていた。

 電話を切ったチンピラは、アドレスを見て、涼真に哀れみの目を向けた。

「篠杜、木賊、竹内、錦織の4つだけか。お前、友達少ないんだな」

「うー、うううー、うううううー」

 仕事用の、余計なものが入っていない携帯だ。

 友人はいると抗議したいが、ガムテープでできない。

 涼真の抗議は全く通じず、チンピラは自分のスマホを出して、どこかに連絡した。

「あ、山田っす。今神社で――」

 そう報告を始めるのを聞きながら、涼真は、

(キャンディって何だろう?

 ああ、もしこの姿で殺されたりしたら嫌だなあ)

と考えていた。



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