第32話 危険なゲーム(5)決着
初めての彼女は、少し申し訳なさそうにしながら言った。
「ごめんね。でも、一緒にいると、間違われるじゃない?凄い年下の子供を連れ歩いてるって。だから、それはちょっと困るのよ」
「え、そんな……」
「ごめんね。きっと保脇君にピッタリの童顔の彼女ができるって」
「童顔?顔で選ぶの?」
「じゃあ、さよなら」
彼女は笑顔で手を振り、少し離れた所にいた友人達と歩み去った。
それをなすすべもなく見送り、涼真は涙した。
硬い床の上で、涼真は
「うっうー!」
と言って、目が醒めた。
彼女はおらず、いるのはガラの悪いチンピラだけだ。
「意外と図太いな、居眠りするとは」
1人が呆れたように言って、涼真は赤面した。
大学時代の思い出を、高校生に扮して少しも疑われない事に物申したいとか思っているうちに、夢に見てしまったらしい。
悪夢である。
チンピラ達は涼真を連れてこの神社に戻って来ると、無人の拝殿に入り込み、「キャンディ」を持って吉村達が来るのを待っていた。
グウウ。
お腹まで鳴って、チンピラの下っ端は、向こうを向いて肩を震わせた。
キャンディが、いわゆる飴のキャンディでは無い事くらいはわかる。薬物の1種だろう。
(吉村君達が来ないと困るけど、来ても困るよなあ。危ないし。どうするんだろ)
涼真が考えていると、外を見張っていた1人が、振り返った。
「来たぜ!」
ザッと8人全員が立つ。
拝殿の扉を開け放ち、グイッと立たされた涼真も、さい銭箱の前に連れて行かれた。
参道を、真っすぐに3人が歩いて来る。
お揃いの黒いパーカーを着てフードを被り、フェイスマスクで目以外は見えない。
「持って来たか?」
チンピラのリーダーが言うと、3人の真ん中が、黙ったまま小瓶を頭上に持ち上げた。
チンピラのリーダーが合図して、1人がそれを受け取りに足を出す――が、真ん中が言った。
「交換だ」
リーダーは考えたが、どうせ高校生だとタカをくくったのだろう。合図を出し、涼真は3人の方へと歩かされる。
3メートル、2メートル、1メートル。そして、小瓶が差し出され、涼真が軽く突かれる。
涼真は軽くよろめきながら3人に近付き、顔が見えた。
(湊!)
湊は涼真とチラッと目を合わせた瞬間、ニヤッと笑い、小瓶を高々と放り投げた。
「あ」
チンピラの声がする。
と、3人は同時にフードをはね、右手に特殊警棒を出した。袖口に隠していたらしい。
「うわっ!?」
誰かの声を聞きながら、石畳の参道に顔面から転ぶ。
「大丈夫ですか!?」
参道入り口から走り込んで来た悠花が、涼真を抱き起す。
「ううー!うーう!」
「はい?」
「う!う!」
顎をくいっとしたり手を軽く動かしたりして、どうやら悠花も「テープをはがしてくれ」と言いたい事に気付いたらしく、ベリベリと剥がす。
「痛てて。ボクも加勢――」
言いながら振り返ると、湊、雅美、山本が、チンピラを片っ端から叩きのめしていた。
「は、要らないな」
3人共、危な気なしに淡々とチンピラを這わせていき、全員を叩きのめしてプラスチックの結束バンドで拘束していく。その後、応援の山本は片手を上げて神社から出て行き、パトカーのサイレンが近付いて来た。
吉村達は警察へ行き、全て話した。あおりや動画のアップについては処分もあるだろう。
そして「キャンディ」は、最近若者を中心に出回っている違法薬物らしく、彼らチンピラを足掛かりにして、捜査が進められていくらしい。
「無事で良かったです」
部屋で打ち上げをしながら、錦織が言った。
「心配をおかけしました」
苦笑して、枝豆をつまむ。
枝豆、ジャーマンポテト、海老の天ぷら、チキンの柚子胡椒焼き、ちくわとこんにゃくの炒り煮、トマト。
湊と雅美と錦織が、自炊しているので料理ができる。意外と一番だめなのが悠花なのに、悠花がショックを受けていた。
「料理ができるっていうのも、大人っぽいかな」
ぼそりと呟くのを、悠花に聞かれた。
「大人っぽく見られたいんですか?若く見えた方がいいのにな。羨ましいですよ?」
「女の人はね、そうだろうけど」
涼真は苦笑して、大学時代の秘密を、このメンバーになら話してもいい気がした。
「ボク、童顔でしょ?それが原因で、ふられたことがあるんですよ。
デートしてても姉と弟に見られたり、子供に興味のある人みたいに彼女が見られたり、一度は連れ去りと間違われて職質かけられて」
聞いていた皆が、コメントに困ったような顔になった。
「それで彼女に、『きっと似合いの童顔の彼女がいるわよ』って言われちゃって」
「……あと数年で、似たような感じになるわ。10代や20歳過ぎほど、違いは出ないわよ、男性は」
「そうですかね」
言っていると、仕事用の携帯にメールが入った。
「あ、山田君だ。『迷惑をかけて悪かった。それと、ありがとう。でも、高校生なのに危険なバイトをしてるんだね』くそ!社員って時点で成人ってわかるだろ!?」
涼真は泣きかけた。
「いや、大丈夫だって。な。人間は中身だ」
「笑いを堪えながら言われても説得力ない」
「すまん」
それで、涼真は笑い出した。
「いや。高校生も久しぶりに楽しかったよ」
それで皆も笑い出し、とにかく、
「かんぱーい!」
とグラスをもう一度掲げたのだった。
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