第19話 過去(3)もたらしたもの
バカンスに人が集まる東南アジアのある島に、オシリス達は仕事のために訪れた。ターゲットがここへ集まるという情報があったためだ。
湊は危ないと感じたが、懇意にしている武器商人からの依頼を受けての事で、オシリス達は、ボディーガードがいる以上はある程度危険があるのは仕方がないと、依頼の遂行を選んだのだ。
だが、それはやはり罠だった。
警察に囲まれ、脱出も困難になった時、オシリスは湊を足止めに使い捨てる事にした。爆弾と湊と柱とを手錠でつなぎ、置いて逃げたのだ。
追って来た警官は、爆弾を解除しなければ湊が死ぬので、追うのを諦めて爆弾の解除をした。そのせいで、オシリス達は逃げおおせ、湊は10年ぶりに保護されたのだった。
湊は淡々と、過去を語った。
「その後家へ戻ったものの、悪意や嘘がわかってしまうし、日本の生活に馴染めなかった。周囲も俺を持て余したし、家にとって異質で、早々に家を出て距離を置く事にした。
母方の祖母が生きていた頃は祖母のところで暮らして、大学卒業まで伯父に面倒を見てもらってた。
何か起こる前にそれがわかるのは、この時に身についたクセだな」
涼真は呆然とし、雅美は軽く溜め息をつき、悠花はぽかんとしていた。
「それから今も、ずっと公安がくっついてる。行動確認と多分盗聴も。
オシリス達が接触して来る事は無いと思うけど、公安は接触して来て何か言うかも知れない」
辛うじて涼真が、口を開く。
「そんなの、違法じゃないんですか?」
それに錦織が、嘆息して言う。
「それが通じるのは、表でね。残念な話だよ」
「そういうわけだから、もしかしたら迷惑をかけるかも知れない。何かあったら言ってくれ」
「それでいいの?」
雅美も眉を顰める。
「多少煩わしい程度だから。普段はこんな事はないし、ましてや皆にはここまでしないと思う。せいぜい、ちょっと脅して、連絡があったみたいなら教えろとか、変わった事があれば教えろとか」
涼真、悠花、雅美は納得しかねるような顔をしていたが、錦織が、
「はい。この件はそういう事で。もちろん、内密に頼みますよ。
はいはい。午後は倉庫整理を頼まれていますから、よろしくお願いしますよ」
とにこにことして話を終わらせた。
が、錦織の目は、少しも笑っていなかった。
翌週、営業部に調査課ができた。事前調査や警護上必要とされる諸々の調査など、仕事は多岐にわたる。
部屋は2階小会議室で、新部署だからと挨拶に来たが、明るくて人当たりのいいサバイバルゲームが趣味という川口という青年はすぐに涼真と仲良くなり、物おじしない上田という女子社員は、スイーツの話題で悠花と意気投合した。
そして勤務時間後、湊と雅美は相変わらずちょくちょく格闘戦の訓練をしていたが、ここにたまに、無口で真面目な山本が加わり、運動は苦手という加藤が、筋トレをしながら見学するようになった。
そして、錦織と課長の田中は、笑わない笑みを浮かべて挨拶する仲だ。
公安のあからさまな行動確認が外れたようだと感じたのは、この頃だった。
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