第12話 オシリスのカナリア(1)夢

 一見、何も無い未舗装道路だ。そこに、子供の俺達が、横1列に並ばされる。

 男が何か言った。何を言ったか言葉はわからなくても、意味は分かる。銃をこちらに向け、顎で「いけ」と示されたから。

 そして、これもわかる。この先には地雷が埋まっていると。こうして並ばされて歩かされたら、どこかで爆発が起こって、誰かが死ぬから。

 このテロリスト集団にいる子供達は、親に売られて来たとか、食事と引き換えに志願してきたか、さらわれて来たか。

 俺は、さらわれて来たクチだ。

 砂漠の中の大きな都市。そこは、世界中からセレブの集まる都市であると同時に、危険なテロリストも集まる都市だった。そこに、父の仕事について、家族でバカンス半分で来ていた。

 襲撃は突然だった。大きな音と共に体が浮いて、熱い地面に叩きつけられる。

 火傷しそうな砂の上に投げ出された体をどうにか起こすと、そこら中が燃え、悲鳴や怒号が飛び交っていた。ついさっきまで一緒にいた母親はどこかと心細い気持ちで辺りをキョロキョロと見回すと、誰かが腕を掴んで乱暴に立ち上がらされる。

 見上げるが、知らない外国人の男だった。

 助けてくれたのだと思って

「ありがとう」

と言うと、ちょっと唇を引き上げるようにして笑った。

 そして頭に銃を突き付けられ、その男が、親切で助けてくれたのではないとやっと理解し、青ざめる。

 何かを大声で言い、男は子供の俺を軽々と小脇に抱えながら車に乗り込み、俺はシートに乱暴に放り出されたまま、車は急発進した。

「助けて!」

 そう大声を上げたいのに、上げたら何をされるかわからない恐怖と、叫んでも誰も助けてくれないとわかる絶望感に押しつぶされそうになりながら、車は砂漠の中に飛び出して行った。

 そして連れて来られたのが、この集団だ。人種も年齢も様々な子供達がいたが、残念ながら、日本語を理解してくれる子供はいなかった。

 閉じ込められたままどこかに移動し、僅かな食料を与えられる。

 そして時々、数人が連れ出されて、横並びで前進させられる。生き延びられれば、また子供の中に戻され、その内にまた、横並びだ。

 どういう基準で選ばれるのかわからない。だが、俺の番だ。

 慎重に、恐々、一歩を踏み出す。

 汗が流れるが、その汗が地面に落ちても、爆発しそうな気がする。

 数人向こうの女の子が、緊張に耐え切れなかったのか大声を上げて走り出し、そして、吹き飛んだ。

 それを見て俺達は足がすくんだが、背後に銃を持った男達がいるので、前進するしかない。

 震えながらどのくらい歩いたか。不意に、この1歩先へ足を下ろしてはいけない気がした。

 嫌だ。この先は嫌だ。気持ち悪い。何かザワザワする――!

 泣きそうになりながら振り返る俺の目に、彼が映る。リーダー、オシリス。オシリスは、笑い、俺に言った。

「カナリヤ」


 目が醒めた時、そんな筈はないのに、硝煙のにおいがしたような気がした。

 少し暑かったのか、汗をかいていた。この夢はそのせいだったのか。

 軽く嘆息して立ち上がると、シャワーを浴びにバスルームへ行く。

 そして、いつも通りの、コーヒーとパンとサラダとヨーグルトの朝食を済ませ、スーツを身に着けると家を出る。通勤電車に乗らずに済むように、会社のすぐ近くにあるマンションだ。

 すぐに、馴染みの視線を感じる。公安の刑事だろう。

「ご苦労な事だな」

 小さく皮肉気に呟き、湊は会社の玄関を潜った。




 

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