妹『破壊者ジェノシィ』との邂逅

  14


 文字通り宝の山の『帰らずの宝物殿』で、ヨモギ色の魔法使いは、魔獣レッサー・オモチビーストの群れの襲撃をなんとか退けた。魔獣との戦いで、持ってきた戦闘用のダンゴはほとんど尽きかけていた。

 さて、と一息ついて、秘薬『わらび餅NNHR』を一個食べた。気力体力致命傷、全てが一瞬で回復する、『主神NNHR』の名を冠する驚異のわらび餅だった。

 妹ジェノシィはすぐ近くに居るはずだったが、

「ジェノシィの『糸』(魔女のブーツのかかとに塗られたマーキング用便利アイテム、アーリアードの糸のこと。魔力を感じ取れる魔法使いならば、それの跡をたどって迷わずに迷宮入口へ戻れる)が途切れている……?」

 妹ジェノシィはどう考えても元気にこの最下層のどこかで生きている。しかし、引き返したとは思えない。床にトラップドアなどは無さそうだった。

 ヨモギは立ち止まって考えた。

「……上?」

 見上げたその瞬間――

 ビタアァァァン!

 巨大な白いかたまりが落ちてきた。

 ウルティメット・オモチビーストだ!

 上を見ていたヨモギは、間一髪でその踏み潰しをかわした。

 そして、

「まさか……ジェノシィはこいつに食われ――」

 最悪の事態か?

 巨大な白いかたまり、ウルティメット・オモチビーストはヨモギに考えるスキを与えない、信じがたいスピードのジャンプ体当たりを仕掛けてきた!

 だが、

「食われてなんかないよ! おねえちゃん!」

 一人の人間も落ちてきた。上から。

 それは、ヨモギ色の魔法使いとほとんど同じ緑のローブを身に着け、おそろいの炎のロッド『イグニッター』を構えた、ヨモギ色の魔法使いの妹、破壊者ジェノシィだった。

「ジェノシィ! よかった、生きてた!」

「こいつは七体目なの! 多分最強! ラスボス!」

 姉妹は支離滅裂なセリフをかわしていた。

 しかしヨモギは直感で理解した。

 ジェノシィは落下の勢いとともに、ウルティメット・オモチビーストの背中をロッドで叩きつけた。

 渾身の一撃をくらい、ひるむウルティメット・オモチビースト。

「頭部を破壊すれば倒せるの!」

 ジェノシィは続けざまにとどめを刺しにいった。

 ウルティメット・オモチビーストの背中に乗り、さらなる一撃を巨大なかたまりの頭部らしきところへ叩きつけた。

 ゴム風船が割れるような音が響いた。

 かたまりの頭部が吹き飛び、小豆色の体液が撒き散らされた。

 白い巨体はくずおれた。

「やった! おねえちゃん、久しぶり! 来てくれるって信じてたよ! やった!」

「……いや、まだのようだわ、ジェノシィ」

 怪物はムクリと起き上がってきた。

 ヨモギは気づいた。頭部の傷が治っている!

「なんてことなの? いままでの六体はみんな頭部破壊で倒せたのに! どうしよう、

……完璧に潰したはずなのに……」

「いいえ、治ってない箇所があるように見える」

 ヨモギ色の魔法使いは観察した。そして、

「魔力解放……一〇〇パーセント……」

 ロッドの水晶球は赤い光を増し、ヨモギの瞳もそれに呼応するかのように赤く輝いた。ヨモギは純粋な魔力の領域にふれ、なつかしさと冷静さを得た。

 怪物は怒り爆発状態だ。

 そして、大きく息を吸い込み、粘性のありそうな小豆色の巨大弾を何発も放った。

 しかし、魔力によって無尽蔵の身体機能および無敵の精神力をそなえたヨモギは、そう、冷静そのものだった。

 『イグニッター』を振り回し、それら全部をひっぱたいて四散させた。

 怪物はさらに激高し、ヨモギを押しつぶしにきた。

 ヨモギはぶつかる寸前まで観察した。

 あと五〇センチでぶつかる、というところでジャンプして回避した。

 魔力開放した魔女にはたやすいものだった。

 そして、見抜いた。

「ジェノシィ! あなたがロッドで叩いたところの『焦げ』が残っているわ!」

「じゃあ、熱を最大にすればいいってこと?」

「そのとおり! 焦がせるということはブチ燃やせるということ!」

 突進して水晶の尖った壁に激突している怪物をよそに、二人の魔女は二こと三こと言い合わせ、それぞれが持つおそろいの炎のロッド『イグニッター』を構えた。

「『魔力充填八八〇パーセント!』」

 ふたりは鏡合わせのように並んで立ち、おそろいの炎のロッドに全ての魔力を集中させた。

 怪物はその様子にさらに怒りを増したかのように二人にむかって一直線に突進してきた。

「『魔力解放! ファイナル・ブレイズ・バースト!』」

 巨大な炎の噴射が怪物に命中した。

 爆炎は鉄をも蒸発させんばかりの威力だ。

 巨大なウルティメット・オモチビーストは炎に包まれてうめき、のたうちまわり、それでも炎は無慈悲に怪物を焦がしていった。

 怪物のうめきは徐々に弱まっていき――

 やがて、こんがり焼けた巨大な肉……もしくは肉とオモチの中間のような塊が残った。

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