村さんへの手紙

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 木枯らしの吹く公園のダンボールハウス群ガーデンパレスはいかにも寒そうだったが、毛布にくるまっていれば意外とどうということもない。

 村さんは、スペアの毛布を物干し用ロープにかけ、ダンボールハウスの中であぐらをかき、もう一つの毛布を膝にかけた。

 そして、今日もまた、シュガトロから渡されたエイコックからの手紙を読みかえしていた。


 * * *


 前略 公園の村さんへ。


 これを読んでいるあなたには息子が『いた』ことだろうと存じます。私には父親がいました。しかし、今はいないも同然です。

 朗報かどうかはあなた次第ですが、あなたが勘当した元息子は元気に生きています。

 さて、前置きは以上です。結論から言うと、無料で配布するゲームの制作を手伝ってほしいのです。

 あなたのスキルがどこにも活かされていないのは、私にとって毎日のもやもやした悩みの種なのです。無駄なことでも、毎日積み重ねれば「思い出」という良き財産になります。無料のゲームを作るなんてことは、私にとって、無駄かもしれませんし、あなたにとっても無駄かもしれません。

 無駄無駄無駄無駄無駄……

 しかし、私にとってゲームの制作は、この無駄を善いほうの無駄に変えてくれると信じるものです。あなたとの思い出はきっと良いものになります。過去を塗り替えるほどに。

 ちなみに、この手紙をあなたに渡すのは、なぜか、そこらへんの女子高生かもしれません。そうでなければその女子高生と同じ学校の男子高校生かもしれません。


 草々


二〇◆◆年 秋

 「正気ではない私」の父親の息子より


 * * *


「『正気ではない』……か。紳士を目指せ、だのなんだの言い過ぎたな、昔のことだが。だが、直接会わないでいたら会わないなりに信頼関係が――生きがいみたいなことができるというのは……不思議な世の中だ」

 ベテラン村さんはそれを再び封筒に入れた。

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