隠れ家の方の喫茶店

   10


「おいっす! エイコ先輩! 本当に居たっすね!」

「オイッス。もしかして、この場所見破られたのでしょうか。文字通り隠れ家のつもりだったのに。何しに来たんですか、シュガトロさん」

「よくわからないけど、『パソコン部部長』が『ミンメイ書房の文庫本読んでる人なら別の喫茶店にいるかもね』って教えてくれたっす。この喫茶店いまにも潰れそうだから潰れないようにコーヒーにカネ落としに……じゃなくて!」

「じゃあココア?」

「ヒザ! ……じゃなくて! ボッチの先輩に協力プレイのテストおよびデバッグにちょっと付き合ってあげようかな、って来たんっすよ」

「ああ、『ベリル』を操作できる裏ワザのことですか」

「それですそれそれっす! 村さんと新入り山さんとわたしでテキトーにキーボードとジョイパッドを叩いてたらなんか操作できちゃって、ビビったっすよ!」

「二人プレイできるようにしてるってのは言ったはずですが……」

「ほぼ完成してるじゃないっすか、まだ先の話かと思ってたら……」

「ネットを介してプレイするルーチンはまだ完成してないから、とくに言わなかっただけです」

「とりま、早速プロモーション動画用にでもテストするっす!」

「もう少し静かにしましょう。喫茶店ならではのピアノジャズがもったいないです」

「……何言ってるかわからないけど静かに……うおりゃ!」

 シュガトロはノートパソコンにイヤホンジャックとパッドを静かに挿し、ゲームを起動した。

「ウエウエシタシタヒダリミギヒダリミギビーエーっと」

 ステージセレクトの裏ワザで三面からスタートし、エイコックがヨモギ色の魔法使いを、シュガトロが緑竜ベリルを操作した。

「上からくるっす! 気をつけろ!」

「だから静かに……」

「……了解っす」


 二人はここから急に静かになり、ヒソヒソ、カタカタ、とゲームを始めた。


「ところで、『上からくる』の元ネタは知ってますか?」

「よく知らないっす。ネットでたまに見かけるっすけど」

「『コレ本当に発売するんですか?』とレビューされた伝説のゲームらしいです」

「らしい? 先輩もよく知らないじゃないっすか」

「まあそうですね」

「ここで、『ウヘヒッパエの赤いげっ歯類』が上からくるんすよね」

「あ、噛みつかれた」

「開発者自身にあるまじきミスっすね」

「拘束中にベリルが攻撃するって想定してた場面なんですよ」

「なるほど、たしかにコンボが全部入るくらいげっ歯類がスキだらけっすね……」

「あ、やられた」

「ゲームオーバーじゃないっすか」

「いやいや、プレイ動画としてはちょうどいいでしょう」

「なんか釈然としないっす」

「次は本気でやりましょうか」

「ゼヒっす」


 二人は何回かゲームオーバーとなりつつも、

「なんとか倒せたっすね……ムズすぎるっすけど!」

「そうですね」

 公園のテストプレイヤーたちには倒せなかった敵を、倒せた。

 ウヘヒッパエの赤いげっ歯類の倒れているところで、画面の中のヨモギ色の魔法使いは立ちどまっている。ヨモギ色の魔法使いのHPゲージはアイテムを使って回復されている。

「……? なんでそこで止まってるんすか?」

「ネタバレしちゃうと、アレなんだけど……」

「まさかのっすか?」

「まさかです」

「えっと……なにが『まさか』なんっすか?」

「そのまさかです」

「どのまさかっすか?」

 などと言っているうちに、画面内では、上から『ウヘヒッパエの*巨大な*白いげっ歯類』が落ちてきた。

「まさかの仇討ちシステム! ドサーンってSEあるとよさそうっすね」

「いい考えですね」

「で、エイコ先輩としては本気を出すつもりっすか?」

「せっかく驚かすとこなのに普通に倒すとネタバレでアレですけど……どうしよう」

「とか言ってるうちにベリル倒されちゃったっすよ! 踏みつけ一発で!」

「ベリルの方は暖かくして頭冷やして寝てれば治ります」

「そんな、ただの風邪かぜじゃないんだから……」

 そこで、ヨモギ色の魔法使いのほうもすぐさま負けてゲームオーバーとなった。


 Continue?


 エイコック先輩は「No」を選択した。

「またネタバレになるけど、この先の面で、ベリルは眠りにつくことになるんですよ。死ぬわけじゃあないけれど」

「えぇ!? じゃあそのあと二人プレイ用のパートナーは?」

「今開発中です」

「そんな……ひどいネタバレをくらったっす

……」

「開発チームの一員なんだからいいじゃないですか」

「それもそうっすね」

「立ち直り早いですね」

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