ドラゴンっぽい怪物の襲撃

   9


 襲いくるドラゴンっぽい緑色爬虫類!

 しかしヨモギはパニクったりはしない。素早く『キビダンゴX』を七個取り出した。

「喰らえ!」

 ヨモギはそれを一つ怪物に投げつけた。野球選手のようなフォームで。

 パクッ

 怪物の口にそれはちょうどよく入ってしまった。

 とたん、怪物は突進速度を落した。

 そしてヨモギの三歩手前で止まり、『キビダンゴX』を味わった。

 キビダンゴXは、魔女の妖術の一種であり、動物に人語を喋らせ、また聞き取らせる効果がある。

『モット、クワセロ!』

 襲いかかってくるか? ヨモギは冷静に観察した。そして、怪物が次のダンゴを無理矢理奪い取りに来ないことを見極めた。

 ヨモギ色の魔法使いは、魔法使いなだけはあって、魔法を使える。しかし完全ではない……もしも呪文を間違えたら、良くて何も起こらず、最悪の場合はとてつもなく恐ろしいものを呼び出すことになる、といわれている。

 ヨモギ色の魔法使いは冷静に魔力を練り上げ、呪文を唱えた。

「服従せよ! 爬虫類の王クロマテスの盟約に従え!」

 炎のロッド『イグニッター』の赤い水晶球から純粋な魅了の魔力が放出された。

『……リョウカイ、ケイヤクヲ、ムスブ……』

 怪物はおとなしくなり、ヨモギに頭をたれた。

 ヨモギは怪物の顎の下をなでた。そして、二個目のダンゴを与えた。

「あー名前どうしようかな……緑竜だから、『みどりん』かな……って、われながらセンスないな」

『ベ、リ、ル……』

「ベリル? まあいいか。じゃあよろしくね、ベリル」

『ヨロシク……』

「ところで、わたしの妹、見なかった? だいたい同じ服装で、これと同じロッドを持ってるはずなんだけど」

 ヨモギは念のため聞いてみた。

『……ミテナイ』

「そう、じゃあ、ベリルが寝てるところを通過したのかしら」

 妹ジェノシィの足跡は途切れたりせずに、まっすぐ続いていた。


 仲良く歩いていく一人と一匹。もちろん、妹ジェノシィの足跡をたどっている。

 やがて、下り道についた。

「なんか急に涼しく……いや、寒くなってきたわね」

 ここまではなぜか暑かったが、下り道の奥からはあからさまな冷気が吹き付けてきていた。

「寒いのは平気? ベリル」

『モンダイナイ……ワガウロコニヨッテ』

 緑竜ベリルは強がっているふうにも見えた。

「さすがね」

 ヨモギの体にはウロコなど無い。ヨモギは、防寒具を取り出し、身につけた。


 道を下りきると、そこは白銀の氷雪地帯だった。

 天井は白くて見えない。一〇メートル以上の高さがありそうだ。

 空気が対流している――

 のが原因かどうかはわからなかったが、雪がはらはらと降り、また舞い上がっている。そして、壁は凍っている。間違えて素手で壁を触ったら危ない。手袋があって良かった。

 ヨモギはその階層を《完全停止の領域》と呼ぶことにした。なぜなら、そこに『ここは完全停止の領域』と魔女言語かつジェノシィの筆跡で落書きされていたからだ。

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