公園のテストプレイヤー

   8


 公園のイチョウ並木は銀杏の収穫シーズン真っ盛りだった。収穫を気にしているのは、ほぼ公園の住人たちだけだったが。

 よけいなことだが、不用意な通行人が銀杏を踏んでしまって、イチョウ並木は悪臭を放ってもいた。

 ガーデンパレスのダンボールハウスに来る途中、佐藤トトロ――シュガトロは、うまいこと銀杏を踏まずに歩いていた。四〇キログラムのアイスボックス(注・保冷と熱遮断の大型容器)を持っているとは思えないような軽快な足取りで。


「おいっす」

「やあ、こんにちは」

 シュガトロとベテラン村さん。とりあえず、挨拶は重要なのだ。

「シュガトロくん、なにかいいことがあったみたいだな」

「えぇ? なんっすかいきなり。まあありましたけど、いいこと。『なぜわかった?』って言う場面っすか?」

「近づいてくるアイスボックスの音でわかった。いつもよりやや上機嫌だとね」

「なんでいきなり探偵モノみたいに……じゃあ、何が上機嫌の理由かも推理してたりっすか?」

「推理か。それは……理由を適当に当ててみようとすると、プロジェクトのブログが一〇〇〇アクセス突破、なんてとこかな?」

「ハズレっす」

「じゃあエイコ先輩とデートの予定があるとか、かい?」

「まっさかー。先輩はそーゆーのじゃないっす。ないない」

 赤面も照れるもなくケラケラ笑うシュガトロ。

 エイコックが聞いたらへこむかもしれない。

「じゃあ推理失敗で」

「答えは……あ、ドラムロールの擬音ってどんなでしたっけ? まあいいや、ジャララララララ、ドン! 『ゲームのベータ版、観客動員早くも一五〇人突破!』っす!」

「……意外と少なくないか?」

 村さんは『斜陽産業かよ』とはツッコまなかった。

「いや、これでも多い方っすよ? 七人で作っただけのことはある、って程度には」

「無料のゲームなのにか?」

「無料のゲームなんてそれこそ星の数ほどあるっす。それも日々増え続けているっす。創作者は創作者を呼び、創作物もまた誰かをインスパイアするっす。フリーゲームは、そうやって地球を飲み込むほど無限に増えていって、だけれど拡散されたところで『とりあえずダウンロードしたけどやってない勢』も実は大多数っす」

「……そうか」

「いやいや、落ち込むとこじゃないっすよ、まだまだ」

 シュガトロはメディアを取り出した。

「ゲームのベータ版だな」

「やってみてほしいっす」

「じゃあ山ジローも呼んでこよう」


 起動……オンボロノートでは三〇秒かかった。

 そしてシュガトロが持ってきたジョイパッドを挿した。

「ぼくが先にやってもいいのですか?」

 と新入り山さん。

「もちのろんっす! ゲーム世代の意見も聞かないと!」

 しばらくノーヒントでゲームを進める山さん。つまり、ノーヒントでどうにかなるかのテストプレイということになる。

 開発者側からは、つまりシュガトロにとってはそう難しくないゲームのステージで、ゲーム世代の山さんは詰まった。


「一面はただ歩いたりジャンプする練習面みたいだとわかりましたけど、二面でいきなりドラゴンっぽいやつ出てきて強すぎじゃないですか? 勝てる気しないんですけど……」

「ふふーん。じゃあ、マニュアルのテキストファイルを見る権利を授けるっす」

「操作方法は……ああ、こないだ村さんがやってた何かダンゴを投げるやつがあるんですね。で、投げる物体の切り替えボタンがあって……あ、もしかしてコレかな……」

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