二ヶ月前、パソコン室の前
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さて、時系列は二ヶ月ほどさかのぼります。ご不便をおかけして申し訳ありません。
* * *
「佐藤さん、動画作りは飽きちゃったの?」
「そうっすね……あまり楽しくないっす。コメント伸びないし」
「じゃあ――」
パソコン研究会会長は、
「ゲームを作りましょう。それほど難しくはないのよ、最近では。ゲーム作りより楽しいことなんてこの学校にないわ! 想像してみて? みんなで遊べるものを創作する……その創作物で協力してモンスターを倒す! 鍛えた技でライバルと対決! ネットで配布してスコアアタック全国大会! 最高! そう思わない? いい考えでしょ?」
かなりハイテンションにまくし立てた。
これが向こうから誘ってくれる最後の提案だと佐藤さん――佐藤トトロの直感は告げた。
佐藤トトロは、
「わかったっす」
「え……? 何がどれくらいわかったって?」
PC研究会会長にとっては意外な応えだったようだ。
「ゲームを作る。皆、最初はそう大志を抱くモノっす。パソコンでのプログラミングを始める理由は、ゲームを作りたい、というのが大多数っすね。残りの少数は、ゲームを作りたいとか、あるいはゲームをつくりたいとか、それよりなによりゲームを作りたいとか。ああ、あと、ゲームを作りたいとか。そこは解ってるっす」
「それじゃ、幽霊部員になってたのは何だったの?」
「ここでダベっててもゲームは完成しないと思ったからっす」
「じゃあ、完成させましょう!」
「できるという確証を挙げてほしいっす」
「ここまで完成しているの。やってみて」
部長はそう言って手元のパソコンでプログラムを起動した。
2Dアクションゲームだった。
否、ゲームと呼べるほどではない。棒人間がジャンプして敵シンボルに当たるとアウトで、コインとしかいいようのないものを取って、でも音が一切入っていない……できそこないのスーパー配管工走りゲームとしか言いようがない。しかし……
「これは――なかなかのモノっすね。音とドット絵と調整入れれば……」
佐藤トトロは一瞬でそれの改良案や、プレイ感触の心地よさ、丁寧に作られていることによる上質感を思い知った。
「これを見せられたら、さすがに折れるしかないっすね」
「よかった!」
「で、どうやってこれをわたしが手伝って作るんっすか? わたしプログラマとしてはゲームやったことないっすよ? プログラマ、絵の人、音楽、そして制作総指揮、とか必要っすかね?」
「それがね、ネット上にちょうどよさそうなプロジェクトがあるの」
「ネット上っすか?」
部活の範囲を超えた活動になってしまうのではないか? 佐藤トトロは一瞬、想った。
「このゲームはエイコックって人の作りかけなの――それ誰かって?
そうそう、それね。
『ほぼ完成している作りかけのソースコードが卒業した学校のマシンに入ってる、けど取り出せない。当然だが、学校に入れない』
ってな記事がアップロードされてたのよ。エイコックさんのブログに」
「肝心のサーバーとかのインターネット環境ないっすからね、この学校……って、その人がまさか、つまり、ここの先輩、卒業生ってことが、確定してるってことっすか?」
「いええええす! そのとおり!」
「じゃあなんでわたしに声がかかるんすか?」
「部員は多いほうがいいに決まってるじゃない。幽霊部員たちに声かけてる最中よ」
「幽霊部員たち? 『たち』なんていないっすよね? 記憶が確かなら、わたしひとりしかそれに該当しない気がするんっすけど……」
「あと一人幽霊じゃないのが居れば、正式に『部』として認められるところなわけ、正直に言えば。要するにそのあと一人になって欲しいわけ。お願いだからプロジェクトに入ってくれないかな、トトロちゃん」
「急にズイズイ来るんすね……要するに、作るべきゲームがあって、ソースコードが学校にあって、プロジェクトには猫の手も借りたいと。そんなんっすか?」
「そのとおおおおり」
「まあわかりました。で、何やればいいんすか?」
「いわゆるひとつの――」
言いかけて部長(あるいは同好会会長)は言葉を止めた。
「いわゆる? 何っすか?」
「トトロちゃんの人脈はスゴイらしいじゃない」
「人脈?」
「なんか国会議事堂に避雷針立てる仕事してたらしいじゃない」
「どこからそんな噂が? たしかに親戚の友人の誰かがそういう仕事してたって言ったかもしれないっすけど……」
「エイコック先輩に直接会ってきてほしいの」
「わたしが? その今のゲームの作者の? なんで部長が行かないんっすか?」
「……はずかしい」
「……わたしをなんだと思ってるのか聞いてもいいんすかね」
「広報担当の、可愛い女の子」
「さらっとおだてられたところで……あー……まあ了解っす」
「ホント? ありがとー! 先輩によろしく! あ、ゲームのソースコードはパソコン室の全マシンのストレージに入ってて、コピーがこのメディアに入ってるからこれ持っていってね」
「あ……メールで送ればいいんじゃないっすか?」
「それよ! エイコック先輩は、なぜか直に会わないと駄目だって言ってるの。いえ、心配ないわ、紳士を目指してる人らしいから」
それじゃ、と言い残して『部長』は去って行った。
そして、佐藤トトロは当然最大の疑問について考えた。
なんで直接会う必要が? 暗号化匿名メールそのものくらいあるだろうに……
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