第27話

「暴動が起きていないだと? 貴様ら、予の指示通りにしたのだろうな?」


「はい、ペルクーリ殿下。しかし、イコォーマは最初からこちらの動きを予想していたようです。困窮して都に集まった農民共を刺激しないように慎重になだめ、暴動を未然に防いだのです。」


「それを貴様らは黙って見ていたのか? さらに井戸に毒を入れて混乱させたり、その事をイコォーマのせいにして噂を流すなど、やれることはまだあった筈。手緩てぬるいぞ!」


「しかし、そんなことをしてはゴルジョケアの西半分が再建不能になってしまいます。例えいくさに勝ったとしても都、ティペリスとその周辺の村々を復興させることは容易ではありませぬ。」


「まずは戦に勝つことが先決だ。都など、このイターンにうつせば問題無い。何故、貴様らが復興のことなどを気に掛けるのだ! 出過ぎた事をするな!」


臣下の騎士どもがちぢみ上がる。全員、震えあがって直立不動の姿勢になりおった。それで良い。貴様らはに言われたことだけをしていろ。許可もなく余計な事をしたら家族諸共もろとも、処刑してやるからな。


ええい、忌々いまいましい。暴動が起きてイコォーマの軍勢と農民との間に衝突を起こせば無知蒙昧むちもうまいな民心など幾らでも操れたものを・・・。愚民どもをなだめるのには【戦巫女いくさみこ】リンの働きも大きかったと言う。奴等やつらは何故、あの娘をあのようにしたうのか、さっぱり理解出来ぬ。


確かにリンを手放したのは失敗だった。小麦は凶作で税の取り立てははかどらないは、伯父おじ上からはお叱りの書簡が届くはでろくなことが無い。やはり書簡でのご指摘の通り、国外に追放などせず城の何処どこかにでも幽閉して置けば良かったのだ。そして小麦の取り入れの時だけ、あれリンを【戦巫女いくさみこ】に任ずれば事は足りておった。


「どうなさいました、ペルクーリ殿下? お顔の色が優れませんよ?」


「うむ? いや、何でもないぞ。其方そなたが心配することは無い。」


の可愛い【戦巫女いくさみこ】ラスカーシャが上目づかいでたずねてきおる。そうだ、女はこうやって男を立ててれば良いのだ。それをあのリンは正面から予の目を真っ直ぐ見つめて来る。少しは膝や腰をかがめて下手したでに出れば、まだ可愛気かわいげもあったものを・・・。


第一、あの目が気に喰わぬ。予のことをあわれむような、さげすむような気持が犇々ひしひしと伝わって来おったわ。特に予が敵国をおとしいれる名案を思い着いて話して聞かせてやったときの汚いものを見るような目は一生忘れぬ。【戦巫女】で無ければ、今頃は手討てうちにしておるわ!


何故か、あの目を見ていたら自分がちっぽけで中身の無い器の小さな男の様に思えて来てならぬのだ。予は王太子、つまり次の国王だぞ。このラスカーシャの様にびてうわまえぬのか!


「殿下、どうなさいました? また敵を苦しめる名案でもお考えなのですか? どうかラスカーシャにも話してお聞かせ下さいませ。」


「うむうむ、良いぞ。近う寄れ。」


ラスカーシャが甘えるように話掛けて来るので抱き寄せてやる。豊かな肉付きの素晴らしい抱き心地。女はこうでなくてはな。あのリンのようにせっぽちではこうは行かぬわ。大体、あの娘は抱き寄せようとしたら嫌がって、を突き飛ばしおった。かく、無礼だったわ・・・。


「あ、あの殿下。我々はどうしたら・・・。ご指示をお願い致します。」


「それくらい自分たちで考えろ! 見て判らぬか、予は今忙しいのだ!」


騎士どもめ、ぼうっと突っ立ちおって。全く無能なりに無い知恵を振り絞って働こうとは思わぬのか! 仕方が無い、少し指示を出してやるか。ラスカーシャの手前、少しは恰好かっこうも付けておかねば成らぬのでな。


「そうだ、傭兵の集まり具合はどうだ。金に糸目を付けるな。どんどん集めるのだ。」


「ですが、これ以上は『質』が保証出来ません。もう罪人まがいの破落戸ごろつきのような者しか集まりません。いざ、いくさとなれば我らの命令に従うかどうかも・・・。」


たわけい! それを何とかするのが貴様ら騎士団だろうがっ! 戦など、所詮は数だ! 相手が見ただけで逃げ出すくらいの数を揃えよ!」


「ははっ! かしこまりました。」


ふむ、なかなか恰好が付いたか。ラスカーシャが潤んだ瞳で見上げて来る。中々、気分の良いものよ。これはこたえられぬわ。


「それと『アレ』の準備の方は進んでおるのか? 念のため、抜かりなくやっておけよ!」


「ははぁっ! おおせせのままに!」


そうだ、予には伯父上から授かった策と奥の手があるのだ。決して負けることはないわ。今に見ておれよ、リーネオとリンよ。首を洗って待っておるが良い。予に刃向かったことを心の底から後悔させてやるからな・・・。

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