第9話

気が付くとそこは壁が白い明るい部屋だった。あれ?とまってる部屋ってこんなのだったっけ? 私が泣き疲れて眠ってしまった後に部屋を移ったのかな・・・。


「ふぅ~。やっと見つけたわ。一年も掛かってしまって御免ごめんなさいね。」


声がする方を見ると金髪の綺麗な女性が立っている。シルクかな?少し薄い布の頭からかぶるるギリシャ神話に出てくるような服を着ているよ。もしかして・・・。


「あの、この世界の女神さまですか?」


私は直感的にそうたずねた。すると女性はニッコリと微笑ほほえんで答えてくれた。


「そうね。その認識が一番近いわ。私はユマラタル、『ユマ』と呼んでもらって良いわよ。」


翠玉エメラルド色の瞳、とても賢そうな目付きだ。睫毛まつげは金色で凄く長い。眉毛も綺麗な形で意志が強そうな感じ。長い金髪ブロンドを後ろでポニーテールにまとめている。25歳くらいのすごい仕事が出来そうな女の人って印象だね。


「それでユマさんはどうして私を探してたんですか?」


「あの、私の元部下が貴方あなたにとても迷惑を掛けたと聞いて探していたのよ。これでも最短で探したんだけど・・・。本当に御免ごめんなさい。」


そう言って女神様は深々ふかぶかと頭を下げた。彼女の説明だとこうだった。まず地球のチャラ神が書いた、この世界への「転生申請書」にも不備があったそうだ。けれど、それはユマさんが直して受理してくれたって。本当はいけないことらしいけど・・・。


「あとね、他にも不備があったの・・・。本当に御免なさい。」


「不備? まだ不備があったのですか・・・?」


私はゲンナリしてたずねた。女神様はペコペコと頭を下げてる。元部下のミスなんだから放っとけば良いのにね。でも、ユマさんが「転生申請書」を直してくれたおかげで転生出来た訳だし・・・。


「あのね、地球の神があらかじめ選んでおいた【翻訳ほんやく】のスキルなんだけどね。あれには幾つか種類があるの・・・。あの子、何度も言ってるのに直ぐ間違えるのよ。」


ん? 今、「あの子」って言った! まさかユマさんって、あのチャラ神のお母さんってこと? 信じられない! 全然似てないじゃん!


「あ、あのお子さんは【翻訳ほんやく】の何を選び間違えたんでしょうか?」


「ここからは本人に説明させますね。はい、出てらっしゃい!」


女神様がパンと手を叩くと、目の前に地球のチャラ神が出現した。土下座の姿勢だ。


「あ、こ、この度はご迷惑を御かけしまして、ま、誠にサーセン。」


「こらぁ~!」「ズッパーン!」


ユマさんは突然、大きなハリセンでチャラ神のお尻をたたいた。どこからあんなの出したんだろ? チャラ神はすごく痛そうにってる。ざまあ!


「コッタ君、ママあれほどおびの言葉を教えたよね? 『サーセン』って何? りんさんのこと馬鹿にしてるのかしら?」


「ママ、いきなりハリセンはめてよ。それすごい痛いんだよ・・・。」


「お黙りなさい!」


ユマさんはチャラ神の言い分を聞く気は無さそうだ。ニッコリ笑ってはいるが口元や目元がひくひくしている。知ってるよ、この顔。うちのお母さんも良くやる顔だ。この後、ちゃんとしないとヒドイんだよね。それにしてもチャラ神って「コッタ」って言うんだ。初めて知った。


「まあまあ、お母さん。私としては【翻訳ほんやく】の何を選び間違えたのかを教えて頂ければ、もうそれで良いですよ。」


話を進めたい私はチャラ神「コッタ」君に助け舟を出した。ホントはしばらく彼がしかられるとこを見たかったんだけど・・・。


「え、えっと、わたくし、地球の神『コッタライネン』は佐藤さとう りんさんの【翻訳】スキルを選択するときに、誤って『伝意でんい』付きを選んでしまいました。ゴメンナサイ。」


伝意でんい」? 何だ、それ? どんな不都合があるんだろう。


「あのユマさん、『伝意』ってどんな効果があるのですか? 何か不具合があるのですか?」


「ええ、説明するわ。『伝意』には『相手の目を見ながら話すと、こちらの感情や気持ちが伝わる』って効果があるの。だから好意や相手を思いやる気持ちを伝えるのには良いんだけど、相手を良く思ってないとか悪意がある場合は逆効果になるの。」


「じゃあ、悪い印象を持っている人に対してとか、腹を立ててるときは相手の目を見て話さない方が良いってことですね?」


「そうなの。すごく便利な付加効果なんだけど、そこに気を付けないと最悪、世界中を敵に回すこともあるわ。『諸刃もろはけん』ってことね。」


そうか、じゃあペルクーリ王太子と話してる間、私はマイナスの感情を送りまくってたんだ。そりゃ向こうも気分が悪かっただろうな。確かにこのことをあらかじめ知っていたら今頃、ゴルジョケアの【戦巫女いくさみこ】をクビになって無かったかも・・・。


「一度付けてしまったスキルはもう変えられないの。けれど、『伝意でんい』の悪い面を伝えてないと大変なことになるわ。だから大急ぎで貴方あなたを探したのよ。こちらでは2時間位なんだけど、人間の世界では一年も経ってしまっていて。御免ごめんなさいね。」


「判りました。わざわざ伝えて下さって有り難うございました。これからは気を付けて人と話すようにします。」


かげで命の危険もあったんだけど、それは話さないでおこう。結局リーネオさんたちと出会うことも出来たのだから。結果オーライと言うことで・・・。


りんさん、判って下さってうれしいわ。じゃあ『お仕置しおき』の時間に移りましょうか。はい、これどうぞ!」


ユマさんはニッコリ笑って手に持った「ハリセン」を私に手渡した。ん? どうゆうこと?


「これが貴方が探していた【神を叩けるハリセン】よ。特別に三発だけ使用を許可します。」


「え? コッタ君を叩いても良いんですか?」


私の問いに女神ユマさんは満面のみで答えてくれた。そうか、そうか、お母さん公認か。覚悟しろ、チャラ神「コッタライネン」めぇ!


「顔を上げて下さい。地球の神『コッタライネン』さん。そして正座して下さい。」


私はわざと優しく言った。土下座の体勢だったチャラ神が顔を上げて正座する。その表情は、もしかしたら許してくれるの?と期待しているみたいだ。


「 もう反省したからハリセンだけは許して。それすごい痛いんだよ。」


「・・・。ん~ん、この方がたたきやすいからだよ。それじゃあ行くよ!」


チャラ神『コッタライネン』の顔が絶望の表情に変わるのを確認しながら、私はハリセンを大上段に振りかぶる。


「これは、間違えて死なせてくれた分! それと相手の顔を見て話せ!」「ズッパーン!」


「これは、『超量産型』って言った分! チャラチャラした話し方するな!」「ズッバーン!」


「これは色々と手抜てぬき仕事してくれた分! 仕事中はスマホめろ!」「ズッババァーン!」


三発目を打ちえた瞬間、【神を叩けるハリセン】はすうっと消えてしまった。チャラ神はプリン金髪の頭から白煙を上げて項垂うなだれている。涙目だ。体が腰ぐらいまで地面にめり込んじゃった。いい気味だよ。


「ホントにもう、この子ったらお父さんに似ちゃったのかしら? 髪の色も同じ黒だし・・・。 りんさん、幾らかでも気は済んだかしら?」


「はい。大分、スッキリしました。」


女神ユマさんの話が本当なら、旦那だんな神は相当いい加減なヤツなのかな。 もしかして「ダメンズ」好きですか? 仕事出来そうな女神ひとなのに残念なところもあるんだね。


「良かった。おびとして、これからの貴方あなたの人生でアドバイスが必要なとき、三回だけ私と会える権利を進呈するわ。私に会いたいと強く念じてから眠ってね。それじゃあ!」


この世界の女神ユマさんとチャラ神コッタ君の姿が次第に透けてゆく。


「じゃあ、コッタ君。スマホは一ヶ月没収!」


「え、ママ、それだけは許して! もうお仕置しおき受けたじゃん。ヒドイよ!」


「ダ~メ! 一ヶ月ちゃんとお仕事出来たら返してあげ・・・。」


二人の会話がそこまで聞こえて来たところで姿が完全に消えちゃった。あっちで一ヶ月ってことは、こちらでは400年近くチャラ神はスマホで遊べないのか。頑張がんばれ、地球人類!


次の瞬間、私は目覚めた。そこは元居た宿屋の部屋だった。

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