第4話

従者の人が大きな棒みたいなのを包む袋をく。中から大きなやりが出てきた。中世の騎士が小脇に抱えて使う感じのヤツだ。知ってる、あれを抱えて馬に乗ったまま相手を突くんだよね。けれど、大男さんの行動は違った。


「娘一人を大勢で囲むしか能のない有象無象うぞうむぞうがこの俺にかなうと思ってか! 思い知れい!」


そう言って、デッカイやりを片手でつかんで頭の上で振り回し始めた。ブンブンと風切かざきり音がして辺りに旋風つむじかぜが巻き起こる。まるでヘリコプターの下にるみたい。そのまま、大男さんは周りを囲む騎馬の列に突進してゆく。


「うわ! なんてデカイ馬だ。こっち来るな!」


だいたい大男さんの乗っている巨馬と刺客しかくたちのは種類からして違うのか大きさがまるで違う。大男さんの馬は肩の高さが2m以上はあるのに、刺客が乗ってる馬はポニーみたいな馬だ。高さが50cm以上違う。先ず馬がビビッて円陣がくずれちゃった。


「それぇ、それえぇ~い!」


大男さんはくずれた刺客の円陣の隙間すきまに巨馬をり込ませたり、わざと並んで走ったりして威嚇いかくしている。と言うか遠目とおめには、もう揶揄からかってるみたいだ。相変わらず声量が凄い。空気がビリビリと震えて、大男さんが声を出すたびに刺客の馬には棹立さおだちになるのも居る。


「ほれ! ほれ! ほれぇ~!」


大男さんは大きな槍で刺客たちを馬から突き落としてゆく。まるで戦いになっていない。刺客たちの槍は長さが1mと少し、大男さんの槍は3mはある。間合いがまるで違う。刺客の中には槍を投げつけるヤツも居るけど乗ってる馬が暴れちゃうので明後日あさっての方向に飛んで行っちゃった。


「ほげぇっ!」「はがぁっ!」「げぼぁっ!」


刺客たちは変な声を上げながらどんどん落馬してゆく。見ていて気が付いた。大男さんはわざと殺さないように手加減をしているんだ。あんなに恐ろしかった刺客たちをまるで子供扱いだ。ざまあみろ! なんか愉快になって来たよ。


「こうなったら金貨はらん。娘の命だけはいただく。それで『仕事』は終わりだ!」


刺客の一人が叫んで、こちらに馬を向けて駆けて来た。まだ金貨うばう気だったんだ。当然、コイツも大男さんがやっつけてくれるよね? と思ったら彼はチラリと見ただけで他の刺客を追い回している。え? 何で? 一人くらい自分で何とかしろと?(汗) とりあえず短剣ダガーを抜く。


「ちょぁあ~っ!」


刺客がどんどん近付いて来て、もう槍の間合いに入ると思った瞬間。お供の小男さんが馬上の刺客に強烈なりをらわせた。馬が駆けて来る力がカウンターになってソイツは5mくらい後ろに吹っ飛んだ。地面を転がって白目をいて気絶しちゃった。


「おい、アピナ。娘は任せたぞ!」


「へい、若旦那わかだんな。言われるまでもありやせん。」


大男さんがこちらを向きもせず片手を挙げて声を掛けてきた。小男さんも大男さんの方を見ず、周りをすきなく警戒しながら答える。すごい。息がピッタリだ。小男さんを良く見る。私より背は低そうだけど全身引きまってて素早すばやそうだ。ちょっとは見習みならえ、微妙チビデブペルクーリ王太子


「危ないところをありがとうございました。」


私は小男さんにお礼を言う。彼はちょっとビックリしたように丸い目をして、こちらをチラリと見た。次の瞬間、片目をつむってニカッと笑う。年は30歳くらいかな? オジサンなんだけど表情が悪戯いたずらっぽい少年みたいだ。私はすっかり安心して、また大男さんの方を見る。


「ほれほれ、これにりたら俺に喧嘩けんかを売るなど二度とするな。次は命をるぞ。」


刺客はもう全員、地面に転がってる。意識があるのは二、三人だ。馬もビックリして逃げちゃったのか数頭しか居ない。


「そら、失神のびてる奴らを連れてサッサとせろ。俺は旅を急いでおるのだ!」


大男さんが言った途端とたん、刺客たちは意識の無い仲間たちを馬に乗せ始めた。小男さんが倒したヤツを回収しに来た刺客がチラッと私を見た。瞬間、小男さんがダン!と足を踏み鳴らす。ソイツはビビッて後ろに尻餅をついた。良く見たらコイツ、私を「楽しもう」って言ったいやらしいヤツだ。ざまぁ! 良い恰好かっこうだよ!


「娘。無事だったか? 災難だったな。」


刺客たちは皆、尻尾しっぽくように逃げて行っちゃった。大男さんが近付いて来て馬上から声を掛けて来る。それにしてもデッカイ。馬が大きい上に乗ってる人も大きいから、凄い高いところから声がする。まるで巨人と話してるみたいだ。けど、不思議と怖くない。


「ありがとうございます。おかげさまで怪我けがくて無事です。私、佐藤さとう りんと言います。」


「ふむ。『サトウ』が姓で『リン』が名か?」


私がお礼を言うと大男さんは名前を確認してきた。そうか、こちらの世界は名前が先で苗字みょうじを後で言うんだった。ちょっと恥ずかしくなって顔が赤くなる。私の返事を待たないで大男さんが自己紹介を始めちゃった。


「ならば俺は其方そなたをリンと呼ぼう。俺はリーネオ・インゼルと言う。リーネオと呼ぶが良い。今はある商会の跡取あととり息子をやっている。」


これが私とリーネオさんの出会いだった。

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