⑥回想(中学時代)
私と香織は中学から高校まで同級生だった。
いや、単なる同級生ではない。
親友だった。
仲良くなったきっかけは中学に入学して半年たった頃、一緒に下校したことだった。
その日はいつも一緒に帰る他の三人の友人が、風邪で休みだったり、委員会だったりで、香織と二人きりで帰ることになったのだ。
気まずいなと思ったことを覚えている。
当時、香織は内気で自分から何かを話題を提供するような子ではなかった。
いつも皆の会話を聴いて、相槌を打ったり、笑ったりしていた。
中学校から私たちが別れる道まで、徒歩で20分ほどだ。どんな話題を振ればいいんだろう。
私はどぎまぎしながら、香織の隣を歩いた。
「今日の数学の小テストどうだった?」
「あんまりできなかった~」
「だよね~、小テストってレベルじゃないよあれ!!」
そんな会話が発端だったように思う。
最近の授業の話で思いのほか盛り上がった。
「香織ちゃんは教科、何が好きなの?」
「う~ん、強いて言うなら国語かな」
「へぇ~、国語かぁ。国語の教科書に載ってる話ってさ、みんな暗くない? なんか説明されてもよくわかんないし、気が滅入るよ。もっと笑える話が読みたい」
「確かにそうかも」
「でしょ~!」
「……でも、そうゆうの好きだな…。授業で先生から、この表現はこういうことを意味してますって教えてもらうとね、そんな考え方する人もいるんだってびっくりすることがあるんよね。私には想像ができない人の気持ちが分かるって、なんか楽しくない?
私は私の人生しか生きれないから…。その分、本読んで補うみたいな。
それに今ピンとこなくても、先生ぐらい大人になれば、理解できるのかなってちょっとワクワクするし」
私はいつになく長く話す香織に少し、驚いてしまった。
私の呆気にとられた表情に気づいたのだろう。
香織ははっとした表情で私を見て、目を泳がせた。
「あ、ごめん、めっちゃ一人で語っちゃった。恥ずかしい、今の忘れて」
「なんで、すごい素敵な考え方じゃん!語ってよ」
私はお世辞でなく、思ったことをそのまま伝えた。
国語の教科書に載っている小難しい話に対して、そんな風に考える友達は他にいなかった。
人が面白くないと言った物に対して、自分は好きだと言える人も、当時私の周りには存在していなかった。
だから、私は本当に純粋に香織のことをすごいと思った。
「ほんとに…? ありがとう。
でもやっぱ恥ずかしいし、他の皆には秘密で」
香織は嬉しそうに、人差し指を唇に当てた。
その後すぐに私たちは、それぞれの家へと向かう分かれ道にたどり着いた。
「じゃあ、また明日。ばいばい」
「うん、ばいばい」
私たちは互いに手を振りあって、それぞれの帰路についた。
香織と別れてから、私は何だかとてもドキドキしながら歩いていた。
多分、香織のユニークな一面が知れたからだろう。
それも、香織が他の友人には話していない、私しか知らない一面だ。
何より私は、ちゃんと自分の世界を持った友人ができたことが嬉しかった。
香織は私にとって、憧れの存在となった。
それからは私と香織は、仲のいい友人数人を含めて必ず一緒にいるようになった。
クラスが離れても、昼休みはよく学校の中庭で一緒にお昼を食べた。
中学3年になった頃から私たちは、放課後に図書室で勉強をするようになった。
一緒に同じ高校に行こうと約束していたのだ。
その時私は、ヘアアレンジやメイク、ファッションなどが好きで、なんとなく美容師という職業に興味を持っていた。
けれど、その想いはまだ本気で美容師になるという決意には至っていなかった。
それよりも私は香織と二人きりの図書室で、香織との高校生活を想像して胸をときめかせていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます