あの娘しかいらない。

せいこう

か弱き存在は弄ばれる。

縮小病が世界に広がってからはや数十年。

縮小人間の人権もほんの少しだけ回復してきた頃、一つの女子校が作られた。


『国立共同女子高等学校』


通常人間と縮小人間との共生を目的とした学校だ。

だが、実態は名ばかりの学校で、縮小人間の有力な権力者の主張を宥める目的で国によって作られた数ある高等学校の一つにすぎない。


校内では通常人間からの縮小人間への虐めや傷害が多発し、最悪の場合、死に至るケースも少なくない。


そのような劣悪な場所に通うのは私、藤堂 紗奈だ。

そんな学校に入れさせられたのは親のせいだ。縮小人間の家庭であったこともあり、貧困生活を強いられていた。


そんななか、先程述べた学校に入学することで多大な給付金を国から支給されるのだ。まぁ、入学するにあたって様々な誓約書を書かされることになる。


もちろん、そこには「もし、万が一死亡してしまった事態が起きても自己責任である」のような文も見つけたが。


だがそれぐらいならと両親はすぐに了承をして、私は入学することになってしまったのだ。


実際、入学してみるとほんとに酷い環境だった。縮小人間の生徒は、ほとんどが虐められていた。


ある者は蹴飛ばされ、ある者は靴の中に入れられ、ある者は靴や素足を舐めさせられ、ある者は指で虐められ、ある者は服の中に入れられるなど、上げたらキリがないほどである。


しかも私は何度か、縮小人間が殺される場面を見た。


気付かずに踏み潰される、指ですり潰される、反論したら踏み潰される、教師にお仕置きと表し踏み潰される、靴の中に入れられ踏み潰される、下着の中に入れられすり潰される。


様々なところで殺される場面を見た。


やはり最初は恐怖や、踏み潰された死体に吐き気を催し、衰弱していった。


だが、人間とは慣れてしまう生き物だ。様々な死の場面を見ていくうちに慣れてしまった。


戦争ならいざ知らず、平和な世界で、しかも学校という空間において死への耐性が付くとは思わなかった。


ほんと、酷いところだ。


しかし、悪いことばかりではなかった。

クラス委員長である、山下 茜という通常人間の存在だ。


彼女は縮小人間に対しても同等の優しさを振る舞いてくれる。そんな優しい彼女は通常人間、縮小人間問わずクラス中から慕われている。


私も何度か彼女に助けられていた。通常人間になにかされそうなとき、毎度のごとく私を救ってくれた。しかも、どんな場面においても必ず姿を表す。


私からしたら感謝してもしきれない人だ。


通常人間でほんとに優しいのは彼女ぐらいであろう。



□□□□□



今日は平日。

学校に通わなければいけない。


縮小区画にある家から外にでる。そこには家が近く、同じ学校に通うクラスメイトでもある親友の遠山 麻希が待っていた。


「おはよー!紗奈ちゃん!」


「おはよ、麻希。」


朝から元気な麻希につられ、私も微笑みながら挨拶に応える。


ほんと元気で明るくいい子だ。麻希のおかげで楽しく学校に行けていると言っても過言ではない。


山下さんは通常人間なのでまた別ということだ。やはり、同じ縮小人間で親しい人がいるとだいぶ心が休まる。それに麻希の元気さは私を暖かく包み込んでくれる。


悪いことばかりではない一つに麻希の存在がある。


他愛ない会話をしながら学校に向かう。

やはりいくら慣れたとはいえ、憂鬱なものは憂鬱だ。


いつものように縮小人間専用の通路を通り教室に向かう。


教室に着くと、縮小人間用のスペースにある自分の机にいく。


教室を見渡すとやはりと言うべきか通常人間は大きい。私たち縮小人間は3cmほどしかない。それゆえ、通常人間はまるで怪物のように感じる。


麻希と話しながら一限目の授業の準備を行う。

教科書や筆記用具を準備していると聞きなれた声が上から降ってくる。


「藤堂さん、おはようございます。」


「うん、山下さんもおはよ。」


その声の主は山下さんだった。丁寧にお辞儀をし、微笑みながらこちら見下ろしている。

やはり綺麗な人だった。思わず見惚れてしまう。亜麻色のストレートの髪、整った顔で切れ長なまつ毛、いつも優しく微笑む彼女は学校のアイドルと言ってもいいほどだ。


いつも、教室に入ると真っ先に私に声をかけてくれる。それがちょっと嬉しい。


「ひゅー、愛されてますなぁ。」


「うるさい。」


いつも後ろの席の麻希はこうして、私の肩を小突きながら私をからかってくる。



□□□□



今日も授業をこなしていく。代わり映えのしない授業を淡々とこなしていく。


いつの間にか、昼休みになっていた。


麻希と机を合わせて持ってきた弁当を開ける。


「うまそーな弁当ですなぁー!

ちょっとちょーだい!」


「しょうがないな……。」


自慢ではないが、両親が共働きなためいつも自分でご飯や弁当を作っているので少しは料理ができると自負している。


そんな私の弁当を狙ってしょっちゅうこうやってねだってくる。最初の頃こそ、あげていなかったが、あげないとずっと拗ねるのでこちらが根負けして今ではあげている。


んっと雛鳥のように口を開けて待っているので、まるで親鳥になったみたいに思い、くすりと笑いながらおかずの一つを口に放り込む。


「んまいっ!やっぱり紗奈ちゃんの料理おいしいっっ!」


「そりゃどうも。作ったかいがあるよ。」


やはり自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのは気持ちがいい。それに麻希の幸せそうな笑顔も相まってこちらも自然と笑顔になる。


私はあまり表情が顔に出ないやつだったが、高校に入り、麻希に会ってからだいぶ表情が柔らかくなり笑顔も出るようになった。


麻希とは今後もずっと仲良く友達でいれるだろう。腐れ縁と言うべきか、一生なにかしらで繋がっていると思う。


ふと、こちらに視線が向いているように感じる。


見上げると、縮小人間用のスペースのすぐ後ろの席である山下さんがこちらをじっと見つめていた。


視線が合うと、こちらから微笑みかけながら手を振る。


山下さんはというと顔を真っ赤にしながら俯きながらお弁当をもそもそと食べ始める。


具合が悪いのかな?とも思ったがこちらのサイズ差ではどうにもできないのでとりあえず視線を戻す。


「どうしたのー?」


「いや、山下さんがこっち見てたから手を振っただけだよ。」


「ふむふむ。まあいいけどー。」


そう言いながら頬を膨らまし、不機嫌そうな顔になる。


「良くなさそうだけど。」


「なんでもないもんっ。」


「まあまあ、機嫌直してよ。」


膨らんだ麻希の頬をつつきながら微笑む。


「うー。じゃあもう一個おかずちょーだい!」


「はいはい。」


いつまでも拗ねているのはめんどくさいので苦笑しながらおかずの一つを口に放り込む。


「はぁー幸せー!」


おかず一つで機嫌が直るなら御の字だ。


またなにか視線を感じたが気のせいだと自己完結しつつ、残りの弁当をかき込んだ。



□□□□



その後、午後の授業を眠気に耐えながら消費していく。

気がついたら放課後だ。


いつものように帰り支度をして麻希に声をかける。


「麻希、一緒に帰ろ。」


「ごめん紗奈ちゃん…。今日提出期限の課題が終わってないから先に帰ってて…。」


心底嫌そうに顔をへの字にしながら言ってくる。


「あれだけやれって言ったのに。

まあ、いいや。また明日ね。」


「うー。紗奈ちゃんと帰りたかったー!

明日も紗奈ちゃん家の前で待ってるねー!」


「自業自得でしょ。それじゃね。」


「じゃあねー!明日は一緒に帰ろうねー!」



初めて一人で下校することに少し寂しさを覚えつつ、明日は一緒に帰れるからと自分自身に言い聞かせる。

知らずのうちに意外にも麻希に依存していたようだ。



…しかし、私の胸の中には嫌な予感が浮かんだ。



□□□□



翌日の朝、普段通り弁当を作って家を出る。


昨日の嫌な予感はまだ拭えないでいた。

それは現実となった……。


いつも家の門前で待っている麻希の姿はどこにもなかった。


思わず、近くにある麻希の実家に駆ける。


何度かインターホンを鳴らすと中から悲痛な面持ちの麻希のお母さんが出てきた。


「あの、麻希さんの友達の藤堂紗奈といいます。麻希さんはいらっしゃいますか?」


「よく話は聞いているわ、紗奈ちゃんね。

麻希なんだけど……。」


少し言い淀んだあと、今にも泣きそうな声で続ける。


「昨日から家に帰ってきてないの……。

学校にも電話をかけたけどまだ分からないって……。」


「そんな……!」


続いた言葉は残酷だった。

学校からこの縮小区画は専用の通路で繋がれていて道に迷うこともない。

帰っていないということは学校でなにかあったということだ。


その場合、縮小人間は無事に帰ったことはほぼない。


目の前が真っ暗になる。

麻希がいなくなった。

心に大きなひびが入り、砕け散っていく感覚に陥る。


「紗奈ちゃんはいつも麻希といたのよね?

放課後になにかあったの?」


「放課後も麻希さんはいつもと変わりはありませんでした…。たまたま昨日は麻希さんとは下校が別々になってしまって…。

それから姿は見なかったです…。」


「そう……。もしなにか分かったら連絡をしていただけるかしら?

こちらでも捜索願は出すつもりだけど…。」


「分かりました。私の方でもできる限りのことはさせていただきます!

麻希さんとはほんとに仲良くしていただいたので…!」


「ありがとう。よろしくね。

と、そろそろ行かないと学校に遅れちゃうわよ。」


時間を確認するといつの間に登校時間が迫っていた。


「すみません!

それではまた……!」


軽く会釈をして急いで学校に向かう。

隣りに麻希がいないとやはり気が狂う。

当たり前のようにいた存在がいなくなってしまうということはだいぶ大きい。

それほどまでに麻希の存在は私の中で重要なものになっていたのだ。



□□□□



なんとか遅刻せずに教室に着くと、自分の席に座る。後ろからの小突きも元気な明るい声もない。


改めて麻希がいなくなったと実感すると心が虚無感に襲われる。


自然と私の瞳から涙が流れる。

慌てて拭うも次から次へと溢れてくる。


「どうしたんですか?藤堂さん。」


「山下、さん……。」


声がした方を見上げると、山下さんが縮小人間用のスペースギリギリまで近づき、しゃがみながら心配そうにこちらを見下ろしている。


私は思わず席を立つと山下さんに駆け寄る。

自分の何倍もある巨大な右足のローファーに抱きつき涙を零し嗚咽を漏らしながら抱きついた。


「麻希が…麻希がいなくなっちゃった……!」


「そう、なんですね。

大丈夫ですよ、私がいます。」


ローファーに抱きつく私に優しく言葉をかけながら人差し指で優しく頭を撫でてくれる。


私の身長よりもでかい人差し指に撫でられ少しは心が休まる。


ローファーから体を離すと撫でてくれている人差し指にぎゅっと抱きしめる。


私の行動に一瞬、呆けていたがすぐに顔を真っ赤にしながらも安心させるように微笑みかけてくれる。


「大丈夫、すぐに見つかりますよ。」


「うん…。」


そんなとき、ホームルームの鐘が鳴る。

その音にビクッと驚きながらも指から体を離すと、恥ずかしさを紛らわすように小さく「ありがと」とつぶやくと自分の席に戻った。




麻希がいない今、私には山下さんしかいなかった。


一気に周りが暗い世界になった今、山下さんが唯一の私にとっての光だ。


もう大切な人を失いたくないと思う私は山下さんに依存していった。


そんな私に嫌な顔見せず、色々と親身に話しかけてくれた。


ほんとに優しい人だ、山下さんは……。




ーーーー




その後、麻希はついぞ戻ってこなかった。

捜索願も打ち切られ、葬式もあげられた。


私は涙が枯れるまで泣き続けた。


死については慣れたつもりだった。


だがそんなことはなかった。


たまたま帰りが別々になった。


それだけで一生続くと思っていた日常が壊れ去った。


こんなことがあっていいのか。

誰に言うでもなくそんな風に私は一人つぶやいた。



麻希はいなくなってしまった。

だけど私には茜さんがいる。


彼女のおかげで私の心は壊れずに済んだ。


これからは茜さんがいるから大丈夫。


……そう、胸に刻み込んだ。




□□□□□




最近増えてきた縮小人間と共同の学校に入学した。

縮小人間をちゃんとは見たことがなかったので好奇心もあった。


いざ入学してみると縮小人間は私たち通常人間と違ってほんとに小さかった。

少し触れれば壊れてしまうような存在。

そんな彼女達だからか、周りの子はよくいじめていた。


周りの子は意思を持つ虫をストレス発散にいじめているような感じだった。仲のよかった優しい子も彼女達をいじめていたのには驚いたけど。


楽しそうにみんないじめていた。

意思のある玩具で遊ぶように。


しかし、こちらはちょっとしたいじめでも彼女達には生死に関わる。


そんな中で事件が起きた。

同じクラスの通常人間の子が縮小人間の子と口論になり、そのまま踏み潰してしまったのだ。


踏み潰されてしまった縮小人間の子の死体は無惨に真っ平らになり血や肉塊が飛び散っていた。


私は軽く吐きかけてしまった。

なぜこんなことをするのか、人を殺してよく平然としていられるのか。

私には到底理解できなかった。


それからはできるかぎり、縮小人間の子へのいじめを諌め続けた。



そんなおり、ある一人の縮小人間の子がいじめられそうになっているのを見た。


咄嗟にいじめを止めると縮小人間の子を安心させるように話しかけた。


「もう大丈夫だからね?」


「ありがとう、山下さん。

助かりました。」


「いえいえ。

クラス委員長として当然の行いです。」


その縮小人間の子をじっと見つめると瞬間、私の体に電流が走ったかのような衝撃が走った。


中性的な顔立ちでショートカットの彼女、名前は藤堂 紗奈さん。


人生で初めての一目惚れだった。


それからは彼女のことをよく目で追うようになった。


いつも気だるげな顔ながら笑うととてもかっこよくて可愛い。


自分でもまさか縮小人間、そのうえ同性に恋をするとは思ってもいなかった。

だけど彼女を好きになってしまったのだ。

恋に普通もなにもない。人を好きになるのは自由だから。


恋は落ちるものとよく言われるけどまさにその通りだ。


私は恋に落ちてしまった。藤堂さんに。


自分の気持ちに気づいてからは積極的に藤堂さんに声をかけた。

最初こそ、恐る恐るといった感じだったけど、今では微笑みかけながら挨拶を返してくれる。


その微笑みを直視できなくて、よく顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまう。


好きな人に笑顔を向けられたら誰でも嬉しくて、照れるでしょ…。



□□□□



そんななか、普段通り藤堂さんを机から見つめているとあることに気づく。


藤堂さんは後ろの席の子、たしか遠山さんだっけ。


すごく仲が良さそう。いつも一緒に行動している。登下校も一緒のようだ。


最近はよく藤堂さんのお弁当をあーんしてもらっている。話を聞くかぎり藤堂さんの手作りのようだ。


羨ましい…。私はあーんできないのに…。

しかも、藤堂さんも楽しそう…。

なんで遠山さんなんかと…。

私でもいいじゃん…。

遠山さんばかりずるい…。



遠山さんなんか死んじゃえばいいのに。



私の心の中に自分でも驚くほどの、どす黒いどろりとした感情が湧き上がってくる。こんな風に人のことを思ったことは今まで一度もなかった。


遠山さんが憎い…。

私の藤堂さんを奪って…。

藤堂さんと楽しそうにお弁当食べて…。

私も食べたいのに…。

いつもまとわりついて…。


一度考えてしまうと遠山さんへの怨嗟の感情が止まらない。次々に胸の奥にマグマが流れ出すように溢れ出てくる。


だんだんと私は遠山さんへの恨みと殺意にまみれていった。


これが生まれて初めての嫉妬という感情なのか。



□□□□□



私は虎視眈々と遠山さんを殺す機会を伺っていた。昔の私ならそんなことを考えもしなかっただろう。でもこの胸に渦巻く感情は強大だった。



ついに機会が訪れた。


その日は珍しく藤堂さんと遠山さんは別々で下校するようだった。

いつもは一緒に帰っているのに今回は遠山さんに課題が残っていて学校でやるようだ。


ちょうどいい。

昼休みに藤堂さんにあーんしてもらっているのを見てイライラしている。


藤堂さんが帰るのを見送ったあと縮小人間用のスペースに近付きしゃがむ。


「遠山さん、お話があるのですがちょっとよろしいですか?」


「えっと、大丈夫だよー。」


少し首を傾げたあと、いつもの元気で明るい顔になりながら肯定する。


これから殺されるとも知らずに呑気なものです。


「では手のひらに乗ってもらっていいですか?

ここでは話しにくいので。」


遠山さんの近くに手のひらを上にしながら下ろす。


「了解ー。よいしょっと。」


踏ん張りながら私の手のひらによじ登り、手のひらの真ん中まで歩いてくるのを確認すると振り落とさないように立ち上がり歩きだす。


人目につかない場所がいいですね。

ですと学校の裏庭でしょうか。


目的地を決めるとさっそく歩きだす。


「まさか山下さんからお話に誘われるとは思ってもなかったよー。」


「そうですか?私はお話したいと思っていましたよ。」


呑気に話しかけてくる遠山さんにできるかぎり優しく微笑みかけながら、玄関に向かって歩いていく。。


「えっ?外に出るの…?

他にも場所が…」


少し不安げにこちらを見上げながら聞いてくる。たしか、縮小人間はみんな専用の通路を通って学校に通ってるんでしたっけ。

それなら外の世界は初めてか。


まあ、そんなことはどうでもいい。


「裏庭でお話しようと思いまして。

そんなに怖がらなくていいですよ。」


「そ、それならいいけど…。」


遠山さんの問いを適当に返しつつ裏庭に着く。


辺りを見渡しても人のいる気配はない。

殺すのにはうってつけだ。


「さて。

お話があると言いましたがあれは嘘です。」


「えっ、それはどういう…。」


「遠山さんを誘う口実です。

本当は貴女を殺すためです。」


「そんな…!どうして…!?」


「分かりきったことを。

藤堂さんと仲良くしているからです。」


「だって、紗奈ちゃんは初めてできた親友で…。」


「そんなことはどうでもいいです。

それに私でもまだ呼べていない下の名前を…。」


「うぅ……。だって、紗奈ちゃんがそう言っていいよって言って……。」


「このっ……!」


遠山さんの言葉に思わず手に力が籠り、遠山さんごと握り締めてしまう。


「あがっぅっっっ!?」


頭だけ握り込められた人差し指の間から出ていて涙を流し、吐血してしまいながら苦しげにもがく遠山さんの顔が見える。


そんな苦しげな表情の遠山さんに、ゾクゾクと快感が漏れでる。


たしかに、いじめる子たちの気持ちが分かった気がします。

抵抗することもできずにされるがままに弄ばれるだけのか弱き存在。

そんな現実に否が応でも興奮してしまう。


「やめっっ……。ゆる、して……。」


苦しみながら微かに声をひり出す遠山さんの姿に楽しくなってしまい、何度かぎゅっぎゅっと力をわずかに込めたり緩めたりと遊んでしまう。


その度に「かはっ!!」「ぐふっっ!!」「うぐぅっっ!!」と声をあげる遠山さんを見るのが楽しい。まるで、お腹を押すと音が出る玩具のようだ。


「とっ、目的を忘れていました。

私としたことが…。」


指を開き手のひらを見ると、力なく手のひらに倒れながら苦しげに浅く呼吸する遠山さんが現れる。


「もうだいぶ弱ってますね。

ほんと弱い存在です。」


「はぁ……はぁ……。ゆる、して……。」


「ふふ、嫌です。

遠山さんにはここで死んでもらいますから。」


そう死刑宣告を口にすると、ただでさえ青くなっている顔をさらに青くし、恐怖で引き攣らせながら必死に命乞いをする。


「なんでも…。なんでもするから殺さないで…。お願い…。殺さないで…。」


涙をボロボロ流しながら懇願する遠山さんにキッパリと言い放つ。


「なんでもするって言いましたね?

では死んでください。」


遠山さんに微笑みかけながら手のひらをくるり遠山さん返すと地面に向かって落ちていく。


「いやぁああああああぁぁぁ!!??」


悲鳴をあげながら地面に激突する。運がいいのか悪いのか地面が比較的柔らかい土であったこと、足から落下したため足の粉砕骨折で済んだようだ。


「いだいっ…!いだいよぉ…!死にたくないっ…!いやだぁっ…!」


ふんっ。いい気味です。藤堂さんと仲良くしなければ殺さなかったものを。


ですがさすがにこのまま放っておくのも可哀想ですね。


「ほんとは靴が汚れるのであまりやりたくないですが踏み潰してあげますね。」


そう言うと右足をあげ、ローファーのつま先部分の靴底を遠山さんの体に合わせる。


「たすけ、て…。さなちゃん、たすけて…。

まだ死にたくない…。いやだ…。

さなちゃーーーー」


ーーぶちゅっぐちゃぁぁっーー


ぶつぶつとなにかつぶやいているのを無視してそのままつま先部分で遠山さんを踏み潰す。踏み潰した瞬間、体が弾け飛び血などが飛び散る音と感触が足に響く。



ジーンと快感が足を伝って体中に響き渡る。


気持ちいいっ…。こんな快感初めて…。

癖になりそう、、、。


快感の余韻に浸りながら左右に足を振り、じっくりと遠山さんの死体をすり潰していく。


あの縮小人間を踏み潰した子もこんな気持ちだったのでしょうか。


これはたしかに踏み潰したくなります…。



何度か踏みにじったあと、このままだと見つかってしまう可能性を考えて周りの地面から土を削り集め、遠山さんの死体に被せると両足で足踏みしながら均等にする。


「ふぅ。これでいいでしょう。

さて帰りますか。」


私はスッキリとした気分で家に帰宅した。

あまり意味はないが水でローファーを洗い流した。



邪魔者は消えた。

これからはたっぷり藤堂さんを堪能できる。



□□□□□



翌朝。


いつもより晴れやかな気分で学校に登校する。

教室に着くとまだ藤堂さんは来ていないようだった。



早く藤堂さんに会いたいな…。


しばらくし、ホームルームが始まる5分前になったぐらいでやっと藤堂さんが登校してくる。


酷く元気がなく今にも泣きそうな表情で席に座った。

すると少し後ろを振り返ったあと、涙を溢れさながら嗚咽を漏らし始めてしまった。


なにか悲しいことでもあったのでしょうか?


私はいてもたってもいられず、縮小人間用のスペースギリギリまで近づくと藤堂さんに声をかける。


「どうしたんですか?藤堂さん。」


「山下、さん……。」


声をかけた途端、席を立ち私の右足のローファーに抱きついてきた。


思わず動揺してしまった。


「麻希が…麻希がいなくなっちゃった……!」


遠山さんの名前を言っている。あの女はどうでもいいでしょうに。


だけど、それ以上にその遠山さんを殺した足に、ローファーに抱きつく藤堂さんがおかしくて愛おしくてたまらなかった。


なんとか平静を装うと務めて優しく言葉を返す。


「そう、なんですね。

大丈夫ですよ、私がいます。」


しかし、ローファーに抱きついている藤堂さんに思わず、人差し指で優しく頭を撫でてしまった…。


だけど、撫でてあげると少しホッとしたような安心したような表情になってくれた。


すると、ローファーから今度は小さな体で私の人差し指をぎゅっと抱きしめてきた。


藤堂さんの行動に一瞬、呆けてしまい顔が一気に茹でダコのようになってしまいながらも、辛そうな藤堂さんを安心させるように微笑を浮かべた。


「大丈夫、すぐに見つかりますよ。」


見つかるはずもなく、現に私が殺しているけどとりあえず藤堂さんの心を休めるように嘘を並べる。


「うん…。」


そんなとき、ホームルームの鐘が鳴った。

藤堂さんは驚いたように私の人差し指から離れる。


まだ藤堂さんの温もりが残ってる……。


先生が教室に来る前に席に戻ろうとしたとき、恥ずかしそうに小さく「ありがとう」とつぶやく藤堂さんに思わずキュンってなってしまった…。


ほんと、藤堂さんは可愛い……。



□□□□



その日を境に私は紗奈さんに積極的に話しかけた。

数日はずっと辛そうな表情のままだったけど、2、3週間経つと笑顔も戻ってきた。


今では、山下さんではなく、茜さんって呼んでくれる。それに私も紗奈さんって呼んでいいって言われました!


その時のことは今でも覚えています!


遠慮がちに恥ずかしそうに言ってくれた紗奈さんは可愛すぎて思わず撫で回してしまいました…。


あっ、もちろん今でも気軽に仲良くなろうとする縮小人間さんは駆除していますよ?


ほんと紗奈さんはタラシなところがあるので色んなのが寄ってくるんですよね。


駆除するこっちの気にもなってほしいものです。


私と同じ通常人間の子たちには絶対に紗奈さんをいじめないようにと忠告しています。


私の紗奈さんをいじめるなんて万死に値しますからね!



(閑話休題)



まあ、まだ恋人にはなれていませんがもうすぐでしょうっ!


これからが楽しみです……!



絶対に紗奈さんは誰にも渡しませんからね?

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