第6話 始まり

 ストレスとは、外部からの刺激によって身体や心に負荷をかけ様々なら不調を引き起こす事。

その不調は、個体によって様々な症状が見られ、一括りに説明する事は出来ない。


かの有名な精神科医師東名とうめい教授は、助手の西園寺さいおんじと共に以下の論文を出した。


 性別も人種も年齢も異なる2人の人間を外界と完全にシャットダウンした部屋に1週間、閉じ込めどんな反応を示すかの実験を行った。


初めの3日間は、2人は変わらずに生活を行なっていたが、4日目の朝に異変は起きた。

実験体Aは、20歳アフリカ人女性。とても活発で明るく友人も多い。常に外で誰かと行動を共にしている。

とてもポジティブな性格をしており、今回の実験にも「面白そう」と言って前向きに参加していた。


しかし、彼女にとって何日も誰かと会えない事は、この上ない苦痛でありストレスであった。

この時の脳波や採血結果など確認すると、通常の3倍以上のコルチゾールを始めとするノルアドレナリンなどのホルモンが分泌されており、彼女はかなりのストレスを感じていた。


片や実験体Bは、40歳日系アメリカ人男性。10年以上、自宅から出た事がない、引きこもり。

彼は彼女と対照的に全くストレスを感じておらず、1週間の間もホルモンバランスを均等に保っていた。


この実験はその後も被験者を変え、複数回行われ、一つの答えが導き出された。


それは、全く同じ事柄でも受け手によって感じるストレスには個人差があり、放出されるホルモンの量にも差が出てくると言う事。


東名教授はこの実験結果にとても満足していたが、

現トゥルトピアの社長、西園寺重三郎はこの時に、人間がストレスを感じるとホルモン以外にも、ある緑色のガスを放出している事に気がついていた。


これが、俗に言う「NEGA」であり、トゥルトピア創設の始まり。

その後、西園寺重三郎は、教授の元を去り、独自に研究を重ね、40年後の現代にノーストレス社会を作りあげたのである。


だからこそ、今回の猟奇的事件は病院にとっても警察にとってもトゥルトピアにとっても一大事。

報道陣は連日、病院に詰めかけているが、警察の協力もあり、何とか院内への侵入は阻止されている。


「アイツらに事件の話したら、金くれるんかな?」

「さぁ、多少は貰えると思いますが、さすがに不謹慎じゃないですかね?」

「冗談だよ。さすがの俺もそこまで馬鹿じゃねーよ」

と、外を見下ろしながら、進んでいると2人の警備員が厳重に管理している905号室前に到着した。


畳矢が警備員達に事情を説明し、中に入る許可を得る。

「いいですか。今から3人で中に入ります。まずは私から行きます。その後で合図を出すので、入ってきて下さい」

「わかりました。きっと彼女も事件の事で傷ついてると思いますし」

素直に従う甘木であったが、武藤は違う。

「面倒くせーな。どうせ、話するなら、さっさと済ませるぞ」

「あ、ちょっと駄目ですよ」


畳矢の段取りは、身勝手にドアが開かれた事によって簡単に崩れる。

「失礼しまーす」


結局、武藤を先頭に3人が病室に入ると、そこにはベッドに腰掛け、テレビを見て大笑いしている山下つぐみがいた。

「さすがパーリーエンジェルズ。3人とも可愛いのに、ばり天然じゃん!」

 画面には、パーリーエンジェルズの3人がクイズ番組で不正解を出し、司会者にイジられているシーンが流れている。


 更に3人が驚いたのは、部屋中に飾られた大量のパーリーエンジェルズのグッズ達。

ポスターからぬいぐるみ、写真まで設置されており、まるで山下の自宅におじゃました様な錯覚を覚える。


あまりにも明るい雰囲気の病室に一同は固まってしまうが、そんな3人の気配を背後から感じた山下は、テレビから目を離して振り向く。


「あ、あの時に止めてくれた2人ですよね。あの時は、ありがとうございました」

 甘木は、武藤が眉間にシワを寄せているのを見逃さなかった。

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