第3話 赤い影
賑わいを見せる公園。
草木生茂る住民達に愛される憩いの場。
子供から老人まで年代の壁を超えて過ごせる楽園が赤い2人の登場により一気に崩れた。
逃げ惑う住民達の足音は悲鳴で聞こえない。
もう、ここには心地良い黄色い声など残ってはない。
あるのは、1台のNEGA
走り去って行く住民達を横目に武藤は男を抱き上げる。
そして、脳裏に浮かぶ言葉は周囲と同じ「逃げる」のみ。
女が目に入った瞬間、異様な空気をすぐに察した。
ここからは、考えてる余地はない。
「おい、しっかりしろ。お前も逃げるぞ」
武藤は男に肩を貸して、助手席側へ移動する。
だが、男は一歩踏み出すたびに膝を崩し中々、前に進めない。
「すみません。もう、力が入らない」
「くそっ! マジかよ。おい、甘木早くドア開けろ!」
武藤は力一杯に
「これだから、今の若い奴は使えねーんだ」
武藤は抱えたまま、何とかバンパー前まで進んだが、男が力付き、その場に伏せてしまう。
「ヤバいな」
武藤は一旦、男をその場に置き、四つ這いで運転席側へ移動する。
常軌を逸したあの女と自分達との距離を再確認する為に。
武藤は流れる汗が目に入らないように拭い、フロントタイヤ越しに顔を覗かせる。
「確か、さっき見た時は20mは離れていたはず」
震える身体を落ち着かせながら、左右へ何度も相手の位置を確認するが、血塗られた
武藤は、体を前のめりに出して、念のためと後方を確認したが、やはり姿は見当たらない。
「とりあえず、別の所へ行った様だな」
一気に安堵する武藤。
全身の毛穴から汗が噴き出てくるのを感じた。
しかし、こんな状況で、くつろぐ訳には行かない。
「まずは、警察だな。いや、救急車が先か」
武藤が馴染みのガラケーを開き、番号を打とうとした時、目の前に一滴の汗が落ちた。
初めは自分のかと思ったが、それにしては座っている位置と落ちた位置の距離が遠すぎる。
倒れた男に目を向けるが、動いた形跡すらない。
じゃあこの汗は誰のだ?
脳裏に1つの疑問が浮かんだと同時にそれへの解答が九九の暗唱の如き速さで導き出された。
武藤は自身の影が更に拡大し、落ちてくる滴が赤色に染まった時、
「おいおい、マジかよ」
男を見るその目は、誰が見ても分かる憎悪の塊。
武藤は血塗れ姿よりも、その目の方に強烈な恐怖を感じた。
女は武藤の事などには目もくれず、包丁左片手に長い黒髪をなびかせて、瀕死の男へ駆けて行く。
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