episode:3-14 【晴読雨攻】
「……とりあえず、手袋の能力者が別でいるかを判断するのが先決かなぁ。あの人に手袋を動かさせて、無理だったらその結論が正しいって感じで」
「素直に従うわけないだろ。爪でも剥いでいくか? そうすれば交感神経系の方が優位になるから異能力が使えなくなるが」
「……心を読む異能力を使うとか?」
「そんな便利な奴はこっちにいない。……相手も抜け出すことが前提だろうから、もっと直接的に破壊とか出来る異能力者だろうが」
「うーん、難しい。角さんを叩き起こして聞いてみる?」
酔っ払いの言葉が参考になるとは思えなかったので断る。
それならまだセーラに連絡するか、ヨミヨミにと話すかした方がいいだろう。
「普通に嘘を教えたらダメかなぁ」
「嘘ってのは嘘だとバレたら、真実が透けるんだよ。何を隠したがっているのかが分かってしまう」
「アキトくんなら、それを織り込んだ上でいい感じに騙したり出来ない?」
「日本人相手なら出来るだろうが、外国人の思考ルーチンなんて分からないから無理だ。特に、未知の国だしな」
軽くため息をつきながら運転していると、身体をゴロリと起こした角がバックミラーに映る。
「……イーデンの話か? 未知の国って」
「イーデン?」
「あ、違ったか」
「いや、国名は聞いてなかったから分からない。色んな人種が混じった、混血が多い国だそうだ」
「ならイーデンだな。……あー、話を聞いた感じから一応候補には入れてたけど、最悪のパターンだな」
「……厄介なのか?」
「厄介ってもんじゃねえよ。現状マトモなイーデンへの渡航方法がないから逃げられたら追うことが出来ねえし、アイツら倫理観が狂っているから平気で無茶苦茶をする上に、普通に強いんだよ」
「……普通に強いか」
「当然ピンキリだが、上の方になると有栖川とか蒼……ああ海の方で待機してる奴な、とかとどっこい程度の強さの奴も何人もいるし、平均もそこそこ高い」
角はちびちびと水を飲み、窓を開けてそちらの方へ大きくゲップをする。
俺が眉を顰めるが、彼は気にした様子もなく続ける。
「目的は……まぁ何かしらの技術研究だな。本来は個人の資質によるものが大きい異能力の汎用化ってところか」
「……汎用化、ね」
まどかは窓の外を眺めながら小さく呟いた。
「異能力者の最大の弱点は替えが効かないってことだからな。例えば世界が征服出来るって能力があったとしても、まともに運用出来るのは30年程度だ。んで、それ以降は何の継承もない。一気に色々変わるなら、そもそも使わない方が遥かにマシだ」
「まぁ、分からない話でもないな。一色のような天才も、今の今まで陽の目に当たっていないぐらいだ。人と大きく離れた物は、システムに組み込みにくい」
「特に、異能力者が多いイーデンでは汎用化はかなり重要な課題でな。あの国の犯罪の検挙率が2%程度だ」
「ああ、異能力を使った犯罪は検挙しにくそうだな」
「実際、イーデンにおいて異能力ってのはむしろ足を引っ張る材料でな。個々の資質に頼るからシステムに出来ない上、個人個人は犯罪に用いることが出来る。上としては、役に立たないのに取り除くことも出来ないものでしかない」
そう聞くと、よく成り立っているものだと感心してしまう。
「……ああ、なるほど。だから教育レベルが高く、技術力が高いのか」
「ああ、15世紀ごろには民主主義が発生していたという記録がある」
犯罪を見つける手段も、犯罪を止める手立てもないなら、あとは事前に犯罪を起こさないようにするしかない。
犯罪を起こすのは多くが食うに困っていたり、何かしらの理由で困窮している者だ。家族や友人、金や物、失うものがある人物はそれを守るために犯罪というリスクは犯さない。
極論、全員が犯罪を犯す必要がないほど裕福であれば、犯罪はほとんど起こらないだろう。
つまり、格差を減らす社会形態を早期に形成する必要がある。
「……汎用化したら、その分だけ格差が広がりそうなものだがな」
「まぁ、どっちの方が国としていいかは分からないが、お偉いさんからしたら、管理しやすい方がいいに決まっているだろ」
「よく分からないな」
「誰も、自分が幸せになるってのが一番だ」
飯を食って、好きな女と話す以上の幸せがあるのだろうか。
まぁ、俺はフラれたわけだが。
「今のところ、二種類の汎用化した異能力がある。魔法と技だ」
「……魔法か」
「RPGとかやるか?」
「数年前に一度やったことがあるな」
「どちらもそれと同じようなものだ。魔法は異世界の技術をほとんどそのまま流用したもので、技はイーデン独自のものだ。どちらもある程度の才や努力はいるが、異能力者なら使うことが可能……らしい。日本では使える奴はほとんどいないけどな」
「……国家事業ということか?」
馬鹿げたやり方だ。というか、なんで日本でする。
「流石に大々的にやっているとは思えないが、ある程度は絡んでるだろうな。まぁ、この国で嘗めた真似が出来ないよう、叩き潰す必要があるのは間違いない」
「俺としてはどうでもいいがな」
「私としてもどうでもいいやー」
「……お前らな、協調性とかないのか」
角の呆れ顔に、俺とまどかは答える。
「一色が無事なら他はどうでもいい」
「私に出来る範疇超えてるからね。目標を立てるときは、自分一人で出来ずに人に頼るのを前提とした目標にはしない主義なんだよ」
多少酔いが醒めたのか、そもそも、実際はそこまで酔ってはいなかったのか。 角は赤らんだ顔を徐々に冷ませていきながら、微かな笑みを浮かべる。
「なんだよ、ニヤニヤと気持ち悪い」
「アキトくんって、シキちゃんとヨミヨミくん以外にキツイよね。だから友達いないんだよ」
「いらない。それで角、なんだ」
「いや、青春してるな……と思ってな。好きな女の子のために必死になるってのは。俺も経験があるぞ、そういうの」
「フラれたとこだけどね、アキトくんは」
「ほっとけよ……」
どんどん話が脱線していく。俺がフラれたこととか、わざわざ話す必要のある事柄でもないだろ。
「いや、分かるぞ時雨の気持ちも。俺も経験があるぞ、そういうの。女ってのは、結局イケメンが好きなんだよな」
「やめろ、聞きたくない」
「俺たちみたいなのがいくら必死になって守ろうとな、イケメンにちょっと話しかけられたらすぐにころっといっちまって……。こっちがちょっと愚痴ったら、恩を着せて無理矢理迫ったとか噂を広められてな……」
「やめてくれ、一色はそんなことしない」
「数ヶ月後には別のイケメンとくっついていてな。かと思ったら、金持ちと結婚してた。ちなみに式には呼ばれなかった」
「一色はそんなことしない。一色はそんなことしない」
「アキトくん、ちゃんと前を見て」
ヨミヨミがいる場所は車では入りにくい場所らしく、車を駐車場に止めて降りる。
まどかはヨミヨミに電話をし、俺は大きくため息を吐き出す。
「ま、頑張れよ、坊主」
「うるせえ。もう頑張ったんだよ。頑張ったうえでフラれたんだよ」
「……どんまい」
「やめろ、雑な励まし方は」
いちいちこのおっさんは癪に触る。
まどかに連れられて、三人でヨミヨミの元に向かった。
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