第11話 事件解決


 最後の大迫小夏のセリフを見て、怠惰は息を飲んだ。

「これ……まさか。『溺愛』だったのか?」

「『誰何』は黒部星夜として殺され、『溺愛』は大迫小夏として留置所にいる。どうしてそんなことになっているかは分からないが、それが現状だ」

『正義』は吐き捨てるように言った。

「ほら、まだ続きがあるんだろう? 問題は最後まで読まないと」

『最強』は先を急かした。




 ◆



 刑事 ヒゲミヤ -2-


 >しかし、俺は既にこの中から、犯人を一人に絞っていた。

 >それは、あることに起因するのだが……。


 >「大迫小夏が真犯人だ。取調室で、俺の推理ショーを披露しようじゃないか」

(第6話 現実(2)より)


「って、これってただ単に、黒部星夜が死んでいるから、残った大迫小夏が犯人だって言ってるだけですよね?」

 コバヤカワのツッコミに俺は開き直る。

「当たり前だろう。バラバラ殺人で自殺なんて有り得ないからな」

 2人のうちどちらかが犯人。1人が死んでいるなら、残った1人が犯人だ。

 二者択一。ちゃんと俺は選んだぞ。

「尾藤が別荘に帰り、香嶋の遺体を発見した時、テラスに人影はありませんでした。大迫と黒部以外の全員がオフィスにいる時に、テラスに黒部の腕が見えたと、全員が証言しています。その時にテラスにいたのは大迫小夏。黒部を殺害できたのは大迫しか考えられませんね」

「推理をするまでもないな」

 香嶋の遺体を発見してから、一度オフィスに戻った4人。尾藤、青山、桐文字、九十九塚。彼女たちはその後、テラスの異変に気付くまでオフィスを誰も出ていないと聞くし、大迫小夏以外に犯行は不可能だろう。

「でも、テラスに黒部をバラバラにした凶器は無かったですね。一度大迫は凶器を始末してからまたテラスに戻ったということですか?」

「それならオフィスに何喰わぬ顔して戻った方が怪しまれないだろうな」

 あそこまで遺体を損壊した凶器。包丁などの調理用具の類はテラスのリュックサックの中にあった。被害者の血が付着していたが、いくらBBQ用のナイフは切れ味が良いとしても、あんなに遺体をぶっ壊せるものでは無い。

 犯人による偽装と見られている。そんなあからさまな見え見えの偽装、なんの意味もないが。

「倉庫にあったドリル。あれが凶器なんじゃないですか?」

 第一の被害者、香嶋氏が生前購入したという、月面掘削機のことか。

「馬鹿言え。確かにあれはバッテリー式で軽くて女性でも持ち運べるが、音がうるさい。あんなものを使っていたら、一発でバレるだろう」

 テラスの異変に気づいたのも、奇怪な音が鳴り響いたからだと聞く。

 月面掘削機の発する音は、耳を塞ぎたくなるほどだ。誰にも気づかれないように遺体を損壊しうるものでは無い。

「まぁ、宇宙では音は聞こえないからな。あれくらいうるさくてもどうってことないのかもしれないな」

「先輩、月に海があるのは知らないのに、宇宙に音が無いのは知っているんですね」

「まぁな」

「そもそも、どうして犯人は被害者の身体をあんなにバラバラにしたのでしょう?」

 俺の知識量に恐れをなしたのか、深い追及はされなかった。よかった。音が無いのは知っているが、それが何故かはよく知らなかったからだ。俺のささやかな知識量とプライドは守られた。

「隠しやすくしたんじゃないか? 運びやすくしたとか」

 頭部、胴体、両手、両足。手足は肘や膝から切られていた。いや、ちぎられていた。

 遺体の傷からは生体反応が見受けられなかったのが唯一の救いか。黒部は毒物で殺されていて、その後遺体を損壊されていた。毒物は香嶋を殺した毒物とはまた違うものだった。

「テラスに運んでは、隠すと言うより、見せびらかしていますよね」

 確かにその通りだ。玄関から外に運び出して、どこかに埋めてしまうというのが、犯人の行動としては正しい。

 今回の犯人の行動は、他の殺人事件の犯人とは違った思考を持っているようだ。

「あと、気になる点は何かあるか?」

「二点ほどあります」

「試しに話してみろ。何かひらめくかもしれない」

「はい。まず、現場に残されていた『珈琲缶』です。関係者の誰もが、テラスに持っていった覚えはないと証言しています」

「なに? また珈琲か? 毒でも入っていたか?」

「いえ。フタは閉まっていましたが、中身は空っぽでした。被害者の胴体の傍に転がっていましたね」

「中身が空っぽの珈琲缶? ただのゴミじゃないか。次は?」

「事件後の事情聴取で桐文字が話していたじゃないですか。テラスから、大きい鉄板がなくなっているって。あれ、別荘の庭で発見されたんですよ。テラスから落ちたみたいです」

「ほう……。で?」

「いや、気になったところと言ったじゃないですか。鉄板なんて普通落っこちないですよ?」

「大迫小夏の寝相が悪かったから落としたんじゃないか? テラスに桐文字と青山がやってきた時、らしいじゃないか」

「気を失っていた振りをしていたんじゃないですか?」

「そればっかりはわからないな」

 先日担当した、ガールズバーの殺人事件では、犯人をついぞ捕まえることは出来なかった。

 しかし、今回の事件ではすぐにでも犯人を検挙できそうだ。

 被害者の無念を晴らす!

 ついでに日頃の憂さを晴らす!!



「香嶋裕大を毒殺し、黒部星夜を惨殺した犯人は、大迫小夏で間違いない!!」




[問題編・完]

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