第12話 正義の天秤
僕は黒い冊子を閉じた。
なるほどね。ひとつの舞台装置でふたつの謎解きを仕込んでいたのか。『黒点』やるじゃん。
いや、これはあくまで僕の予想だけど、ふたつ目の事件は『黒点』の出題ではない気がする。名前だけ借りた別人。毒殺を好む『黒点』が、バラバラ殺人を嗜むだろうか。いや、バラバラ殺人と言っても、殺害自体には毒を使っているから……、思い過ごしだろうか。
「お前ら頭湧いてんのかよ」
『正義』は手にした鉄製の武器を床に叩きつけた。床にヒビが入る。
「『誰何』は殺された。事故じゃねぇ。このTRICK ROOMの馬鹿げたゲームに巻き込まれた被害者になっちまった。誰が悪い? 誰がアイツを殺したんだ!?」
「そうカッカすんなって。君だって、前に言っていただろう? 『殺されたやつが悪い』ってさ」
「じゃあ『誰何』が悪いってことかよ! そんな訳無いだろ!! あいつが何したって言うんだ!!」
「そんなのどっちでも良いじゃないですか」
黒い冊子と、白い冊子を交互に確認しながら、『狂鳴』はなんともなしに呟いた。
「犯人の動機とか、被害者の殺された理由とか、そんなもの考えたって意味ないですよ。このゲームに至っては尚更。これはゲームなんです。犯人がいかにして、警察に捕まらずに、僕ら参加者にもバレないように殺人を犯すか。そのトリックやギミックを推理する。これが主題です。そんなつまらない綺麗事や些事に惑わされないでください」
このゲームは、善か悪か。
殺人は、正義か罪悪か。
動機は正当か。
被害者に原因はなかったか。
そんなもの、このゲームにとって何ら意味をなさない。
「あなたの正義の天秤が、善か悪か、どちらに振れたところで僕には、
「なっ……」
正論をわめいて正しさの盾に隠れていた『正義』はうろたえた。そう。ここに正しさなんて皆無だ。
「その通りだ。『正義』。僕個人としては、『誰何』は悪くなかった。悪くない問題を考えていたと思う。ただし、爪が甘かった。僕らプレイヤーは、殺人者だが、殺されない保障はどこにもない。誰かにいつ何時、後ろから襲われたとしても誰にも文句は言えないんだよ」
「じゃあ誰なんだよ。アイツを殺したやつは一体誰なんだよ!!」
「それは推理しないと。『誰何』の仇をとりたいならね」
「わからない。わからないんです。何か、ピースが足りない……?」
「いいや。ピースは全部揃っている。その歪に欠けた枠に、バラバラのピースを当てはめていけばいい」
「その言い方だと、『怠惰』。最終的な解答は固まっている感じかな?」店主は楽しそうに、可笑しそうに笑う。
「まぁね」
「すごい……」
「教えろよ、『怠惰』!!」
「よしきた」
僕は椅子から立ち上がり、周りを見渡す。
「あらかじめ言っておくが、犯人は『溺愛』、つまり大迫小夏ではない。真犯人は別にいる」
キーポイントは以下の4つ。
社長室で月を見た時から、オフィスで月が欠けた時まで、他の容疑者は皆で固まって一緒にいた。
◆どうやって一瞬で死体を運んだのか?
◆遺体をバラバラにした凶器は何か?
◆何故遺体をバラバラにしたのか?
◆犯人は一体誰なのか??
「これらが答えられなければ、満点はあげられないな」
僕はまるで出題者かのように、周囲にうそぶいた。
[大問題編 終わり]
[解答編につづく]
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