第6話 紛れた小鳥
店内の倉庫にあったホワイトボードを引っ張り出して、『怠惰』は表を書いた。
「まず、スパロウが最初にホワイトの帽子と、コマドリのスカートをはいた。そのためホワイトは自分の帽子が無いからオウルの帽子、コマドリは自分のスカートが無いからホワイトのスカートをはいた」
スパロウ/ホワイト/コマドリ/カワセミ/ オウル
帽子 ホワイト オウル ? ? ?
スカート コマドリ ? ホワイト ? ?
「次に、カワセミの着た衣装についての言及を見よう」
>「まあまあ、ほらオウルの衣装も似合うじゃない、カワセミ」コマドリがなだめる。(第2話「願いをさえずる鳥のうた」より)
「このことから、カワセミはオウルの衣装を着ている。オウルの帽子はホワイトが既につけているため、カワセミが来ているオウルの衣装はスカートで確定する」
スパロウ/ホワイト/コマドリ/カワセミ/ オウル
帽子 ホワイト オウル ? ? ?
スカート コマドリ ? ホワイト オウル ?
「着ていた衣装の組み合わせを特定することに、何の意味があるんだよ」
『正義』が口を尖らせた。
「逆に、謎解きに意味がないことをなぜ文章にしているのか、を考えるんだ。誰が誰の衣装を着ていたか。一見意味のないことだが、かなりの分量を割いている。このことから、何かしらの意味があるんじゃないかって思って、僕は考えていたんだ」
>「さ、今度はきちんと私たちの服を着ましょうね!」カワセミは運動した後の、火照った顔で他の小鳥に呼びかけた。オレンジ色とエメラルドグリーンの
>「いや、でもこれもう汗でびしょびしょだし、水着のままでいいじゃん?」ホワイトがエメラルドグリーンのスカートを拾いつつ、愚痴をこぼした。
(第2話「願いをさえずる鳥のうた」より)
「脱ぎ捨てられたオレンジ色の帽子と、エメラルドグリーン色の帽子とスカート。ステージ終わりにそこにあったということは、ステージに出ていた中の誰かが着ていたということ。つまり、当日休んでいたオウルではない。あとは、条件の「今日は全員自分とは違う色の衣装を着ていた。上下とも色を揃えている人は一人もいない」からあてはめると」
『怠惰』はホワイトボードに全ての衣装の組み合わせを書き加える。
スパロウ/ホワイト/コマドリ/カワセミ/ オウル
帽子 ホワイト オウル カワセミ コマドリ スパロウ
スカート コマドリ カワセミ ホワイト オウル スパロウ
「この表から言えることは一つ。スパロウのピンク色の衣装は、ステージ上の誰もが着ていなかった、ということなんだ」
その日休んでいたオウルの衣装を利用して、スパロウの衣装の帽子とスカートを誰もが着ていない状況を作り出したということ。
「誰も着ていないスパロウの衣装を、ステージの前に殺害したスパロウの遺体にあらかじめ着せておいて遺体をステージ隅に隠し、ステージ後スパロウの遺体を発見させることで、その時ステージにいた人に疑いの目を向けさせることに成功したんだ」
「ステージが始まる前に被害者が殺されていたら、ステージに出ていたスパロウは誰だったって言うんだよ! ありえない!」
「あり得る。犯人さ。犯人が、スパロウの代わりにステージをこなし、暗闇の中でスパロウを装って最期の声を残したんだ。このことから、犯人は女性だ。さすがに男性の声じゃあ、スパロウの声を真似ることはできない」
「登場人物の女性はすべてステージに出演していた。カワセミが踊っている時に、後ろに三人踊っていることから、誰かが一人二役で踊っていることは無い。他に、登場人物に女性はいない!!」
「いいや、違うね」
『怠惰』は本人ではない。誰かほかの人が『怠惰』を騙っているのだ。
ということは、『怠惰』が男性であると確定はできない。
>「ほら、ネイルはピンク色なんだよ~。私とおそろいだね、怠惰さん。今日のスーツも、すっごいカッコいいよ」(第2話「願いをさえずる鳥のうた」より)
「この物語に出てくる『怠惰』もピンク色のネイルを付けている。そして、この一文だ」
>そこに現れたのはスパロウだった。スパロウはピンク色のリボンを持って、天女のようにひらひらと舞った。リボンを持つ指先にピンク色のネイルが光る。(第2話「願いをさえずる鳥のうた」より)
「ステージ上のスパロウの指先もピンク色のネイルが光っている。そんなことができるのは、被害者の他には、『怠惰』だけなんだよ!」
>「はい。当時店にいた客と店員含めて男四名、女四名。全員調べました」
『正義』は冊子を読み返し、わなわなと震える。
「ここに書いてある女四名は、被害者のスパロウを除いた、カワセミ、ホワイト、コマドリの三名に、女性の『怠惰』で四名だったってことか!」
「そのとおり」
スパロウ以外の女性三名と、その客、黒服を足したら、女性三名と男性四名。女性一人分空きができる。それはスパロウが相手していた客『怠惰』と考えれば、『怠惰』=女性説も考えられる。
『怠惰』であれば男性である、という先入観を利用したのだ。ともすれば、『怠惰』の代わりに『正義』でも良かったはずだ。いや、『正義』はガールズバーなど行かないだろう、ならばニセモノだ。という先入観が勝つことから『怠惰』が選ばれたのかもしれない。
「なら、凶器はどうするつもりだ。『怠惰』が店から逃げずに残っていたとしたら、衣類はすべて調べられたはずだ。ネクタイもベルトも、凶器ではないならどこにあるんだ?」
『怠惰』は髪をかき上げて不敵に笑った。
「『怠惰』は僕じゃないニセモノだ。ならば、この『栗色の髪』はどうしたと思う?」
「ま、まさか……?」
「栗色の髪のかつらを結わって、ひも状にして絞殺したんだ。かつらは『衣類』じゃない。まさかひも状のものを探していて、髪の毛なんて調べないだろうからね」
『正義』は店内に来て開口一番、凶器の一端に手が届きそうになっていた。だがそちらは本物の方で、被害者の命を奪ったものではない。
「いついかなる時も凶器として使ってもいいように、髪の毛が抜け落ちにくい『剛毛かつら』をオールカラー取り揃えているから、必要な時は前もって注文してね」
商売上手な店主は誰も聞いていないのに
「被害者の手に握らされていた『カッコウの羽根』は、出題者からのヒントだった。『カッコウ』で有名なのは『
「趣味が悪いね」
「店長には負けるよね」「まぁな」と三者三様の感想を述べた。
「……。ゴホン。じゃあ解答は、犯人は「『怠惰』に変装した女性」。凶器は「かつら」でファイナルアンサーか?」
店主の言葉に、『怠惰』は首を振る。
「まだだ。特定しよう。真犯人は誰なのかを」
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