第3話 間違いなく君だったよ
※この物語はフィクションです。この物語に出てくる登場人物、団体、その他の以下略はあなたとは何ら関係ありません。
◆登場人物
ヒロ君
私
ストーカー女
私は重たい鉄の扉を開ける。
中に入っていたのは、もちろん。最初から、わかっていた。
それは、『間違いなく君だったよ』。
◆
「ね、ヒロ君聞いて。今、女子の間で流行っている、『真実の愛のロッカー』って知ってる? この学校の使われていない備品倉庫にね、古いロッカーがあるんだって。でね。そのロッカーに、愛し合う二人が入ると、真実の愛が試せるんだって! ステキでしょ?」
「……あ、ごめん、今、なんて言った?」
もう。ヒロ君最近ずっと上の空。
それもそのはず。ヒロ君を付きまとう、ストーカー女がいるからなの。いつもいつでも、スマホにメッセージを送ったり、夜中に電話を掛けたり、学校終わりに校門で待ち伏せしていたりするんだって。許せない。そんなんだから、ヒロ君、夜中も電気を消さずに全然寝れてないみたい。
だから私、良いことを思いついたの。ストーカー女が、ヒロ君を諦める方法。
今流行っている『真実の愛のロッカー』のおまじない。
『愛する人と二人、それぞれロッカーに入る。目を伏せていた愛する二人を邪魔する者が、ドアを開ける。邪魔者が求める人がその中に入っていなければ、邪魔者は大人しく消える。消えなければ、真実の愛を邪魔する者に、災いが起きる』というおまじないだ。
二者択一だけど、このおまじないを使えば、ストーカー女を黙らせることができるわ。あとは私たちの運命を信じるだけでいいのよ、ヒロ君。
私は、備品倉庫にストーカー女と、ヒロ君を呼び出しておいた。
二人に説明するわ。さっきの説明を繰り返す。
『愛する人と二人、それぞれロッカーに入る。目を伏せていた邪魔する者が、ドアを開ける。ヒロ君を当てられなければ、邪魔者は大人しく消える。消えなければ、真実の愛を邪魔する者に、災いが起きる』。
ストーカー女も、仮にも私の学校の生徒だもの。うわさに聞いたことくらいはあったみたい。二つ返事で「いいわ」と返事をした。
「お、おい、勝手に話を決めないでくれ。第一俺はこんなところに入りたくない」
「ヒロ君。これはチャンスよ。ストーカー女があなたを諦めてくれるチャンスなの。あなたは目をつむって。ヒロ君は、好きな方に入っていいから」
ヒロ君は目の前の古臭いロッカーを見た。錆びて、背面や扉に小さな穴がいくつも空いている。人一人がギリギリ入れるくらいの広さしかない。それが横に二つ並んでいた。狭いのは仕方が無い。そもそもロッカーは人が入るために作られたものではないからだ。
右側の扉を開いた。ロッカーの中を見て、左手で扉を押さえる。中はこれまた古くてぼろぼろの、カーテンのようなぼろきれが入っていた。
なんなんだよ、とヒロ君の弱弱しい声が聞こえてくる。かわいい。
「こんな暗いところ、入りたくないよ」
「目をつむったら一緒でしょう。ちょっとくらい、我慢しなさいよ」
「目をつむったって、明るいところか暗いところかは分かるだろう? 君だって知っているはずだ。俺が……」
「もう、いい加減にして! 二つに一つなんだから!」
「わ、わかったよ……」
「ねぇ。ただ、目をつむると、ズルをしたって言われちゃうから、鉄のバケツを用意したわ。これを被る。これには、鈴がついている。鉄のバケツの目隠しを外そうとすると、鈴が鳴ってズルがばれるわ。逆に、鈴が鳴っていない間は目をつむっているってことの証明になる。それでいいわね?」
「あなたが約束を守る人のようで、安心したわ」私はバケツから手を離した。
バケツの鈴の音がやんだ。『真実の愛のロッカー』のおまじないの、始まりだ。
しばらくロッカーの扉が開く音が何回かして、ごそごそ、中の荷物を掻き分け、扉が閉まる音がした。
その少しあと、もう一つのロッカーも開く音がする。
「ぅうわっ、な、なんだ!?」
「静かにして、どっちがどっちに入ってるかバレちゃうでしょ!!」
「俺はこっちで決めたんだ。ここからは動かないぞ」
「えぇ、じゃあ私はこっちにするわ」
そして、その後、ロッカーが閉まる音がした。静寂。
「おまじないを始めていいなら、返事はしないで。いい?」
返事は無かった。おまじないのはじまり。
でもね、ここまでで既に、私のおまじないは完成しているの。
あとは、真実の愛に従って、正解のドアを開くだけ。
安心してね、ヒロ君。すぐにストーカー女の魔の手から救ってあげる。その暗闇から解き放ってあげるわ。
だって、私とヒロ君は、結ばれる運命なんですもの!!!
◇
「(彼女は、無事だろうか。)」
俺が入っていたロッカーの扉が開いた。目の前の彼女の右手が重たい鉄の扉を開ける。
まぶしい。でも、温かな光。怖くて、思わず差し出された両手を抱き寄せた。
「おかえり、ヒロ君」
寒いわけでもないのに、身体から震えが止まらない。ずっと、暗い所にいたからだろう。俺は、暗所恐怖症だから。少しでも明るさのある方へ体が咄嗟に動いてしまう。いや、おかしい。明るい場所にいるはずなのに、やはり震えが、止まらない。
「真実の愛の前には、何もかも意味をなさないの。さ、行きましょう」
「あいつは……、どこに行ったんだ?」荒れた部屋を見まわす。ここには俺たち二人しかいないみたいだ。
「さぁ。まさか、あの子に会いたいの? まさか、ね」俺は後ずさりする。
彼女は鋭利な刃物のような冷たい笑みを浮かべた。
「次、私を悲しませるようなことを言ったら、ここにまたあなたを閉じ込めるからね。いい?」
彼女は左手で思いっきりロッカーの扉を開けた。俺はその場にへたり込んだ。
[問題編 完]
[推理編へ つづく]
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