第4話 サンダルを選んだ理由
もう一度読み直して、ようやく気付いた。
>「でもな、腹が出ると、そうやって立ったまま靴下履くのも大変になるんだぜ、半紙」
>片足立ちでのろのろと靴下を履く僕を、硯は嗜めた。
半紙氏は靴下を履いていたのだ。
4つのサンダルの中で、靴下をはいたまま履けるのは、足つぼサンダルとスリッパしかない。ビーチサンダルも下駄も、鼻緒があるため、靴下があると指をかけられない。履くことも、ましてや走ることなんてできない。
硯氏は被害者の前を走ってそのまま自動販売機にたどり着いていた以上、彼に筆入氏を殺すことはできない。よって硯氏は容疑者から除外できる。
>筆入と目があった。僕はうなずいた。筆入も後を追う。
>僕の後ろから墨河が現れ、僕を指差した。
>「え。何かついてる?」乱れた服を見やる。
>「お前、せっかくあの履き物譲ってやったのに、脱いでるじゃねぇかよ」
このことから、筆入氏と墨河氏は、靴下を履いている半紙氏にスリッパを譲ったんだ。筆入氏は足に自信があるから、早く追いかけられそうなビーチサンダルを選んだ。墨河氏は下駄とスリッパのうち、痛いとわかっていても、スリッパを半紙氏に譲るために下駄を選んだ。
筆入氏は元陸上部。泥棒を追いかけるのなら、墨河氏よりも先に筆入氏が行動するであろうことは、予想できる。
靴下を履くことによって、筆入氏にビーチサンダルを選ばせた。なおかつ筆入氏が転んだ後、うしろから殺す機会がある人物。それは、半紙氏に他ならない。
「犯人が、わかった」
しんと静まり返る店内。僕の声は、店内の反対側に座る店主に届く。
「本当に? 極上の謎、だよ?」
「あぁ、犯人は、語り部の半紙氏だ」
僕は彼が靴下をあえて履くことで、履き物を無作為に選ばせたと見せかけて、実は磁石を仕込んだサンダルを選ばせたこと、それによって被害者を意図的にグレーチングで転ばせて、殺す機会を作ったことを説明して見せた。
「ほうほう、なるほどねぇ。で、凶器はどこにいったんだ?」
「凶器?」
「そうだよ。筆入氏は、頭から血を流して死んでいた。事故死だ。でもこの物語は
>「これはルールの確認だが、この小説の中に、謎解きに必要な情報は全て含まれているんだな?」
>「もちろん。なかには警察が知らないような情報も含まれている。だからこそ、警察よりも早く真相に到達できるってのがこのゲームの面白いところだろう?」
「謎解きに必要な情報は全て小説に含まれている。それはもちろん、被害者の命を奪った凶器でさえも、ね」
凶器。頭を殴ったんだから、固いものだ。下駄か? それは、墨河氏が履いていたものだ。さすがにそんなもので殴っては、下駄に痕跡が残るだろう。下駄に痕跡が見つかれば、その下駄を履いていたのは墨河氏なのだから、彼が簡単に捕まるはずだ。
警察は犯人を捕らえていない。隠された凶器が存在するからだ。
考えろ。
「解答の途中だ。小説はもう、読み返しちゃあいけないよ。お手上げかな?」
店主が笑う。勝ち誇った笑みを。
考えろ。
頭の中で、読み返せ。
何か、不自然な一文が、なかっただろうか。
[解答編へつづく]
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