第12話 十二

十二

「おい上田、ちゃんと笑顔作れ!少なくともブスっとした態度、一瞬でも見せるな!」

「すみません」

「お前仕事は速いんだがな~。気をつけろよ」

「はい」

 俺は、営業という仕事が苦手だ。

 特に、自分の心に反して、無理矢理作成する笑顔。

こんなものに何の意味があるのか?俺の心は、こんなに泣いているのに。

 俺が彼女と別れてから、俺には仕事しかなくなった。

もちろん巨人の応援は続けている。しかし、二人が付き合うきっかけとなった野球に、俺は、俺としたことが以前に比べて強い関心を持てないでいた。それは、新しいシーズンであるにも関わらず古傷を引っかくような行程に思えたからだ。

 それに他にも趣味がないことはないが、どれも夢中になれない。まあ仕事に対するやる気も低かったが、それはやらなければならないことだし、ちょうど気が紛れているのも俺は否定できなかった。

 そうやって月日が経った頃、俺は異動を命じられる。

「上田、大阪に行ってくれ」

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