閑話 私のお兄ちゃん


今回の話はさとりちゃんと夜長くんの過去

に関するお話です。正直かなり重い話なので

お気をつけください


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当時、私はお兄ちゃんの事が嫌いだった

理由は嫉妬や劣等感、とにかく当時の私はお兄ちゃんの事が大嫌いだった。


お兄ちゃんはなんでもする事ができる人だった。誰かのためにいつも行動していて、誰からも信頼されている。そんなお兄ちゃんといつも比べられて生きてきた


「お兄さんはすごいのにあなたは普通なのね」「さとりのお兄さんはすごいね!今度紹介してくれない」

誰も私を見ようとしない

いつだって私は彼の付属品…

そんな思いばかりが募っていった


お兄ちゃんの態度も当時の私には尺に触った

いつも必ず「大丈夫か?」「何かあったら呼んでくれよ」「俺はさとりの味方だ」

そして必ず最後に必ず「愛してるよ」って


そんなお兄ちゃんや周りの態度に嫌気がさして誰にも言わずに家を出た。本当は1日もすれば帰るつもりだった。

そうすればみんな心配してくれるはずだと…水無月夜長の妹じゃなく水無月さとりとして見てくれると思っていた

だけど現実はそんなやさしくなくて…


私はガラの悪い人達に捕まり何処かの倉庫に拉致された。暗くて冷たくて怖くて涙を流した。声にならない声で助けを求め続けた。

ついに無理矢理犯されそうになった私を助けてくれたのは大嫌いなお兄ちゃんだった。


後から聞いた話だとお兄ちゃんは私が居なくなった事に違和感を覚え一人で私を探し周っていたらしい


だけど当時の私にはそこまで頭を回す余裕がなかった。そして私はあの言葉を口に出してしまった



彼の顔を見た時言ってしまったと思った

お兄ちゃんの顔はあまりにも絶望に染まり切っていてとても辛そうで…そして…




そうしてお兄ちゃんは変わった

みんなの前では常に笑顔を絶やさず明るかったお兄ちゃんは次第に暗くなっていった

私はだんだんと暗くなっていくお兄ちゃんを見てとても嬉しかった。お兄ちゃんが私と同じ所にまで堕ちてくる事に快感すら感じた


けれど周りがそれを許さなかった

周りは皆お兄ちゃんにヒーローである事を求め続けたのだ。


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「お前もついにお兄ちゃんだ!!妹のことを守ってやるんだぞ!!」

それが初めに俺にかけられた呪いだった

…だけど俺はそれでよかった

たとえ呪いであろうとも愛する家族が守れるならと俺はその呪いを受け入れた


「お兄ちゃん!私、お兄ちゃんの事大好きだよ!!これからもずっと一緒にいようね」

妹はスクスクと成長していった

俺はそれが我が事のように嬉しくて愛おしくてたまらなかった


「お帰り、さとり。ご飯食べるかい?」

「……いらない」

中学校に上がってからしばらくしてさとりは俺を拒むようになった


ズキズキという胸の痛みを感じながらも俺は何もしようとはしなかった。いつかもう一度あの笑顔を向けてくれると。その時にさとりの誇れる兄であろうと努力し続けた。


ある時さとりが急に家から居なくなった

今までどんなに遅くとも8時には家に帰ってきていた彼女が10時を過ぎても帰って来ないのは異常だった。周りの人間は思春期にありがちな家出だろうと言って全く取り合わなかった。

俺は三時間以上走り回りついにさとりを見つけた。俺が見つけた時、さとりは服を脱がされ犯される寸前だった。


『妹を守る』その一心で拳を振るった

何があったかは覚えていないが気が付くと周りにはガラの悪い男達が血塗れで倒れていた

これでよかったのだと最愛の妹を守れたのだとそう心から思っていた



この一言を聞くまでは


自分の中の何かが壊れていくのを感じた

それでも彼女が守れるならと彼女を見上げた

その顔は青く震えており、そして

…笑っていた


それを見た瞬間、俺の中に残っていたもの全てが消えて無くなった。残ったのは呪いが掛かる前にからもらった僅かな感情と、全てを失っても尚消えない呪いだけだった。


こうして俺は変わった

さとりの為にやっていた全ての行動をやめた

それでも習慣というものは恐ろしいもので

どんなに苦しくても顔に貼りついた笑顔は落ちることはなかった。

彼等は俺に何かを期待しているようだった


けれど全てを失ってしまった俺には

どうすることもできなかった

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家に帰るといつもいるはずのお兄ちゃんがいなかった。

焦ってお兄ちゃんの部屋に行くと書き置きが一つだけ置いてあった


『守ってあげられなくてごめんな』


私はその時、初めて

彼にかかっている呪いの正体を知った。


けれど私がその事を知るには遅すぎたのだ




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…だから取り返しに行かなくちちゃ

あれだけの事があったんだもの

きっとまだお兄ちゃんは覚えてる

ねぇお兄ちゃん今度こそ私を守ってね♡

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