【3】異端児勇者(1)!

 その日の朝は突然訪れる。

 緊急討伐依頼のブザーでケッツァーは目が覚めた。

 その通知は全冒険者に通達される。

 言わば、早い者勝ちの大量報酬が約束されたミッションなのだ。


『出たよ!このウゼー依頼。

 早い者勝ちの大量報酬って言っても結局は誰も使い物にならんし、報酬も勲章ポイントだし、既に最高ランクを手にしてる俺には不要だからなー。

 見物でも行こうかね。』


 だだっ広い広野に人が群がっていたが、真ん中の方で人が宙に舞っているのを確認できた。

 間違いなく<あそこ>って分かる戦闘風景にケッツァーは笑いながら最前列に割り込んでいく。


『はいはい、ごめんなさいねー。最低勇者が通りまーす。

 おおー!無重力のように人が舞っていますねー!

 敵は、アイツか。

 へー、あの戦い方、俺好きだなぁ。

 よし、どけ!雑魚共。この俺がが相手をしよう。』


『邪魔すんじゃねーよ!最低勇者!!』


『好きに言いたまえ。

 君達ウジ虫以下の微生物では、アイツには100億年経っても勝てねーよ。死にたくなければ諦めろ。

 さて、俺はケッツァー!お前の名前は何てんだ?』


『ロイ。お前……強いな。』


『あー強いよ、お前よりも。俺はお前が気に入った!

 魔族とか関係ねー、俺の仲間にならねーか?』


『は!?

 バカかケッツァー!!この異端児が!!

 魔族討伐が勇者の使命だろうが!!』


『ケッツァーと言ったか、お前は面白いやつだな!

 だが残念!俺は魔王軍幹部のロイだ。お前が勇者の時点で相容れぬ間ではなかろうか?』


『んなこと、どーでもいいんだよ!

 じゃーあれな!お前が俺に負けたら仲間になるでどうだ?』


『どうやら本気のようだな。わかった、いいだろう。

 ならばくるがいい!私の本気を見せてやろう!』


 ロイが全力になったとき、大地が震えギャラリーが一斉に意識を失っていった。他の勇者も腰が抜けてしまっている。

 そんな中ケッツァーは微笑んでいた。


『どうだ?これが私の全力だ。』


『うん。思ってた通りで嬉しいぜ。

 じゃー俺も半分くらい力を出すぞ。』


 ケッツァーが力を解放し始めたときに、ロイがケッツァーを制止する。


『け、ケッツァー!ケッツァー君!

 いや、さん!

 やめて、やめて、これ以上は死んじゃう!』


『あ、わりぃ、張り切っちゃった。仲間には……』


『な、なるなる、なるから、もう、あれ止めてね……』


『よっしゃー!宜しくな!ロイ!』


『でも何で魔王軍である私と?君の立場は大丈夫なのかい?』


『関係ないんだって、そんなこと。

 ダメだって世間が騒ぐなら勇者称号の返上してもいい。

 俺は決められた仲間とは冒険したくない。自分で決めたい。

 そんな俺が<こいつだ>と、決めた奴がお前だった。

 ただそれだけだ。』


『……そうか、私も同じ思いだ。

 宜しく頼むよ、ケッツァー!』


 まぁその後、異端児ケッツァーと世間から罵られたのは言うまでもない。

 更に言うと討伐成功ではないので、全員無報酬であるが、ケッツァーだけは最高の仲間を手にしたのであった。

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