第17話 特殊な趣味

ローズは男装を解くために部屋へ入る。護衛として来てくれたのはサイオンで先程のようには止められはしなかった。


初めて女性の姿で対面したマリア様とのお茶会の日、マリア様側から打診があった。


協力してくだされば、王子との密会についてとやかくは言いません、と。密会と言われて、少しムッとしたのだが、よく考えると、そう言われても仕方ないと、その提案を聞くことにした。


マリア様はエドワード様を愛しているわけではない、と言って、もし私がエドワード様を愛しているなら、側妃にでも推薦してあげても良いと言って下さった。

私は、エドワード様とはお友達ですが、恋愛感情はないこと、結婚するなら騎士が良いことを告げ、マリア様の提案は辞退した。


マリア様は「貴方はそう言うと思ったわ。」と笑っていた。マリア様には、近衛騎士の協力者がいる、と言う。私の知っている人かしら、と思っていると、彼が現れた。


最初から私がマリア様に協力することは確定だったのだと思った。私は観念した。私がもし騙されるとしたら家族の次に文句が言えない人。


兄の上司で、近衛騎士の若きエースで、私の男装姿を見ても眉を顰めず笑顔で話しかけてくれる、サイオン様。


サイオン様とマリア様は仲が良さそうで、それは仕事の話だと思うのに、見ているのがしんどかった。俯いて、二人から視線を外す。


マリア様は、私の様子に笑みを隠すこともせず、一人頷いていたが、王子をどうにかしたいようで、私に耳打ちをした。


ライラ様を交えてのお茶会で男装を披露した。まさか、その時のことが、ライラ様を苦しめるとは知らずに、呑気に楽しんでいた。


貴族の下っ端である、私達に公爵令嬢や伯爵令嬢と交流を持てることなどはない。ましてや、王子の婚約者ともなろう方たちは、同じ貴族でも、雲の上にいる人たちだ。それに加えて男装の趣味を理解してくれる人なんて中々いない。

ローズは始まりは、交換条件のような気まずい集まりだったのが、何度か令嬢に会ううちに、すっかり絆されてしまっていた。


マリアやライラのためなら、何でもするわ、と言うように。





マリアも、最初の悪い印象があれど、ローズはある意味被害者だと感じていて、せっかく友達になったのだから、これから先も仲良くしたいわ、と思っていた。

そして、ローズに会わせてくれたことだけは、王子に感謝しよう、と思った。


ま、それだけですけれどね。


マリアの前でひたすら謝っている王子に思うことなど何もない。


「あら、何に対しての謝罪なのかしら。詳しく説明してくださいますか?」


自分の悪行を、自分で説明して、更に謝るなんて、私はしたくないわ。王子は嬉々としてしているみたいだけど。もしかしてそう言う趣味でもおありなのかしら。自分を虐める、のが好き、とか。




意地悪く話すマリアも綺麗だと思った。私は今まで勿体無いことをしていたと悟った。婚約者を蔑ろにし、他に癒しを求め、自分を大して磨くこともせず、現状の憂いを周りのせいばかりにしていたツケがこのザマだ。


そして、次にはローズ嬢やマリアのせいにすることはわかっていたのだろう。マリアは私を愛してはいないが、この国を愛しているが故に私を正そうとしてくれている。


マリアに興味を持ってもらえないのは自業自得だし、今となっては、私はローズ嬢に何の気持ちも残ってないことは明白だ。そもそも、浮気と分かっていて、男装の趣味を利用しようと思った時点で、気づくべきだった。


私の下心が分かっていたから、サイオンは私とローズ嬢の間に入り込んだのだろう。愛するものが傷つけられるのを、ただ黙ってみてるような男ではないからな。


ライラ嬢とスタンが去ってしまったから、逃げ場がなくなってしまったし、彼らは愛しあってる時点で、私達とは違う。

私が一から説明するのを、マリアは興味深く聞いていたが、知ってるよね?話が進むにつれ笑みが深くなる。そして、その話の何が悪いかわかってるか、聞かれて絶句する。


「最初から最後まで全て、私が悪かった、です。」


「ですわよね。」


マリアは笑い、その顔は溜め息が出るほど美しかった。


そもそも二人の関係を再構築しようがしまいが、マリアとの婚姻は覆らない。マリアには悪いが、私を一生叱り付けてもらわないといけない。


マリアは嬉々として、私を叱り付けているように感じるのだが、そう言う性質なのだろうか。


自分の性質を棚に上げて、そんな疑いを持つなんて酷いけれど。


けれど、驚いたことにマリアに叱られることは、愛情をもってもらえているような感覚になる。


あれ?

マリアがおかしいのではなくて、私がおかしいのかな。


マリアを泣かせるには、私達には愛情が足りない気がする。ライラ嬢に泣いてもらえるスタンが少し羨ましい。けれど、私達の間には、愛情が少しはあるのではないか?


今回みたいな状況なら、マリアは叱ってくれる。耐久レースではないが、どこまでなら叱ってもらえるのだろう。今後は匙加減を考えて、行動しよう。


その後、幾度となく、公爵令嬢に叱られる王子が目撃されたが、お二人の仲を疑う噂はもう無くて、大変仲がよいと評されたのはひとえに、叱られながら、満面の笑みを浮かべる王子のせいだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る