第14話 告げ口
「あれ、最近マリア嬢と仲が良いって話本当だったんだね。」
またうるさいのが来た。今日はいつもの伯爵令嬢を連れていない。
「ああ、元より仲は悪くないが。」
「仲は悪くないけれど、良くもない状態から仲睦まじく二人きりで談笑、までは回復したんだね。」
「まあ、お前と婚約者殿には負けるが。」
「…あの子爵令嬢は諦めたの?」
女癖の悪い、悪名高い第二王子らしく、美人にはうるさい。
目ざとく、牽制をしてくる。
「ああ、今はマリアが一番だ。」
にっこり笑顔をみせると、憮然とした表情で、そう、とさもどうでも良いことのような返事をした。
「婚約者殿と、喧嘩でも?」
最近ずっとベッタリだった婚約者殿へと話のすり替えを試みる。
「珍しいね、兄上が彼女に興味を示すなんて。」
いや、興味があるのは、お前の方だ。
とも言えず、曖昧に微笑んでいると、弟はわざとらしく、ため息をついて、物騒なことを言いだした。
「彼女とは婚約破棄して、別の令嬢と婚約し直そうかな。」
はあ?何で?
呆れた顔をしていたようで、苦笑しながら、「だって彼女、男がいるんだよ。僕の婚約者の癖に。」
伯爵令嬢と婚約を結びながら、色んな女性にお手つきしていたお前が言うな、との言葉を飲み込んだのは、特大なブーメランとして、第一王子の心臓まで一突きにしたからである。
「誰なんだ、相手は?」
「子爵令息のアーサーだ。兄上が最近良く一緒にいる男だよ。」
「いや、アーサーは貴族じゃないし、お前の婚約者殿とは接点もないし、何かの間違いではないのか?」
第一王子は自分が早口になって、焦っているのがわかった。
「あいつが貴族じゃないなら、なんで、子爵家にいつも帰るんだ?護衛だってついてるし。この前はサイオンまで取り込まれていたぞ。」
アーサーが、実は女性だと伝えることさえできたら、一件落着するのだが、それが言えないから誤解は続いている。
それにしても、アーサーの姿は、私と一緒の時だけではなかったのか?
アーサーの交友関係を広げてどうする気だ?
ローズ嬢は、考え方が不思議で、突飛なところが気に入っていたが、だからなのか、考えが全く読めなくて振り回されてしまう。
このままだと、新たな諍いの種を作り出しかねないので、ローズ嬢には悪いと思うが、兄であり、保護者であるディアンに至急確認しなければならない、と思った。
近衛騎士の訓練中に、ディアンを呼び出し、アーサーの事を聞き出そうとしたのだが、図らずも告げ口みたいになってしまった。
段々と機嫌が悪くなっていくディアンに、エドは自分がやらかした事を知った。
今日これからローズは確実に叱られてしまうだろう。元はと言えば、自分が人目を忍んで会いたかっただけ、と言う男装だったのだが、ローズが王子ではなく、別の人物にそれを見せたのが、嫌だったみたいだ。
自分勝手だと思う。王子だからって、こういうことをしていたら、痛い目を見るのに。
実際ディアンは王子からこの話を聞く前に、ローズからことの顛末を聞かされていて、承知していた。不機嫌を装っただけだ。
女癖の悪い第二王子に灸を据える形で、アーサーの名前を貸したことと、マリア嬢に女性だと、バレたことを。
当初は王子とサイオン以外に女性だとバレたら即時終了と言うことだったけれど、黙っていてごめんなさい、と。
ディアンは、男装してローズと会わせるのは王子が変なことをしないように、ローズが非難されることのないように、と思ってのことだった。
そこに、隠れて婚約者が別の女に会っていると言うマリアに対する配慮はなかった。
マリアにどうやってバレたか、聞くと、もうずっと前、マリアが調べたそうだ。子爵家の令嬢が男装が好きで、お茶会に男装で出没していることを独自に調べたらしい。
マリアとローズを繋げたのはサイオンで、エド王子は何も知らないことだと言う。
あと、王子が男装しているからといって体に触れようとしてくることなどをローズから聞いていて、王子の顔を見ると腹が立って仕方がなかった。とはいえ、自分が言い出したことなので、王子に一言宣言する。
「では、ローズが男装して、貴方にお会いするのは、終了でよろしいですね?」
目を大きく見開いて、まさかそう言われると思わなかったのか、王子が大きな声を出した。
「え、何で?それとこれとは、」
「第二王子に目をつけられたとなれば、バレるのも、すぐですよ。妹に危ない橋を渡せられません。あと、妹の縁談もまとまりそうですし。」
ディアンは嘘はついていない。男装の趣味をわかってくれて、ローズのことを王子からも守れる男はそう多くない。
もし、彼とローズが纏ってくれたら、このアホ王子にも、一泡吹かせることが可能だ。
サイオンとローズの了承は後から取ることにして、ディアンは勝手に二人の縁談をまとめることにした。
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