第13話 マリアの妄想

結局はマリアの言うようにアーサーをお茶に誘い、マリアと話をさせることに落ち着いた。


マリアはアーサーに友好的で、王子をヤキモキさせていた。アーサーは平民であるため、作法は心許なかったが、サイオンのおかげで何とかなっていた。


マリアは、サイオンがアーサーに向けて行うさりげない気遣いや、気配りに、さすが大人の男性だと、ため息をつく。アーサーとサイオンに漂う空気に何故か気恥ずかしいものを感じ、みてしまう。


王子であるエドは、最近自分の存在が空気みたいだと感じることが多い。気づけば、蚊帳の外にいる。

サイオンと親しげに話すアーサーやマリア。アーサーと話すマリア。

自分そっちのけで、きゃあきゃあ騒いでる女性たちを見て、お門違いと思いながらサイオンを睨んでしまう。


サイオンは王子の視線に気付いたものの、無視した。何か、めんどくさい空気を感じたからだ。


マリアは密かに交わされる主従の視線を観察すると、見ているのを気づかれないようにそっとアーサーの手を握った。平民のまだ小さいうちだといえ、華奢すぎるように思う。


(やっぱり女の子みたいね。アーサー様って。)


アーサーと初めて会った時に、女性のような形をした男性という印象を受けていたのはあながち間違いではないと、思う。


男の中の男という代名詞がよく似合うサイオンと並ぶとアーサーの儚げな姿はより美しくより繊細に、煌めく。



サイオンにもアーサーにも似たような色気がある。それに比べて、王子は良くも悪くも普通だ。マリアは王子に対して色気や、形容しがたい複雑な想いを抱いたことはない。それが王子の特徴であり、良いところだった。


アーサーは手を握られて驚いていたが、ギュッと握り返し、ニッコリ笑った。

途端にマリアの顔から火が出そうになる。


不穏な空気に王子が割ってはいり、アーサー様と手を離される。王子はアーサーに強く言えないようで、アーサーは王子の弱みでも握っているかのように振る舞った。


男性同士なのに、サイオンとアーサーの様子に顔を赤くするマリア。

マリアはそれとなく二人きりにさせてあげようと、王子に二人きりでお話がしたいと連れ出しに成功した。


そして、黙ってしまった王子を放っておいて、サイオンとアーサーの様子を監視する。案の定、イチャイチャ し始めた(ように見える)二人を顔を赤く染めて見つめるマリアの頭の中にもう王子はいなかった。



「本当に…お似合いだわ…」

マリアがそう呟いたのを王子はちゃんと聞いていた。

「それは誰の話?」

急に話しかけたからか、マリアは予想以上に驚いて、「エド様、びっくりさせないで。」と言われたけれど、さっきから一緒にいたよね?


気を取り直して、聞くと、「勿論、アーサー様とサイオン様ですわ!」と言われた。


アーサーの正体がバレているのかと思えば、どうやら男性同士でお似合いだとのこと。そう言う想像力が豊かな方たちの好む文学があると、聞いたことはあったものの、まさか公爵令嬢にまで、浸透しているとは思いも寄らなかった。


王子はここでも蚊帳の外であったが、別段落ち込むこともなく、むしろ安堵した。


「アーサーもサイオンも、女性が好きだと思うよ。」

ちゃんとアーサーの男性アピールをしながら、忠告すると、意外にも、首を傾げながら、納得していない顔をした。


「でもお二人から甘い雰囲気がでておりますわ。きっと思い合ってらっしゃるのよ。」

確かにそう見ると、アーサーのサイオンに対する顔が若干恥ずかしそうに見えるような?

いや、見えるか?


かと言って、女性の勘と言うものは、特に恋愛においては、とてつもなく鋭いと聞いたことがあり、マリアがそう言うのだから、そうなのか?


王子である俺を差し置いて、失礼な奴らだ。


王子は拗ねたわけでもないのだが、マリアは、王子の表情をみて、頭を撫でてきた。


「今のエド様の表情、可愛らしいですわ。」

女性に可愛いと言われるのは恥ずかしいが、さっきまでは蚊帳の外だった自分を見てくれる人がいるのだと、誇らしい気持ちになる。


頭を撫でるマリアの手を取る。

「では、私たちは二人きりで何をする?」


割としっかりめに手を繋いだから、マリアは、ほんのりと赤くなって、「内緒話はいかがかしら。」と笑った。


同じように微笑みを返し、サイオンとアーサーを置いて場を離れる。


王子についている近衛騎士がサイオンに声をかけようとしたが、王子はそれを断り、サイオンを置いて行くことにした。


今は、サイオンとアーサーの二人の邪魔をせずに、マリアと内緒話をした方が面白そうだ。サイオンには一つ貸しにしておいてやろう。


王子はマリアの不興を買うことはやめようと改めて思った。ローズは一度諦めるべきだろう。マリアがどこまで知っているか確かめるまでは、迂闊なことはできないのだから。




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