第4話 王子様と騎士様 ②
(やっぱり足りなかったわね。)
運動を終えた後の騎士がどれだけの量の食事を取るのか、きちんと調べればよかったと、ローズは、反省した。
「申し訳ありません。全く足りませんでしたわね。」
「いやいや、美味しくて、一気に食べてしまいました。こちらこそ、申し訳ない。」
兄の上司の方に頭を下げられ、恐縮する。
「今度来る時には、もう少したくさん用意しますわ。」
ローズは、にっこり笑顔で、申し上げると、また上司の方は、顔を赤くした。
「また来ていただけるのですか?」
「ええ、よろしければ、ですけれど。」
「勿論、いつでもお待ちしております。」
照れ笑いのような表情を浮かべた上司の方は、年齢の割に少年のようで、不覚にも、可愛く見えた。
上司の方のお名前は、サイオン様。デリカ伯爵家の次男であり、近衛騎士の若きエース。
兄に見つからないように声をかける。
少し驚かれたようだが、ちゃんと話を聞いてくれる。
「次は兄のいない時に来てもよろしいですか?」「ええ、勿論。」
「サイオン様、御相手してくださいますか?」
また顔が赤い。(熱でもあるのかしら。)
「ええ、勿論です。」
サイオンが、耳まで赤くして、顔を逸らせたのを、体調が悪いせいだと勘違いしたローズは、早々に帰ることにした。
客がいたら、しんどくても休めないだろう。
兄に、声をかけて先に帰る。本当は兄と帰りたかったが、兄は兄で交友関係は広いので、挨拶まわりだの、なんだので、一緒には帰れなかった。
馬車乗り場に向かう途中、声をかけられたが、どなたか思い出せない。
(えーと、この方は…!不敬!)
第一王子だと途中で、思い出し、俯くと、王子は楽しそうに笑った。
「この間から、急に俯くけど、それは何だ。」
「目をまっすぐ見てしまい、不敬かと。」
王子は、笑いを堪えながら、意外なことを言った。「そんなことで不敬など言わぬ。せっかくの顔が見えないではないか。」
恐る恐る顔をあげると、優しそうな瞳がローズを見ていた。
「目を見ても…?」「良い」
ローズがあからさまにほっとしたところで笑いを堪えているのが難しかった王子が盛大に噴き出した。
「ああ、すまぬ。あんまり面白かったもので。ローズといったか。また話しても?」
ローズは戸惑いつつも、王子からの提案を断るわけにもいかずに、「是非。」と言う他なかった。
(そもそも、そんなに出会わないわよ。)
自分にそういい聞かせ、安堵したのも束の間、これからことあるごとに話しかけられるようになるとは、想像もつかなかった。
兄が今日は休みだと言うので、ローズは買い物に付き合ってもらうことにした。
一緒に出かけるなんて久しぶりで、嬉しい。
お出掛けの際は、変装する。今日は兄と一緒なので、男装ではなくて、女装。
レオンも誘ったのだけど、予定があるらしく、断られた。
馬車で途中まで送って貰って、あとは歩いて行く。兄はローズに甘いので基本的に何でも買ってくれようとする。
ローズは買ってほしいから、兄と一緒にいるのではない、と何度も説明するのだが、兄は似合うから買えばいい、と言って、聞かない。
兄が命をかけて働いてきた大切なお金を使うほどのものか、考えたら何も買えない。だから、買い物と言っても、美味しいものを食べるか、一つか二つ買うと満足してしまう。
兄はローズの物欲の無さに呆れているが、まさか一番欲しいものは兄の前では買えない、とは言えない。
男装の衣装に使う布や素材は、マリカを連れて行けばいいし、騎士の制服については兄の上司のサイオン様に聞けばよい。
兄にしてもらうことはそれ以外。つまりは一緒にいてもらうことのほかない。
「お兄様、ご結婚なさるの?」
戦争から帰ってから、連日兄への縁談は山のように来て、子爵家を混乱させている。
「うーん、まだお前たちと一緒にいたいけどな。」
「お慕いされている方はいらっしゃるの?」
「んー、いないな、そういう人は。」
「そう。」
兄がすぐは結婚しないかもしれない、と思いローズは笑顔になる。
兄からも質問がある。
「お前は?ローズは、いないのか。結婚したい人。」
ローズは首を振る。
「いないわ。」
「俺はお前が選んだなら基本反対はしない。基本はな。ただし、この間はああは言ったけれど、王族の側室になるぐらいなら、誰かの正室になる方が良いとは思う。」
「第一王子の話?あれは冗談だと思ってたわ。」
「第二王子よりはマシだと言ったのは本心だけどな。でもお前の性格上、愛を二人で分けるのは嫌だろう。割り切る性格でもないし。お前を一途に思ってくれる相手がいいと思う。」
そこまで、嫌がられる第二王子って、一体。
「第一王子とはあのあと何度か話す機会があったけれど、第二王子とはあの夜会以来会ってないわ。」
兄は不思議な顔をした。
「ん?第一王子と話したの?あのあと?」
「ええ、訓練があった日に少し。あと、他の日も偶然お会いして。あら、そう言ってたらあちらにまたいらっしゃるわ。」
「は?」
ローズが指した先に、やたら身なりの良い商人風に変装した第一王子がいた。
嬉しそうに、こちらに手を振っている。
兄は思った。
「これって…」
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