第14話 閑話、カイネタイト


 動力石カイネタイト(注1)という名の鉱物がある。この鉱物を粉末精製したものを円盤状に形成し、無酸素雰囲気むさんそふんいき中で円盤の中心軸を磁力線の方向に合わせるよう強磁力下で焼結させる。でき上ったセラミック円盤を常温まで温度を下げたあと、円盤の中心軸を磁力に対して90度の角度に傾けると、軸を中心に円盤は回転を始める。


 円盤の回転力は、磁力の強さとカイネタイトの質量などに比例する。このことが30年ほど前に発見された。


 円盤状に焼成されたカイネタイトのことを、カイネタイトディスクという。今ではただディスクというようになっている。


 摩擦などで回転力トルクが消費されると、ディスクそのものが劣化して、やがてトルクを生まないただのセラミックになってしまう。


 ディスクの再活性化には大電流を流すことで可能である。言い方を変えればディスクは電力を物理的力に変えて蓄える機能を持っているともいえる。



 ドールなどの自動機械の動力としてディスクは非常に優れていた。ディスクを交換するだけで動力が復活するからだ。交換されたディスクは専用の充力器で電流を流し込まれて再生する。


 充力効率は充力回数を重ねることにより低下していき、現在の技術では、完全放力、完全充力を200回繰り返すと充力効率が極端に悪化するため、ディスクを交換する必要がある。充力効率が基準値以下まで低下したディスクは粉砕され再焼成され再生ディスクとして使用可能になるが、トルク出力は新品のディスクと比べると80パーセント程度が限度となる。再生ディスクの場合、完全放力、完全充力を繰り返し充力効率が基準値以下まで低下した場合、廃棄される。


 各国ではディスクの寿命を延ばす研究と、ディスク、特に再生ディスクの出力増加の研究を行っている。


 大型のディスクは焼成も難しい上、取り回しが極端に悪くなるため普及していない。艦船などではディスクの代わりに、液化石炭を主体とした燃料を用い従来通りボイラーによる蒸気でタービンを回しているのが現状だ。ただ、ドライゼン帝国海軍の新秘密兵器、可潜艦(注2)などでは燃料発電機とセットでディスクが使用されている。


 カイネタイト鉱山は帝国にも有望な鉱山が数カ所ある。重要な戦略資源のため各国ともその場所の全てを公にしているわけではない。特に有力鉱山は秘匿される傾向が強い。




注1:動力石カイネタイト

もとは違う名前のただの鉱物だったが、その特殊な性質が発見され、鉱物から鉱石に格上げされたうえこの名になった。


注2:可潜艦

ドライゼン帝国海軍では、秘密裏に小型可潜艦のテスト運用を続けてきたが、予想以上の運用成績だったため、小型可潜艦を大型化し、居住性を高めた航洋型可潜艦の建造を進めている。



[あとがき]

この世界では、鉄、石炭は豊富に賦存していますが、石油は今のところ発見はされているものの利用はされていません。そのため、燃料として取り回しの良いよう液化石炭が多くの産業機械などで使用されています。

次話から第2章。第2章は『戦火は広がるどこまでも』よろしくお願いします。

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