第16話 帝国歴323年2月、ガラリア戦2
ガラリア共和国は、占領中の帝国西部地域に駐留中の部隊を交代するという名目で10個師団をドライゼンの西部地域に送り込んだ。しかし駐留中の部隊は本国に帰ることなくそのまま駐留を続けたため、西部地域に展開するガラリア軍の総数は20個師団を数えた。さらにガラリア軍は二線級の部隊10個師団を西部地域に送り込み始めた。これらの二線級部隊は一線級部隊の進撃後、占領地の穴を埋めるためのものである。
この時点で、ガラリア軍は帝国軍が自由に動かせる戦力を約10個師団と正確に見積もっている。
完全充足20個師団の戦力に対して、疲弊した10個師団ではいくら防御側有利といわれ、mk6:ドミニオンと呼ばれる新兵器が登場しようとも帝都までの道は容易に開かれるものとガラリア軍参謀本部は楽観していた。しかも、ガラリア本国には戦略予備として、前線投入可能な一線級部隊がさらに10個師団控えており、いつでも前線部隊と交代できる強みを持っていた。この段階でガラリア共和国は動員準備令すら発しておらず、常備兵力だけの運用である。
帝国軍が国内から連邦軍を駆逐し、占領されていた全都市を解放した当日。期せずしてガラリア共和国はドライゼン帝国に対して宣戦を布告した。
同時に、ガラリア軍は西部地域に展開していた20個師団により東方軍を編制し、東方に位置するドライゼン帝国の帝都コルダに向けて進撃を開始した。この時点において帝国領内で作戦中のガラリア軍は一線級部隊20個師団、警備部隊10個師団の計30個師団に及んだ。
ガラリアに対する帝国国民の反感は以前より強かったが、さらに強まり巷では『主敵はガラリア!』『ガラリア討つべし!』と民衆が連呼した。
ガラリア東方軍の進撃路にはほとんど防衛線らしきものは敷かれていなかったためガラリア軍は進撃というより進軍と言ってもいいような状態で軍を進めていった。途中の都市の攻略も戦略目標ではなく、放置したところで補給路が脅かされるわけではないため、ガラリア軍は都市部を迂回して進軍している。ガラリア軍の戦略目標は帝都攻略であることは徹底されている。
ガラリア軍の東進の報ががもたらされ、急遽開催された御前会議の席上、ニコラは出席者たちに対して、
「これまで穏便に済ませようと西部地域に対して撤退要求しかしてこなかったが、向こうから積極的に軍を動かしてきた以上こちらとしても厳しく対応しなければならない。国民の意思を考えれば、西部地域奪還程度では矛を収めることはできなくなった。各部隊の回復状態はどのようになっている?」
ニコラの問いに軍務大臣が資料を見ながら答える。彼は先日宰相ローランド・ビズマの推薦を受けて軍務大臣兼陸軍局局長に就任している。前職は陸軍局戦務部長である。彼に限らず、連邦軍が帝都に迫る中、逃げ出した大臣たちの代わりに省をまとめて御前会議に出席していた多くの者がビズマの眼鏡にかない出身省の大臣に就任している。
「常備60個師団のうち、現在東部には完全充足の2個師団が張り付いております。この2個師団と帝都常駐の近衛師団を除き、30個師団が新兵の補充も終わり完全充足状態となっており、3カ月後には実戦部隊として投入可能です。残りの27個常備師団については、充足率80から90パーセント、実戦投入可能時期は5カ月後を見込んでおります。さらに、後備師団30個の編制を終わっておりますが、こちらはものになるのは1年後となります。残りの後備師団の編制については現在のところ目途は立っておりません」
「わかった。ずいぶん兵隊の数も減ったんだな」
「申し訳ございません」
「きみの責任ではない。とりあえず、帝都に向かってくる敵兵は刈り取っておくが、軍がその状態だと、まだガラリアには攻め込めんな。
ところで幹線道路の整備状況の方はどうなっている?」
建設大臣が同じように資料をめくりながらニコラの問いに答える。
「帝都から伸びる幹線道路と呼ばれる道路は8本あり、その総距離は5000キロに及びます。現在の改修速度は各路線合わせて月当たり80キロから100キロです。工事の速度を上げたいところですが、新規の作業員の目途が立っておりません。工事完了まで早くとも4年半は必要と見積もっております」
「わかった。人手不足はどこも同じか」
「あのう」
「なんだ、ビズマ宰相」
「陛下、先ほどのお話ですが?」
「どの話だ?」
「『帝都に向かってくる敵兵は刈り取っておく』とのことですが、ガラリア軍に対して最終兵器マキナドールを使用するということでしょうか?」
「そうなるな。こちらの被害が少ないうちに刈り取った方がいいだろう?」
「もちろんそうですが、そうなりますと、ガラリア軍は文字通り皆殺し。戦争の落としどころが難しくなりますが」
「そうなるな。ハイネ連邦についても当然逆襲するつもりだが、あそこは広いからこちらの兵の数がある程度整うまで占領地の維持が難しいだろう。先にガラリアを屈服させた方が後顧の憂いがなくなるからな」
「屈服とはガラリアの首都まで攻め込むと?」
「場合によればガラリア全土だな」
「わかりました」
「西部地域の開放はすぐにでも行うが、こちらからガラリアの領土に攻め込むのは、常備の30個師団が仕上がる3カ月後以降になる。
軍務大臣、そのように心得て準備しておいてくれ」
「かしこまりました」
「それと、マキナドールの投入は明日の未明を予定している。戦闘開始時点でガラリア軍の戦闘部隊はここ帝都から350キロほどのところまで進出しているだろうから、正午くらいに部隊を出して、戦場清掃を行ってくれ。相手は20個師団だ、相当大変な作業になるだろうがよろしく頼む」
会議後、軍務大臣はニコラの指示を正確に理解したうえで、明日
こうして、午前会議の席上でガラリア軍へのASUCAの投入およびガラリア侵攻が決定された。
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