第57話 愛染「アイゼン」
唯斗と莉奈は今までの詰まる想いをお互いにさらけ出して想いを打ち明け、付き合うことになった。
もちろんここで気になるのは、快斗と美奈についてだ。
快斗は新たな決意を元にもう行動を起こしていた。
12月23日
日はまた過ぎてクリスマスイブの前日になった。唯斗と莉奈、そして美奈のともに学校は終業式を迎えて冬休みに入っていた。
そしてこの日はここ最近で一番冷えた天候となっていた。今にも雪が降り出しそうな天気だった。
「唯斗ー、もうお昼だよー 」
「ん…… おはよう… 」
「まったくもうー、いつまで寝てるのー 」
「いいじゃん休みなんだからー 」
「休みだけどさー 」
「とりあえず起きるかぁ 」
莉奈に起こされて唯斗は起きた。一年前は毎朝美奈に起こされていた唯斗も今では莉奈に起こされて毎朝幸せそうな顔をしている。それだけ2人の想いは溢れていたのだろう。
「おはよう美奈さんー 」
「やっと起きたんだ〜 」
「はいーー 」
「あれ、兄さんは?? 」
「快斗くんはなんか仕事の都合で出かけてるよ〜 」
「仕事? この時期に? 」
「うん、よくわからないけど大丈夫だと思うよ〜 」
「まあもう流石に大丈夫ですよね 」
「うん〜 」
「明日はお姉ちゃんの誕生日で、明後日は私の誕生日だーー 」
「そうだね〜、1年早いなぁ〜 」
「本当にはやいーー 」
「明日は美奈さんと兄さんは出かけるんですか? 」
「うん、出かけるよ〜 」
「ですよねー 」
「うんうん〜 」
「じゃ莉奈とおれはお留守番だな 」
「なんか作ろうね唯斗! 」
「またかよー、莉奈とかぁー 」
「なによー、やならいいけど! 」
「やじゃないよ、作ろうな 」
「なにそれー! 」
「あはは、本当に2人は仲がいいね〜 」
そして美奈の誕生日前日は、こうして時間が経っていき1日が終わった。
12月24日 クリスマスイブ……
「じゃ出かけてくるから、唯斗と莉奈は家のことよろしくな 」
「はーいー、2人とも楽しんでねー 」
「いってらっしゃい、兄さん、美奈さん 」
「じゃあね〜、唯斗くん莉奈のことよろしくね〜 」
「任せてくださいー 」
「それはこっちのセリフー 」
「じゃいってきます〜 」
「いってくる 」
こうして快斗と美奈は夕方頃家を出て行った。
2人は1年前に過ごしたクリスマスイブと同じ高級レストランに向かっていた。
「今日も冷えるね〜 」
「そうだな、寒くないか? 」
「うん、大丈夫〜 」
「なら、良かった 」
会話を弾ませながら、歩いて駅に向かうと2人はビルの上階層にある高級レストランのビルの前に着いた。
エレベーターを上り、店内に入ると予約席へと案内された。
昨年と同様、窓側の景色が一番良い席だった。2人は食事を進めた。21歳になった2人は昨年よりもお酒を飲めるようになっていた。コース料理にワインが合う。2人は最高の雰囲気で最高の時間を過ごしていた。
時間が経つと、辺りはライトアップされた東京の街並みが2人の目を輝かせる。それをさらに綺麗に彩らせるかのように雪が少しずつ降り始めた。
「快斗くん雪だよ〜! 」
「本当だ、ホワイトクリスマスだな 」
「うん〜最高だよ〜 」
「良かったよ 」
「でも、本当に快斗くんが前みたいに元気になってくれて良かった〜 」
「心の底から、母さんや唯斗、莉奈には感謝してるよ、そして美奈の父さんにも 」
「うん、本当に良かったよ 」
「一番感謝してるのは、もちろん美奈だよ。本当にありがとうな 」
「ううん〜、私はただ快斗くんのこと…… 」
何かを言おうとした美奈に快斗は言った。
「ご飯も終わったことだし、ここのビルの屋上が展望台になってるらしいから行ってみないか? 」
「うん、いく〜 」
2人は満足の食事を済ませて、エレベーターでさらに上へと向かった。
展望デッキはさらに高い位置でさっきよりも景色がよく見える。そして粉雪が降り出した景色はさらに彩りを増す。
「うわぁ〜綺麗〜 」
「綺麗だな 」
2人は感動のあまり少しだけ沈黙が続いた。
「美奈……大事な話がある。」
「うん 」
「おれは今まで人に対してあまり興味がなかった。そして自分のことを隠し続けて生きてきた。そんなおれを美奈は心底向き合って変えてくれた。美奈の笑顔はいつだっておれを困らせた。病気のことを言うにも言い出せなかった。それでもおれを見捨てずに、ずっとずっと側にいてくれた。本当に感謝をしてもしきれない。ありがとう 」
「うん 」
「美奈はおれにあって他にないものを教えてくれた。そしておれのことをいつもどんな時も考えてくれた。美奈はいつも正しいことしか言わない。おれは今もこれからもそう思ってる 」
「私だって間違うことはあるよ〜 」
「それでもいい。それでも美奈はそれでいいんだ 」
「ありがとう、嬉しいなほんと 」
数秒間黙り込んだ快斗は、目の色を変えて口を開いた。
「どんな時だって側にいてくれたように、おれがこれからはずっと側にいる。だから美奈も今まで通りおれの側にいてほしい。簡単なことではないと思う。でもこの想いはそれ以上に簡単な想いじゃない。君という道しるべにおれの全てをかけて、一緒に歩いていきたい 」
「えっ!? 」
快斗はポケットからなにかを取り出した。
「有村美奈さん…… 僕と結婚を前提に付き合ってください 」
「こちらこそ、よろしくお願いします 」
快斗は美奈の左の薬指に指輪を優しくはめた。そして優しく包むように抱きしめた。
「本当にありがとう美奈 」
「ううん、私こそだよ快斗くん、私も快斗くんのこと本当に心から好きだよ。でもなんか好きってそんな簡単な気持ちで表せないよ〜。そんな簡単なことじゃないの。だからこれから愛の形を2人でずっと作っていこうね 」
「ありがとう。」
快斗は涙が溢れ出した。美奈は驚いていた。どんな時も快斗は人前では涙を見せなかった。それが快斗の強さだった。それでもこの時だけは大粒の涙を流した。
「指輪本当に綺麗だよー、本当に嬉しい 」
「うん、喜んでくれておれも嬉しいよ 」
「泣かないでよ〜、私までうるっときちゃうよ〜 」
「うん、そうだな 」
快斗は笑って美奈に微笑みかけた。
そして2人の唇は自然と触れ合っていた。
今までのキスとは違う。この時はもう違った。2人は2人の道を2人の愛の形を持って、同じ歩幅で歩き出し始めたのだ。
「おれ、モデルやめたんだよ 」
「えっ!? なんで? 」
「おれは有村グループの会社を継ぐことにした。まだまだなにもわからないことがたくさんあるけど、母さんや会社の人たちに手伝ってもらい、教えてもらって、頑張っていくことにした。美奈にはおれの側にずっといて、ついてきてほしい」
「え、まってね。いきなりすぎて…… モデルの夢はどうするの?? 」
「それはおれは叶えることはできないけど、あいつが、あいつが叶えてくれるよ 」
その時美奈はふと唯斗の顔が頭に浮かんだ。
「本当に快斗くんはそれでいいの……? 」
「おれは本当にたくさん助けてもらった。おれなりの決意と感謝の気持ちを込めて一生かけて、恩返しをすることにしたよ 」
「うん…… 」
「美奈の父さんとの約束だって、必ず守れるようにおれはもう決めたんだ 」
「本当にいいの……? 」
「うん、もちろんだよ、だからこれからもずっとよろしくな 」
「わかった、よろしくお願いします 」
「おう! 」
「って、パパとなんの約束したの〜? 」
「それは男の約束だから、内緒だなー 」
「えーなにそれ、教えてよ〜 」
姉妹の父親から繋がれた命。それを快斗は快斗なりの恩返しをすると決意した。心から好きと言える相手をずっと幸せにする。そして父親の築き上げてきた会社を自分が継ぐ。それが快斗なりの答えなのだろう。
こうして快斗と美奈の歯車は再び動き出したのだった。
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