第56話 告白「コクハク」



 快斗が退院してからは、唯斗と莉奈は普段通りに学校に通い始めた。



 高校3年生の冬という時期もあって、クラスメイトたちは勉強に集中していた。桃香はより高いレベルの大学進学に向けて勉強を必死に捗らせていた。桃香は唯斗との一件を終えて、勉強に身が入るようになった。自分の想いを素直に伝えて、それでも届かなかった想い。幼馴染みという括りに苦しみ悩まされたが、今は幼き頃からの大事な繋がりとして友達という関わり方で接していくようになっていった。



 唯斗がまた普段通りに学校に来始めてから、結衣にも色々と心配はされていたが、唯斗の気持ちははっきりとしていた。快斗の一件があってからさらにその気持ちは強まっていたのだ。



 冬休みに入ろうとする直前のある日の学校のことだった。

 

 学校が普段通りに終わると、唯斗はいつも通り莉奈と一緒に帰ろうとしていた。



 桃香が教室から出て行く唯斗に話しかける。



「唯斗ー、また明日ね! 」


「おう、明日なー 」


「桃香ー! ばいばーい! 」


「明日ね莉奈! 」



 2人を送り出した桃香は、必死にペンを握っていた。

少し辛そうな表情を見せるが、それも糧にする。そんな様子だった。



「莉奈ーちょっと帰りに寄って行きたいところあるけど大丈夫か? 」


「うーん? いいよ? 」


「よかった 」


「いきなりどうしたの? 」


「ちょっとゆっくり話がしたいんだ 」


「う、うんわかったよ 」



 冬の夕方はもう暗い。寒さと昼間に比べてかなり増す。そんな中2人は学校を出てある場所へと向かい出した。




 一方その頃……


 快斗はなぜかモデルの事務所に来ていた。仕事をするよう感じはなく何か大事な話があるのか、そんな様子だった。





 夕方6時を回ると辺りはもう完全に夜だ。そんな中、唯斗と莉奈はある場所に来ていた。



「あー懐かしいねーー 」


「うん、1年前を思い出すな 」


「うんうん懐かしいー 」



 そう2人が来ていたのは、駅前にあるクリスマスツリーだ。クリスマスまであと1週間となった今日からライトアップされたクリスマスツリーが展示されていた。



 あの懐かしい1年前のクリスマス。桃香が足を怪我して唯斗が桃香を背負って家まで送っていったあの日のことを思い出していたのだろう。そんな桃香と唯斗の様子を見た莉奈は嫉妬してクリスマスツリーの元でずっと1人で待っていた。それを迎えに来た唯斗と莉奈はあの時に距離が近づいたと言っても過言ではないだろう。そんな2人にとっていろんな想いがあった1年前のクリスマスだった。

 


 唯斗は莉奈を近くのベンチに座らせると、暖かいミルクティーを買ってきた。



「ありがとうー 」


「うん、いいよ 」


「うわぁーあったかぁいー 」


「身体があったまるな 」


「うんうん 」


「で、話なんだけどさ…… 」


「うん? 」


「本当に色々なことがあったけど、おれと莉奈も出会ってもう2年近くなるよな 」


「うん、そうだね! 」


「最初は、本当に莉奈のことが分からなくてお互いに大変だったな…… 」


「たしかに、今じゃ考えられないもんね 」


「うん、本当に色々なことがあっておれたちは変わっていったんだと思う。その中でおれは桃香のことや結衣のこと、色々と考える時期もあったけどやっぱり誰よりも何よりもずっと頭の中にいたのは、莉奈だったよ 」


「え?? 」


「莉奈、おれはずっとお前のことが好きだ。今までもこれからも。莉奈のことを本当に好きだと気づいた日からずっと考えていた。莉奈の横にいるのはおれでいいのか。莉奈のことをおれが幸せにできるのか。それでも、それでも…… おれは莉奈が好きだ。莉奈以外、莉奈以外は考えられないんだ。頼りないところもあるけど莉奈のことはおれに任せて欲しい。だからおれと付き合ってください 」


「はい、お願いします…… 」



 2人は立ち上がり抱き合った。こんなに幸せそうな2人を見たことがない。今までの沢山の込み上げてきた想いが溢れ出しているのだろう。


 2人が抱き合ってから数秒後、クリスマスツリーのライトアップの彩りが変わるとともに、素敵な音楽が流れ出した。そんな最高の場所と雰囲気だった。



「ねー唯斗、私はずっーと好きだったよ。好きで好きで仕方なかったんだぁー 」


「本当に? おれはずっと片思いだと思ってたよ 」


「本当に唯斗は鈍感だから困っちゃうよー 」


「それは莉奈もだろー 」


「あははは 」



 2人が今、こんな会話をできるのも色々なことを乗り越えてきたからである。そこには一番変わることができた唯斗、莉奈の想い、美奈や快斗のおかげもある。それでもこの幸せな時間だけがずっと続けばいい。そう2人はずっと思い、願い、そして過ごして行くようになるのだ。



「ねー唯斗ー 」


「うん? 」


 

 手を繋いで座っていた2人の目線は合う。



「チューしよ 」


「…… 」



 唯斗は返事をすることなく、莉奈の唇にキスをした。


 莉奈の顔は真っ赤になって、照れを隠すことなど全くできていなかった。それどころか唯斗に目を合わせられない。



「莉奈 」


「んー? 」



 振り向いた莉奈にもう一度唯斗はキスをした。

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