第53話 成功「セイコウ」
手術を受ける手続きを済ませて、明日に手術が迫っていた。
快斗は未だにはっきりと意識を戻すことはまだなかった。
美奈は快斗の手を強く握っていた。そんな様子を見てられなくなった莉奈は病室を飛び出した。
「母さん、兄さんと美奈さんのこと頼むよ 」
「うん、わかったよ 」
唯斗は莉奈を追いかけるように病室から出て行った。
莉奈は病院の屋上にいた。冬の訪れが現れる空模様を眺めていた。体感温度も冬に向けてどんどん寒くなっていく。
何かをしっかりと未だ受け止めることができないでいた姉妹。そして唯斗はそんな2人や母親を見て、何度も自分も挫けそうになる。それでも、唯斗は強い意志があった。唯斗はこの一件で今まで以上に成長したのだろう。
しかし、唯斗が成長したところで姉妹の父親は戻ってこない。そして快斗も確実に助かるわけではない。もし助かったとしても今後の生活に影響は出るだろう。
「莉奈ー 」
「ん、唯斗どうしたの? 」
「こんなところにいたのか 」
「うん、ちょっと外の空気が吸いたくて 」
「そうか 」
「…… 」
「なあ莉奈…… 」
「うん? 」
「兄さんの手術成功したら、どこか旅行でも行けたらいいな 」
「うん、そうだね 」
「大丈夫か……? 」
「うん大丈夫だよ 」
唯斗は無言で莉奈の身体を抱きしめた。
「な、なにどうしたの唯斗 」
「不安だよな、辛いよな 」
「う、うん。でもそれは唯斗も同じじゃ…… 」
「おれは大丈夫だよ、おれは…… 」
「唯斗。無理しちゃダメだよ…… 最近ずっと俺は大丈夫、俺は大丈夫ってそうやって言うけど、唯斗だって不安で押し潰されそうになるでしょ。それでも私たちの前で弱いところ見せないようにしてさ。私はわかってるよ全部。唯斗がそうやって強いところを見せようとしてるのも。私たちからすれば嬉しいし支えになるけど、私の前だけは素直になって、私も素直になるから。私にとって唯斗は…… 唯斗だけは…… 」
何かを大事なことを言おうとした莉奈の頭をポンポンと優しく撫でて唯斗は言った。
「ありがとうな莉奈 」
「え、あうん…… 」
唯斗の目には少し涙が浮かんでいるような気がした。
「莉奈、病室戻るぞ 」
「うんー 」
2人の仲は本当に以前からは想像もできないほどに信頼し合えていた。
それだけ2人が成長したと言うことだ。合わなかった2人の歩幅はもう少しでしっかりと合うだろう。
そして手術の当日を迎えた。
11月に入ってすぐの土曜日。天候は昨日よりも寒くて今にも雨が降りそうだ。
病室に先生や看護師たちが沢山入ってくる。
唯斗はベットに寝たまま、手術室の方へ連れて行かれた。
美奈はギリギリまで手を握っていた。
「お姉ちゃん…… 」
「美奈さん、大丈夫。きっと兄さんなら大丈夫だから。」
「うん。私も快斗くんを信じてる…… 」
そうして、手術が始まった……
その日、快斗は長時間の手術を終えて、手術室から出てきて自分の病室に戻ったが、面会することはできなかった。
そして次の日……
快斗の病室には母親、唯斗、美奈、莉奈の全員が居た。病室には点滴の音だけが響く。
手術が終わって1日が経った日のことだった。
長時間に渡る手術は無事には終わった。あとは快斗が目を覚ますのを待っていた。
今日も美奈は快斗の手を握っていた。
美奈の表情は未だ険しく、母親も心配な様子が顔に表れている。莉奈と唯斗は比較的、落ち着いているようだった。
「美奈…… 」
「快斗くん……! 」
「兄さん……!! 」
「快斗…… 」
目を覚ました快斗を涙を流しながら喜ぶ。病室は入院して以来初めて笑顔で溢れた。
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