第51話 災難「サイナン」


 唯斗と美奈は受け止めきれない現実に向き合うことができず、落ち着かない日々が続いた。


 快斗の病状は良くなることはなく、毎日が大変で憂鬱な日々だった。


 そんな唯斗たちの元へ、快斗の病気を知ったときの衝撃を超えるほどの事件が起きた。


 その事件のことを知ったのは、快斗と唯斗の母親、唯斗、美奈、莉奈のみんなが快斗の病室にいたときだった。 


 兄弟の母親の元へ電話がかかってきた。警察からの電話だった。



 プルルルル……



「あら警察からだわ、なにかしら…… 」


「何かあったの? 母さん 」


「わからないわ、ちょっと電話に出てくるね 」


「うん 」



 そして数分後、電話が終わった母親は今にもどこかへ行ってしまいそうな表情だった。 



「どうしたの? 母さん 」


「…… 」


「えっ? なんかあったの? 」


「美奈ちゃん、莉奈ちゃん…… 」


「どうしたんですか……? 」

「どうしましたか…… ? 」


「お父さんが…… 」


「はい? パパがどうかしたんですか? 」

「えっ! パパが!? 」


「交通事故にあったって…… 」


「え…… 」

「……… 」



 美奈は驚いた様子を見せて、莉奈は黙り込んでしまった。

 


「しかも、意識がなくて脳死の植物状態だって…… 」


「そ、そんな…… 」



 唯斗のみが反応をした。美奈と莉奈は言葉も出なかった。


 脳死とは、ヒトの脳幹を含めた脳すべての機能が廃絶した状態のことである。一般的に、脳死後に意識を回復する見込みは無いとされる。


 薬剤や人工呼吸器等によってしばらくは心臓を動かし続けることはできているが、やがて数日以内に心臓も停止してしまう。


 父親が交通事故で脳死。そんな現実をいきなり受け止めることはできないだろう。



 病室は凍りついた。目の前には心臓の病気の快斗。電話で知らされた美奈と莉奈の父親の交通事故で脳死。


 唯斗はそんな美奈と莉奈を見て、自分がしっかりしないといけないと強く思った。兄のことや自分と莉奈のことを悩んでいてばかりでは仕方ない。そう思って行動を起こすのだった。



「美奈さんと、莉奈は兄さんのことよろしく 」


「え…… ? 」

「どういうこと唯斗? 」


「おれ、母さんと一緒に大阪に行ってくるよ 」


「なんで唯斗が? 」


「まだ可能性あると思うんだよ 」


「…… 」


「母さん、大阪にすぐにいく準備して 」


「え、あ、うん…… 」



 そうして、唯斗と母親はすぐに大阪に新幹線で向かった。


 大阪に着き、すぐに美奈と莉奈の父親が入院している病院に向かった。


 病室に入ると、脳死状態である姉妹の父親がいた。先生に病状の説明を受け、事故での影響での話を受けた。


 唯斗は先生に聞く。



「先生、この場合の心臓移植は可能ですか? 」


 母親は過去にないほど驚いた。


「できないことはありませんが、ドナーカードがあった場合とここ数日間に限りますね。今すぐにでも行動しないと間に合わないと思われます 」


「母さん、ドナーカード調べて 」


「え、わかった… 警察の方に私物の方見に行ってみるね 」


「お願い 」


「唯斗はどうするの? 」


「おれはその可能性にかけて、説明を受けるよ 」


「わかった…… 」



 それから数時間が経ち、母親から唯斗の元へ電話が入った。



「もしもし、唯斗…… 」


「もしもし母さん 」


「ドナーカード、あったよ…… 」


「本当か?? 」


「うん、脳死状態のみ提供になっているわ 」


「わかった、ありがとう 」


「どうするの? 」


「美奈さんと莉奈に確認をとる、それで決めるよ 」




 そうして、唯斗は美奈と莉奈に電話をかけるのだった。

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