第49話 突然「トツゼン」



 修学旅行も終わり、少し憂鬱な日々が続いた。


 季節もだいぶ変わり、冬に近づき始めた10月後半の頃のことだ。


 普段通り変哲もなく学校に行く、ただ唯斗が悩む日々は続いた。


 どういった状況で伝えるのか、どういった形で莉奈に想いを打ち明けるのか。桃香にも結衣にも相談できず、一人ただ考えていた。




 修学旅行が終わって、学校が始まって1週間経った頃のことだった。


 桃香は放課後、莉奈を呼んでいた。



「桃香ー、話ってなにー? 」


「うん、ちょっとね 」



 2人は学校が終わった放課後、人のいない屋上で話をしていた。莉奈は先に唯斗に帰っているように伝えたため、唯斗は先に下校していた。



「あのね私、実は唯斗に告白したんだ…… 」


「そうだったんだ…… 正直何かあったのかなとは思ってたから、薄々気づいてたよ 」


「そうだったんだね…… 結果は多分言わなくてもわかるけど、振られちゃった。」


「……… 」



 桃香はあの時のことを思い出したのか、辛く険しい表情から涙が溢れ出す。



「あの時から、もう泣かない。もう唯斗のことでは泣かない。そう決めたのに…… 」



 そう呟く桃香を莉奈は無言で抱きしめた。



「莉奈……。」


「桃香よく頑張ったね 」


「莉奈ぁ〜〜…… 」



 桃香は溢れ出す涙を、もう隠すことはなかった。


 桃香は幼馴染みを理由に振られてしまったことや、今までの想いなど、全てを打ち明けた。併せてその上で隠すような形になってしまったことを莉奈に謝った。


 莉奈はそんな桃香の想いを分かっていたようだ。その上で何も怒ったり、嫌なことを一つも言わなかった。ただただ桃香を慰める。それだけだった。


 これが莉奈の優しさなのだろう。もちろん桃香も結衣も全員良いところがあり、全員優しい。3人とも本当に優しい女の子なのだった。



 お互いに話を沢山して、最後に桃香は莉奈にこう言ったのだった。



「莉奈、唯斗のことこれからもよろしくね 」


「うん… 私頑張るね! 」


「大丈夫だよ、莉奈なら! 」


「うん、ありがとうね 」



 こうして、2人は本当の意味で友達となりこれからも親友として仲良くなっていくのだった。


 女子が腹を割ってしっかりと話せることはなかなかない。だからこそ2人にとって本当の友達になれたことは一生の財産だろう。


 

 莉奈は桃香と話したあとはすぐに家に帰宅した。



「ただいまー 」


「おかえり莉奈〜 」


「唯斗はー? 」


「部屋にいると思うよ〜 」


「そうなのね、ありがとー 」


「唯斗くんと何かあったの〜? 」


「ううん、大丈夫だよ! 」


「そっか〜、じゃご飯になったらまた下に降りてきてねー 」


「うん、わかったよ! 」



 莉奈は2階に上がって、唯斗の部屋のドアをノックした。


 トントン……



「私だけど、入るねー 」


「おかえり、どうしたの? 」


「ううん、ちょっとね 」


「桃香と話は済んだの? 」


「うん、話聞いたよ 」


「そっか、じゃ全部知ってるんだな 」


「うん、知ってるよ 」


「おれの中で桃香とは友達なんだ。小さい頃からの繋がり。幼馴染みとしてこれからも接していきたいってしっかりと伝えたよ 」


「うん、唯斗がそう思ってるならそれでいいと思う。ちゃんと伝えてあげたのは桃香は辛い思いをするけど私は良かったと思うよ。曖昧にするよりはね… 」


「そうだよな、なら良かったよ 」


「うん、じゃまた後でね 」


「うん 」



 莉奈は唯斗の部屋から出て行った。


 唯斗は何か少し切なそうに莉奈が出ていくのを目で追っていた。


 今すぐにでも、自分の想いを伝えたい。それでも唯斗はその後のことを考えてしまい、なかなか踏み出せないでいた。


 そんな唯斗や莉奈の元へ、2人は予想もしていなかったことが起きる。


 

 夕飯の時間になり、唯斗と莉奈が一階に降りてご飯を食べ始めた。快斗は仕事が遅くなるため今日のご飯は別だった。 


 食べ始めてすぐのことだった。美奈の携帯に1本の電話が入る。



「あれ…? 唯斗くんのお母さんからだ 」


「母さんいきなりどうしたんだ 」


「ちょっと私出るね 」


「はい 」




 プルルル……プルルル……



「はい、もしもし〜 」


「あ、美奈ちゃん、大変…… 」


「どうしたんですか?? 」


「快斗が倒れたみたい…… 」


「えっ!?!? 」




 美奈の大きな声に唯斗と莉奈もびっくりする。


「どうしたのかなお姉ちゃん 」


「わからないけど、とりあえず何かがあったことには違いないな 」


 美奈の方を向いて唯斗と莉奈は言った。




「駅前の病院に救急車で運ばれたって聞いたから、今すぐ行ってもらえるかな? 」


「はい。今すぐに向かいますね 」


「うん、ごめんね本当に。私も今から大阪を出るから今日の夜遅くになっちゃうと思う 」


「わかりました。とりあえず病院に向かいますね 」


「お願いね。美奈ちゃん 」


「はい…… では失礼します。 」



 電話を切ったあと、美奈は信じきれない表情を見せて時計を見つめた。



「お姉ちゃんどうしたのー? 」


「…… 」



「美奈さん、美奈さん!! 」


「あ、ごめん…… 」


「どうしたんですか? 母さんに何か? 」


「いや…… 私病院行ってくるね 」


「病院? 美奈さんどういうことですか? 」


「…… 」


「ちゃんと説明してくれ!! 」



 唯斗は美奈に声をあげて言った。唯斗が美奈にこんな言い方をすることは恐らく初めてだろう。莉奈も驚いた様子を見せた。



「快斗くんが、、 快斗くんが倒れたらしい…… 」


「兄さんが!? 」

「えっ快斗くんが?? 」



 2人ともとにかくびっくりした様子だった。


 

 美奈は急いで準備を始めた。


 準備が出来上がり、玄関から家を出ようとした時だった。



「美奈さん!! 」


「私行ってくるから、2人は家にいて 」


「おれも行きます 」


「大丈夫だよ 」


「今の美奈さん1人では行かせられない。あとおれと兄さんは兄弟。おれの兄さんということも忘れないでください 」


「大丈夫、本当に大丈夫だから 」


「いや、でも…… 」


「とりあえず今は私も1人で行くから、家と莉奈のことよろしくね 」


「はい、わかりました…… 」



 そう言って、美奈は玄関から出てタクシーに乗って、病院に急いで向かった。



 家に残った2人は心配な様子がずっと続いた。



「やっぱり兄さん…… なんで隠してたんだよ!! 」


「唯斗…… 」



 血相を変えて机を叩く唯斗を莉奈は、声をかけることができなかった。




 一方、美奈は病院について部屋に案内されると、そこには彩乃がいた。



「あ、有村さん? かな? 」


「はい、そうですが 」


「私は仕事仲間の桐崎彩乃です。快斗くんが倒れて付き添いで来ました 」


「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました。 」


「いえいえ。快斗くんのことよろしくお願いします 」


「はい、ありがとうございます…… 」



 そう言って彩乃は病室から出て行った。




 点滴を打った快斗を見て美奈は泣き崩れた。



「なんで…… いつもどうしてなの……。」


「…… 」


「なんで病気のこと、言ってくれなかったの…… 」


「…… 」


「快斗くん……」



 泣きながら美奈は叫んだ。






 病室は美奈の叫び声だけが響き渡った。










 







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