第48話 結末「ケツマツ」




「私は、唯斗のことがずっと好きだったよ。前からずっと好きだよ。今もずっと好き。一番好きだよ…… 」



 桃香は溢れるばかりの気持ちを唯斗に伝えた。



「私と唯斗は幼馴染みという関係かもしれない。でもね小さい頃は気にしてなかったけど、大きくなるにつれて唯斗への気持ちがはっきりしていったの。もう伝える機会は今後ないかなって思って、今日伝えることにした。唯斗のことがずっと好きだよ…… 」



「桃香…… 」



 唯斗は数十秒間意識がどこかへいってしまったようにぼーっとしていた。


 あの時のことを思い出していたのだろう。


 数週間前の結衣に告白された時のことだ。あの時結衣の気持ちに答えることはできなかった。それどころか唯斗は彼女に背中を押された。年下の女の子に。はっきりしない唯斗の行動や気持ちが莉奈や桃香、結衣を困らせていたのだった。


 唯斗はそんなことや、この修学旅行に出発する時のこと、今までの莉奈と過ごしてきた一年半のことを思い出して自分が好きなのは、はっきりと莉奈ということを理解していた。



 唯斗が決した様子で口を開けた。



「桃香ごめんな…… おれは桃香のことはやっぱり幼い頃からの繋がりとして友達の関係が一番良いと思う。あとおれには好きな人がいる。だからごめんな…… 」


「うん、、、大丈夫だよ…… 」


「これからも、おれの少ない友達、そしておれの大事な幼馴染みでいてくれ 」


「うん、もちろんだよ 」


「じゃ、おれ部屋に戻るね 」


「うん、来てくれてありがとう…… 」


「うん 」



 唯斗は部屋に戻っていった。唯斗の背中が少しずつ小さくなっていくのを桃香はずっと見ていた。


 唯斗がその場からいなくなった瞬間、大粒の涙が溢れ落ちた。


 桃香、本人としては最も言われたくなかった言葉だろう。幼馴染みを理由に断られたこと。幼馴染みという括りにこんなにも悩まされて、ここまで辛い思いもしてきて、それでもなお最後も幼馴染みを理由に振られてしまった。小さい頃からの繋がりが全て上手くいくとは限らない。逆に一番辛い思いをするのかもしれない。桃香が幼馴染みという括りでなければ、結果は違ったのかもしれない……



「こうなるってわかってたのに、、、それでも唯斗に想いを伝えて良かったかな…… 」



 桃香は涙を必死に拭いながら呟く。


 桃香のこの想いは本当に大きかった。ここまで唯斗のことをずっと想うことができた。それだけ一途な想いだったのだろう。


 それでも唯斗には唯斗の考えがある。唯斗の想いもある。だからこそ唯斗は自分の恋を必ず成功させるべく行動をまた変えていくのだった。



 桃香の涙は溢れて止まらなかった。



「桃香ー 」


「……陸 」



 想いを伝えることを知らされていた陸が桃香の元へ励ましにきた。


 陸は桃香の頭を優しく撫でながら言った。



「よく頑張ったね 」


「…… 」



 桃香は陸の優しい言葉を聞いて、さらに涙が溢れ出す。


 陸は何も言わず、桃香のずっとそばにいた。陸の想いも複雑だろう……



 それでも、、それでも……




 そうして修学旅行の最終日前日の最後の夜は終わった。桃香はその日他の人に今日の出来事を言うことはなかった。


 帰りの飛行機や、バスでは少し気まずさがあるのか、桃香と唯斗が話すことは少なかった。莉奈はそんなことを知らずに、憂鬱な気持ちになりながらも最後の時間を楽しんでいた。


 東京に戻ってきて、長い移動時間を終えて唯斗と莉奈は家に到着した。



「ただいまーー!! 」

「ただいま 」



 2人が家の玄関を開けて元気よくただいまの挨拶をすると、快斗と美奈が玄関までやってきた。



「おかえり莉奈、唯斗くん 」

「おかえり2人とも 」


「ああーー帰ってきちゃったーー 」


「莉奈どうだった〜? 楽しかった〜? 」


「うんめっちゃ楽しかったよ! ね?唯斗! 」


「…… 」


「ん、唯斗ー! 聞いてるのー? 」


「あ、うん! 」


「まったくー、唯斗は本当に人の話聞かないよねー 」


「ごめんごめん 」



 そんな唯斗の様子を見た美奈は何かに気づいているようだった。


 唯斗は玄関で靴を脱ぎ、そのまま少しの間座っていた。莉奈は快斗と美奈とリビングの方に話をしながら向かっていった。


 

 唯斗は宣言通りに修学旅行から帰ってきた、近日に莉奈にしっかりと想いを伝えることができるのか……




 それとも……




 そして快斗と美奈は……






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