第47話 一番「イチバン」
唯斗と莉奈がバスの待つ学校へと飛び出してすぐのことだった。
「美奈ちょっと話がある…… 」
「どうしたの快斗くん? 」
「あのさ、美奈はおれのこと好きか? 」
「なにそれ〜、当たり前なこと聞かないでよ〜 」
「そ、そうか、よかった 」
「うん〜、いきなりどうしたの?? 」
「いや、ちょっと気になったんだけだよ 」
「本当にそれだけ〜? 」
「うん、本当にそうだよ 」
「快斗くんこそ、私のことちゃんと好きなの〜? 」
「もちろん好きだよ 」
「よかった〜 」
「うん 」
「なんか快斗くん最近変だよ、本当は何か言いたいことがあるんじゃないの? 」
「ううん、大丈夫 」
快斗は何度も何度も打ち明けようとした。打ち明けなければいけない。そうずっと心から思っていた。
それでも美奈や唯斗、莉奈を悲しませたくない、心配させたくない、そういった気持ちでずっと言い出せないでいた。ここ最近何回か言おうとはしても実際に本人たちを前にするとどうしても言い出せなかった。
ここで言わないことで美奈たちを心配にさせないがそれは今、現在のことだけである。もしもこれから快斗に何かあれば、その時はもっと心配や悲しませることになる。
それが分かっていても快斗はなかなか言い出せないでいた。それが人間なのだろう。特に快斗みたいな性格の人間は特に言い出せないのだろう。
恐らく、何かとはっきりは気付いていないが美奈と唯斗も快斗の変化には気づいているだろう。特に唯斗はなんとなく変と気づいている。でもなんとなくおかしいと言うのは大抵のことで当たっている。その違和感が大きくなる前にしっかりと解決しなければいけない。
そのなんとなくを大丈夫だからと言い聞かされて無視してしまうと、後に後悔してもしきれない結果になってしまうかもしれない。
後で「やっぱり…… 」となってはもう遅い。そうなりかねない前にはっきりさせたかった。しかしこの快斗では、なかなかはっきりさせるのは難しいことだったのだろう。
一方で唯斗と莉奈は……
バスの待つ学校に着いて桃香や陸、クラスメイトたちと空港行きのバスに乗り込んだ。
空港までのバスは、話したりゲームをしたりと高校生活一番のイベントの始まりを楽しんでいた。
空港に着いて色々と準備ややるべきことを済ませて、飛行機に乗り込んだ。唯斗は初めての飛行機で少し怖がっている様子を見せて、莉奈や桃香に笑われていた。
東京から沖縄までの2時間半程のフライトを終えて、10月でもまだ少し暑さの残る沖縄に着いた。
莉奈は伸びをしながら唯斗に言った。
「暑いねーーーー 」
「たしかに、制服着てたら暑いなー 」
「全然ワイシャツでもいけるね! 」
「そうだな! 」
みんなテンションが上がり、常に笑顔だった。唯斗は結衣と出発前に話したことを常に思い出していた。結衣に言われたからというわけではなく、その前からちゃんとこの修学旅行で莉奈との関係をはっきりさせる。しっかりと向き合うと決めたいたのだ。
しかし、そう思っていたのは唯斗だけではなかった。幼馴染みという立場に苦しめられる桃香もこの修学旅行で唯斗に想いを伝える。この機会ではっきりさせることを決めていた。
高校生活一番のイベントで、一番の相手に一番の想いを伝える。そしてはっきりさせる。そう決めていた。
桃香はもう一つ理由があった。自分の勉強に対する意識が薄れてきているようだ。受験生という大変な時期でもあり、勉強にも力を入れている桃香にとって他のことを考えるほど余裕はない。常に唯斗のことが気になって仕方がなかった。今まで以上に。
昔から好きだった唯斗に対しての想いがこんなにも溢れるとは思ってもいなかったのだろう。それは莉奈や結衣との出会いのおかげでもあり、その2人のせいで自分がおかしくなってしまったのかもしれない。
成功しても失敗しても、気持ちに区切りが付くとそう思っていた桃香だった。
それから唯斗たちは様々な観光地を周り、沖縄県という街をしっかりと目と身体で見て回った。海にも、もちろん行く機会があって、沖縄の海というものを身をもって体験した。莉奈の父親の別荘の海もとても綺麗だがそれよりもさらに綺麗で潮の匂いがむせるくらい濃厚だった。気持ちの良い波風は頬や首筋を撫でた。
自由時間には唯斗と莉奈と桃香と陸の4人で、楽しい時間をたくさん過ごすこともできた。莉奈と唯斗はお揃いのものを買っていた。桃香も唯斗と形に残るものを一緒に作ったりと、それぞれのやり方でそれぞれの距離が縮まっていた。
そんなそれぞれの想いを抱えた修学旅行は、とても濃い時間だった。あっという間に時間は過ぎて行って東京へ帰る日の前日の、最終日前日の夜のことだった。
唯斗たちが宿泊していたのは、リゾートのようなホテルでコの字型になったホテルの真ん中には夜でも入ることができ、様々な光に照らされる最高の雰囲気のプールや、ヤシの木、沖縄を100%に感じることができる雰囲気と景色が彩る。
そんな場所に唯斗は桃香に呼び出されていた。
「桃香、話ってなに? 」
「うん、来てくれてありがとうね 」
唯斗が呼ばれた場所へ着くと、桃香はもう待っていた。
桃香の顔はライトの光で夜でも分かるくらい、赤くなった頬が映る。
「私は、唯斗のことがずっと好きだったよ。前からずっと好きだよ。今もずっと好き。一番好きだよ…… 」
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