第46話 興奮「コウフン」


 台風も去り、普段通りの日々が戻ってきた。唯斗たちは高校生活で一番のイベントと言っても良い、修学旅行がすぐそこまで迫ってきていた。


 修学旅行を前日に控えた学校の日のことだった。


 クラスメイト中が活気に溢れていた。みんな楽しみにしている様子が見てわかる。もちろん唯斗や莉奈、桃香や陸もそうだ。


 莉奈が楽しそうに唯斗に話しかける。



「楽しみだね唯斗! 」


「そうだな! 」


「沖縄かー、沖縄なんて私が中学生の時に行った時以来に久しぶりに行くなー」


「沖縄なんて、おれは行ったことないよ 」


「えーそうなのー? 」


「うん 」


「じゃ、初めてなんだね! 」


「そうだな 」


「楽しもうね!! 」



 唯斗たちの学校の修学旅行の行き先は沖縄県だ。この沖縄での修学旅行の3日間がどれだけ濃く、この先の関係を変える深いものになるのかを、まだこの時の唯斗たちは知らない。


 そして、帰りのHRの時間で先生からの最後の注意事項や、連絡を受けて明日に待ち構えた修学旅行、前日の学校が終わった。



「じゃーまた明日ね! 」


「うん、また明日ねーー 」



 クラスメイトたちが教室から出て行く。


 陸も唯斗たちに別れを告げて教室から出て行った。



「じゃ唯斗、私たちも帰ろー! 」


「うんそうだな 」


「桃香ー私たち帰るねー! 」


「あ、うん! また明日ね! 」


「桃香はまだ帰らないのか? 」


「ちょっとだけ勉強していこうかなって 」


「偉いな、無理せずに頑張れよ! 」


「うん、大丈夫だよー 」


「じゃ、明日遅刻しないようにな 」


「それは唯斗でしょー! 唯斗はどうせ自分で起きないんだから、莉奈ちゃんと起こしてあげてねー 」



 桃香は笑いながら唯斗と莉奈にそう言った。



「本当ね、困っちゃうよー、しょうがないから起こすけどー 」


「自分で起きるわ! 明日くらい! 」


「あははは 」



 2人を見て笑う桃香の表情はどこか辛そうでもあり、何かを心に決めた様子でもあるような気がした。


 そうして、唯斗と莉奈は桃香と別れて教室から出て玄関に向かった。



「せーんぱいーーーー! 」


「あっ 」



 唯斗を呼ぶ結衣の声だ。



「結衣どうした? 」


「えーとですね、少しだけ話があります。莉奈さんちょっとだけいいですか? 」


「え、あうんいいよ 」


「悪いな莉奈、帰ってるか? 」


「ううん、待ってるよ 」


「わかった 」



 莉奈は前とは違った。唯斗の口から直接結衣について聞いていたため、今回は前回と違った。


 結衣に連れてかれて少し場所を変えて、唯斗は話を聞いた。



「どうしたんだ? 」


「えーと、お土産待ってますね!! 」


「それだけかよ! 」


「うそうそ! 嘘ですよー! 」


「そうか、それでなんの用だ? 」


「唯斗先輩は、修学旅行で莉奈さんに想い伝えるんですか? 」


「修学旅行で伝える気はないかな、修学旅行で今まで以上にしっかりと莉奈と向き合う。それでちゃんと帰ってきてから2人でどこかへ出かけて、おれの想いを伝えようかなって考えてるよ 」


「そうなんですね、修学旅行で言われるのもなんか羨ましいですけどねー 」


「なんか、その場のノリみたいな気がしておれはそれは嫌だな 」


「せんぱい、ちゃんとしてるんですね! 」


「当たり前だよ 」


「まあ、とにかく楽しんできてくださいね! あっ、私への特別なお土産もちゃんと買ってくることー! 」


「はいはいわかったよー 」


「じゃそーいうことで! 」


「おう、またな! 」



 唯斗は結衣と別れて、莉奈が待つ玄関に戻っていった。階段から玄関に向かう唯斗の背中を見て結衣はつぶやく。



「先輩、頑張ってね…… 」



 結衣は自分の気持ちを抑えて、好きと溢れる想いがあっても、それでも唯斗の幸せを願える。そんな心から相手のことを思うことができる優しい女の子だ。結衣にもまたいつか良い相手ができて、その人と幸せになれることを願うしかない。それまでは唯斗のことが好きで辛い思いもするだろうが……



 玄関に唯斗が戻ると、莉奈は座ってスマホをいじっていた。



「ごめん、待たせて 」


「あら、意外と早かったね 」


「うん、別にそんなに大して重要なことでもなかったからな 」


「何を話したのー? 」


「お土産買ってこいだってよ 」


「あー、結衣ちゃんらしいねー 」


「うん、じゃ帰ろっか 」


「うん!! 」



 2人は学校から出て、家に向かって歩き出した。


 修学旅行が楽しみでその話で盛り上がっていたせいか、唯斗と莉奈はいつもより家に着くのが早く感じていた。


 家に帰ってからも、最後の準備の確認などをして修学旅行に行く気がどんどん高まっていった。


 夕飯の時間も修学旅行の話ばかりだ。今日は快斗も帰宅して4人での食事だった。快斗と美奈の修学旅行の思い出などを話して、唯斗と莉奈の気分をさらに高めた。お土産の話などでも盛り上がっていた。


 そしてその日が終わり、ついに修学旅行出発の当日の朝になった。


 唯斗は自分で言った通り、自分で起きてきた。美奈と莉奈は驚いた様子を隠せなかった。



「えー唯斗が本当に自分で起きれるとはー 」


「おれだってやればできるんだよー 」


「じゃこれからは自分で起きれるね〜 」


「えー美奈さんに、毎朝起こしてもらいたいです 」


「なによ、私じゃだめなの? 」


「いやそんなこと言ってない 」


「あっそ!! 早く準備してね 」


「はいはいー 」



 唯斗と莉奈は準備をすぐに済ませて、出発の時間になった。



「じゃ2人ともいってらっしゃい〜 」


「うん! じゃお姉ちゃん、快斗くんいってきます! 」

「兄さん、美奈さんいってきます 」


「気をつけてなー 」


「うんー! いってらっしゃい〜 」



 美奈と快斗に出発の別れを告げて、唯斗と莉奈はバス待つ学校に向かって歩き出した。





 家に残った美奈と快斗は……





「美奈、ちょっと大事な話がある…… 」

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