第45話 台風「タイフウ」
公園から唯斗と美奈は一緒に家に帰宅した。
家に帰ると、唯斗は莉奈の部屋にすぐ向かった。
トントン……
「入るよ莉奈 」
「うん 」
「ただいま、帰りいきなりごめんなー 」
「いいけど、何かあったの? 」
「ううん、何もないよ 」
「そっか 」
唯斗は今日の結衣のことは話さなかった。
心の奥にしっかりと閉まって、少しずつ行動を変えていくのだろう。
「唯斗はさ…… 」
「うん? 」
「ううん、なんでもないや…… 」
「なんだよー、言ってくれ 」
「ううん、やっぱりいいの…… 」
「そっか、じゃおれはひとつだけ莉奈にしっかりと言っておくわ 」
「うん……? 」
「結衣のことは好きじゃないからな、あいつはおれの中では妹みたいなもんだからな 」
「え? 」
「莉奈が気になることはそれかどうかは分からないけど、それは言っておくわ 」
「え、うん…… 」
「あと、美奈さんがもう少ししたらご飯って言ってたからー 」
「うん、わかった 」
唯斗は莉奈の部屋から出て行った。
莉奈は何か少しスッキリしたような顔をしていた。
こうした唯斗の行動が、少しずつ2人をまた変えて行くのだろう。
「唯斗くんと莉奈ー、ご飯だよ〜 」
「はーい 」
一階から呼ぶ美奈の声がする。
唯斗と莉奈は一階に降りた。
夕飯を3人で食べ始めようとした時、快斗が帰宅した。
「ただいま 」
「あ、快斗くん帰ってきたね 」
「兄さん、なんか久しぶりな気がするな 」
美奈が玄関に行くと、美奈は快斗をみて驚いた。
「大丈夫? 快斗くん 」
「大丈夫だよ、少し体調悪いから帰ってきたんだ 」
「顔色も悪いし、なんかすごい辛そう 」
「部屋でゆっくり休むよ 」
「うん…… 快斗くん大丈夫……? 」
「うん大丈夫だよ 」
「本当なの……? 」
「うん 」
美奈は心配そうな顔をしながら2階に上がって行く快斗の背中を見ていた。
「快斗くん…… 」
美奈は玄関から、唯斗や莉奈が待つリビングに戻ってきた。
「あれお姉ちゃん? 快斗くんは? 」
「体調が良くないみたいで、帰ってきてすぐに2階に上がって行ったよ〜 」
「そうなのー? 快斗くん大丈夫かなー 」
「美奈さん、おれにはそう思えないんですが、本当に兄さんは体調が悪いだけですかね? 」
「わからない… でも本人がそうやって言ってるから 」
「そうですよね 」
「冷めちゃうから、ご飯食べよ〜 」
美奈は唯斗や莉奈の前では弱い姿はみせなかった。本当は心配で心配で仕方ないのに。それでもこれが美奈の強さでもあり、弱さなのだろう。
一方、快斗は……
バタン…
快斗はベットに倒れ込んだ。
「もうそろそろか…… 」
何かを思い詰めていた。本人にしかわからない。それでも快斗は何かと闘っていた。
そしてそれから快斗は数日休むことはあったが、また普段通りに仕事に向かって家を出ていっていた。
唯斗や莉奈も学校を今まで通りに行っていた。
それから数日が経って、10月に入ってすぐのことだ。台風が近づいてきて学校が休みになった。その日、快斗も美奈も家にいた。4人が久々に家に1日いることになった。
「雨やばいねー 」
「そうだね、ちゃんと雨戸閉めておいてよかった〜 」
「風も強いな、これじゃ仕事も学校も無理だったな 」
「兄さん、少し大事な話があるからおれの部屋に来てくれないか? 」
「どうしたんだ唯斗 」
そう言って、唯斗は快斗を連れて自分の部屋に向かった。
ガチャ……
唯斗は部屋に入り電気をつけた。
「唯斗話ってなんだ 」
「兄さん何か、俺たちに隠してないか? 」
「何かって何も隠してないけど? 」
「いい加減にしてくれよ 」
「何でそんなに怒ってるんだ 」
「兄さん、本当はなんかの病気なんじゃないの? 」
快斗は確信をつかれたように、少し何かビクっとしていた。
「兄さんおかしいよ…… 仕事仕事って本当に仕事でそんなに忙しいの? 」
「仕事だよ、本当に最近は忙しくて。心配かけてごめんな 」
「嘘はつかないでよ、前みたいに。今回は何かもう取り返しがつかないような気がしてならないんだよ 」
「大丈夫だよ、お前たちには何も心配はかけない 」
「信じれない…… 後から後悔するのはもうやめようってあの時言ったじゃん。おれも兄さんの問題とは全然違うけど、ここ最近色々とあって自分と向き合わなきゃってしっかりと思うようになったんだよ。もういい加減に逃げるのはやめようって 」
「お前にいろいろと何があったのかはわからないけど、おれは大丈夫だ 」
「わかったよ…… 」
「じゃおれ自分の部屋行くから 」
「うん… 」
快斗はそう言って、自分の部屋に行った。唯斗は何かを考える様子を見せて美奈や莉奈のいる1階へと戻っていった。
快斗は自分の部屋のドアを開けた。
ガチャ……
机の引き出しを開けた。薬のたくさん入った袋を見て、快斗は涙を溢した。
「なんで。なんでなんだよ…… 」
その袋を壁に思いっきり投げた。中から出てきた薬が部屋の床に散らばる。
快斗の涙と台風の大粒の雨が同時に流れる。そんな台風の日だった。
後悔したくない。そう思っても自分を騙すしかなかった。快斗だって言うことができればもっと前に言えたのだろう。それでも言えないこともある。壊れかけた快斗の心は……
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