第40話 紺碧「コンペキ」
青く澄み渡る広大な空に太陽は笑顔で顔を出す。
梅雨が明けて夏らしく暑い季節がやってきた。唯斗たちにとっては高校生最後の夏がやってくる。もちろんこの夏が唯斗や莉奈、美奈や快斗の4人を大きく進展させる夏になるだろう。そして、桃香や結衣も大きく変わるだろう……
7月に入ってすぐの日のこと…
「おはよう唯斗ー 」
「……おはようございます 」
窓越しにカーテンの間から差し込む初夏の日差しが暑さを感じさせる。
「ん……莉奈? 」
「そうだけどなに? 」
「美奈さんかと思った 」
「悪かったね! お姉ちゃんじゃなくて! 」
「いや、そんなことは言ってないけどー 」
「早く起きて! 下に降りてるからね 」
「はいはいー 」
いつも通りの朝が始まった。
唯斗が下に降りて、いつも通り準備を始めると快斗が仕事に出かけようとしていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい〜 」
美奈が快斗を送り出す。周囲から見ればもうこの2人は付き合っていると言われても、なにも異変を感じない。それどころか結婚したての夫婦と言われても不思議ではない。
そんな2人とは唯斗と莉奈は違った。
「唯斗早くしてってー 」
「待てってー 」
「本当にもうーおそいー! 」
いつもと変わらない。そう思うだろう。それでも莉奈は少しずつ自分の中で変わり始めていた。自分のはっきりとした気持ちや桃香や結衣の周りの気持ちにも気づいた自分に焦りを感じ始めていた。それだけでなく、伝えたくてもなかなか伝えることができない自分の溢れる想いにも苦悩していた。
「お姉ちゃんいってきまーす 」
「美奈さん行ってくるねー 」
「2人とも、いってらっしゃい〜 」
美奈は笑顔で2人を送り出す。
唯斗と莉奈は学校に向かって歩き出した。太陽の熱をもろに受けるアスファルトから熱さがこみ上げてくる。
「一気に夏らしくなったよねー 」
「そうだな 」
「今年の夏休みも別荘に行けたりしたらいいねー 」
「色々と楽しみだな 」
「そうだねーー! 」
2人は学校に向かって学校に着き、教室に入るといつも通りの朝を迎えた。
その日も莉奈と桃香2人とも、唯斗との確信的な距離を縮めることはできなかった。それに対して結衣はいつでも積極的だ。そんな結衣を間近で見て、莉奈や桃香はどう思うのだろう。よく思うことはないだろうが、彼女の積極的な姿勢に羨ましさを覚えていることもあるだろう。
その日の学校が終わると、唯斗は進路のことで先生に呼ばれて職員室に行って話をしていた。
莉奈は唯斗と一緒に帰ろうとしていたが、話があることを伝えられて先に帰った。
桃香は1人教室に残って、勉強をしていた。高校3年生の夏は勉強に励む時期である。桃香は自分の進路実現のために勉強をしていた。
なぜか、桃香の勉強する姿は切なさを感じさせる。窓からの夕方の少しだけ涼しい夏の風。そして沈み始める太陽が桃香のいる教室を彩る。
そこへ唯斗が、先生との話が終わって教室に戻ってきた。
「桃香、まだ勉強してたんだ 」
「あっ唯斗 」
「お疲れ様、頑張ってんな 」
「うん、ありがとうね 」
「まだ帰らない? 」
「うん、私はもうちょっと勉強していこうかなって思ってるよ 」
「そっか、じゃ頑張れよ 」
「うん、ありがとうね! 」
いつからだろう……
桃香は唯斗と自分の距離間がこんなにもあるように感じるようになったのは、いつからだろう。そう考えることも日々増えている様な気がしていた。
唯斗が教室から出て行った。その後ろ姿を見て桃香は、なぜかあの時のことを思い出した。
そう、あの時のことを。
帰りに雨が急に降り出した紫陽花祭りの日のことを。あの時、桃香は自分言ったにも関わらず、後に当たり前のように後悔していた。唯斗と莉奈が一つの傘に入って帰っていく様子を振り返って見ていた自分の目に映った唯斗の背中と、今教室から出て行った唯斗の背中が何か似ていたのか。
もう少し話したいのに……
もう少し2人きりでいたいのに……
もう少し、もう少しだけでいいから……
そう思った桃香はすぐに席を立ち、唯斗の元へ走り出していた。
桃香は最近の結衣の積極的な姿や、少しずつ変わり出していった莉奈を見て、自分も変わらなきゃと何か決心したのだろう。
「唯斗ー! 」
「ん? どうしたの桃香 」
「あ、あのさ…… 」
「うん? 」
「私と唯斗は小さい頃から大事な繋がりの幼馴染みだけど、もう幼馴染みとして見るのはやめて…… 」
「どーいうこと? 」
「幼馴染みってことは変わらないけど、私のことを女の子としてしっかり見て欲しい 」
「桃香……? いきなりどうしたの? 」
「いきなりなんかごめんね… 」
「ううん大丈夫だけど、おれは桃香のこと普通に女の子として見てるよ? 」
「え、う、うん…… 」
「何かあったのか? 」
「大丈夫、ごめんね! 」
「うん、おれは全然大丈夫だけど 」
「じゃ、気をつけて帰ってね 」
「うん、桃香も勉強頑張れよ 」
「うん! 」
唯斗は廊下を歩いて、階段に向かっていった。
どんどん小さくなっていく唯斗の姿を見ながら桃香は本音を溢した。
「唯斗にとって普通に女の子か…… 」
桃香は何か晴れない気持ちだった。嬉しいことを言われたはずなのに。求めていたことを言ってもらえたはずなのに。
幼馴染みじゃなかったら、幼馴染みという括りの関係でなかったら桃香と唯斗の関係はもっと違ったのかもしれない……
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