第38話 動揺「ドウヨウ」
莉奈は伝えたい想いがあるのは確実なこと。しかし、この想いを伝えて今の関係が変わってしまったら……
そう考えている莉奈はなかなか想いを伝えられずに悩んでいた。
自分だけでなく、同居している唯斗の兄や自分の姉にも、自分と唯斗の関係が変わったら迷惑がかかる。そんな気がしていた。
それから、唯斗と莉奈は今まで通りの何も変わらない関係に仲直りしていた。それでも莉奈の抱えてる悩みは簡単ではなかった。唯斗自身も何か考えているのだろう。でもそれはお互いに全く伝わることがなかった。
学校では、積極的な1年生の今田結衣が唯斗に対して、今まで以上に積極的に唯斗の元へ来ることも多くなっていた。
桃香も桃香で、その1年生や莉奈に対して考えることがたくさんあるようだ。
3人ともそれぞれの想いがあり、周りのことも色々と気にすることがあるらしく、大変なのだろう。
唯斗がはっきりするのが一番早い解決策。もちろん唯斗の気持ちは固まってるのだから。でも唯斗もなかなか言い出せないのはわかる。わかっていることで、向き合っているつもりでも、どこか自分の気持ちから逃げているのだろう……
そして、そんな唯斗たちの日々も過ぎていき、少しずつ汗ばむ季節になり始めていた。紫陽花が彩りよく咲いている6月の上旬の出来事だった。
いつも通り、学校に唯斗は莉奈と向かって教室に入った。
「おはよう唯斗、莉奈! 」
「おはよう 」
「おはよう桃香ー! 」
学校がいつもよりどこか騒がしく、それに気づいた莉奈が桃香に聞いた。
「今日何かいつもより騒がしい気がするけど、何かあるのー? 」
「私もさっき聞いたんだけど、イルミネーション行ったところ覚えてる? 」
「うん、覚えてるけど、そこがどうかしたのー? 」
「そう、そこでね今年からの新しいイベントやるらしくて、紫陽花祭りが始まるらしいのー 」
「なんのイベントー? 」
「なんか紫陽花がたくさん咲いてて、夜ライトアップするらしいよー 」
「なにそれー! めっちゃ楽しそうだねー! 」
「うん! きっとすごい綺麗だよねー 」
「よし、桃香、行こう!! 」
「えっ! うん! 行こっか! 」
「てわけで、唯斗決まったから今日の夜はそういうことだからねー 」
「いや、おれもかよ、しかも勝手にだしな 」
「行かないの……? 」
「行くよ、行く行く 」
「はーい、じゃ決まりねー! 」
やはり唯斗は莉奈には弱いらしい。それをいつも見てる桃香は少し複雑な感情だ。そんなこと唯斗が分かるはずもないが。
陸もほぼ強制で、行くことになった。4人で出かけるのは久しぶりで莉奈と桃香はとても楽しみにしていた。
その日の学校の時間も過ぎて、楽しみにしていた夜に時間が近づいていく。
放課後になり、帰りの支度をしていた時だった。
桃香や、陸たちはもう教室にはいなかった。唯斗の帰りの準備を待つ莉奈と、他に2、3人クラスメイトがいた。
すると、何か急いで唯斗たちの教室に入って来る女の子がいた。
「せーんぱい! 今日の夜暇ですよね? 」
「結衣、どうしたんだよー 」
結衣が何か急ぎの用事がある様子で、教室に入ってきて唯斗の元へ来た。
「暇ですよね? 」
「今日はちょっと予定あるんだよ 」
「えっ、なんのですか!? 」
「そんな驚かなくても、おれだってちゃんと予定くらいあるんだよ 」
「それで、なんの予定ですか? 」
「紫陽花祭りに行くんだよ 」
「……ん、 誰と行く予定ですか? 」
「莉奈たちと行く 」
「たちってことは、2人きりじゃないんですね? 」
「4人かな 」
「じゃ、私も一緒に連れてってください 」
「いや…それは…… 」
「だめなんですか。私だけみんなの仲間外れなんですね…… 」
結衣は泣きそうな顔をして、唯斗を困らせる。
「いや、別に仲間外れってわけじゃないけどさ…… 」
「じゃ、大丈夫ですね! 」
結衣は泣き顔から、一転してすぐに笑顔で寄ってきた。
「莉奈ー、連れてってもいいか? 」
「……だめって言ったところで、普通について来るでしょ 」
「そうだな 」
「やったー!じゃ、唯斗せんぱいのお家に準備したら行きますので、住所教えてください 」
「い、いえ!? 」
「なんでそんな驚くんですか? 」
唯斗はこの時かなり、焦っていた。そもそも莉奈と同居していることを隠している。それがこんな積極的で、天真爛漫な結衣にバレたらとんでもないことになる。なんとかしなければいけない。そう考えていた。
「いや、俺の家に来るんじゃなくて、俺がお前の家まで迎えにいくよ 」
「えーー!! わざわざ迎えに来てくれるなんて、せんぱーい優しいー! 」
「ああ、そうだな 」
「じゃ、またお家で待ってますねー! 」
「はいよー 」
結衣は唯斗たちが同居しているなんて考えてもいなくて、自分の家に唯斗がわざわざ迎えに来てくれることが、とても嬉しそうだった。
「ねー唯斗 」
「ん? 」
「なんでもないや… 」
「どうしたんだよ 」
「ううん 」
莉奈は何かを言いたいような様子だった。少し表情も険しかった。
そして、唯斗と莉奈は家に帰り、莉奈は待ち合わせ場所に先に向かった。唯斗は結衣のことを迎えに家まで行った。
唯斗は結衣と一緒に待ち合わせ場所に向かった。
5人で紫陽花祭りに行くことになったが、それを待ち合わせ場所で知った陸と桃香は驚いた様子だった。
そんな5人は紫陽花祭りの会場であるイルミランドに向かって歩いていた。
「そういえば、イルミネーションに見に来た時以来だねー 」
「そうだなー 」
「あの時、そういえば桃香足を怪我したよねー! 」
「そうだね、そんなこともあったねー 」
「懐かしいなー 」
歩き続けた5人は、イルミランドに着いた。
料金を払い、中に入ると一面に紫陽花が綺麗に咲いていた。
「うわぁー、綺麗ー! 」
「ほんとに、綺麗だねー 」
莉奈と桃香は楽しみにしていただけあって、とても楽しそうだった。
「せーんぱい! ちょっと2人であっち行きましょ! 」
「いや、まずいよそれは 」
「行きますよー! 」
「……っおい 」
結衣は唯斗の手を引っ張った。
「待って!! 」
莉奈が唯斗の反対の手を掴んだ。
「結衣ちゃん、勝手に唯斗のこと連れてかないで 」
「え? 何かだめですかー? 」
「何かって…… だって、5人で来てるんだからー 」
「莉奈さんは、唯斗せんぱいの何ですか? 」
「何って言われても…… 」
「私は、唯斗せんぱいのことが好きです。だから2人きりで居たい、それだけです 」
「う、うん…… で、でもだめだって! 」
「何がだめなんですかー? 」
唯斗を挟んで言い合う2人。そこへ桃香も来た。
「結衣ちゃん、今日は5人で来てるんだから5人で回ろうよー 」
「うーん…… 桃香さんにも言われたら、しょうがないので今日は我慢しますー 」
莉奈は何か、浮かない顔をしていた。
そして、唯斗はこの莉奈の行動をどう思ったのだろう。
この時の言葉や行動の一つ一つが、後に色々と考えるきっかけになるだろう。
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