第37話 年下「トシシタ」
唯斗たちが3年生になった新学期初日に、唯斗はある新しい女の子との出会いがあった。
その女の子の名前を聞くことなくその日は学校から家に帰った。
「ただいま」
「おかえり〜、おそかったね 」
美奈が出迎える。快斗と美奈は2人で今日は出かけていたが莉奈が帰る前の夕方には帰宅していた。
「ちょっと話が長くなっちゃって 」
「え? 制服それどうしたの?? 」
「あー、これ帰りに1年生の子とぶつかっちゃってジュースかかっちゃったんですよね 」
「あら〜、すぐに洗うから、洗濯物のところに出しておいてね 」
「ありがとうございます 」
「おかえり唯斗 」
「おー莉奈、ただいま 」
「なにその服 」
「いま説明したところなんだが 」
唯斗はもう一度莉奈に美奈にした説明と同じ説明をした。
「それは大変だったねー 」
「うん、そうだな 」
「じゃ唯斗くん、夕飯できてるから、着替えてすぐに降りて来てね〜 」
「わかりました 」
「お姉ちゃん、何か手伝うよー 」
「じゃ、盛り付けと運ぶの手伝って〜 」
この時は、今日のぶつかった出来事が今後にまた何かをもたらすことは唯斗も、もちろん莉奈もまだ知らない。
唯斗が着替えて下に降りてくる時に、快斗も部屋から出てきて、降りてきた。
なんの変わりもない4人での食卓。今日も一日がこうして終わっていくのであった。
次の日
「おはよう唯斗くん、起きて 」
「……おはようございます 」
美奈が唯斗の部屋のカーテンを開ける。唯斗はカーテンからの眩しい日差しに目蓋を開けることができない。
「おはよう唯斗 」
「おはよう莉奈 」
「あれ兄さんは? 」
「今日は仕事でもう出かけていったよ 」
「早いなー兄さん 」
「唯斗ももっと早く起きた方がいいよー 」
「朝は弱いから、それは厳しいな 」
「あと、そろそろ毎朝お姉ちゃんに起こしてもらうのやめなよー 」
「なんでだよ、これがいいんだよー 」
「じゃ、私が起こす明日から 」
「やだよお前に叩き起こされるのは 」
「なんでよ、普通に起こすだけだし! 」
「怖くて、朝の目覚めがすごい悪くなりそうだなー 」
「ふざけないで! それならもう自分で起きて! 」
「はいはい、じゃ明日からお願いしますね 」
唯斗は莉奈と喋りながら支度を済ませて、学校に向かう準備ができた。
「じゃ、美奈さん行ってきます 」
「お姉ちゃん行ってくるねー 」
「はーい、いってらっしゃい〜 」
2人は学校に向かって歩き出した。
桜木の木漏れ日が差し込む通学路。気持ちの良い風が桜の花びらを散らつかせる。
学校のすぐ近くまで2人が着いて、学校に入ろうとした瞬間のことだった。
「せーーんぱーーい! 」
「ん? 」
唯斗は誰かは理解できなかったが、聞き覚えのある声に振り向いた。
「唯斗せーんぱいおはようございますー 」
「あー! 君は昨日の! 」
「君? 唯斗、この女の子は誰ー? 」
「えーとね、昨日の、制服のやつのぶつかっちゃった子だよ 」
「ぶつかっちゃった1年生って女の子だったのね… 」
「唯斗せーんぱい! ちょっとー、この可愛い方は彼女さんですか? 」
「い、いや彼女じゃないよ! 」
「なんで焦ってるんですかー? 」
「いや、焦ってはない 」
「唯斗、私先行っているね 」
「おーい、莉奈ちょっと待てって! 」
「あらー、なんか怒っちゃったー 」
「まったくあいつは 」
「どーいう関係なんですか? 」
「ちょっといろいろあるんだよ 」
「そうなんですかー、そのうち教えて下さいねー 」
「まあそのうちな、ってか君の名前は? 」
「そういえば、私の名前まだ教えてませんでしたね、ここの学校に入学した新1年生の今田結衣です。結衣って呼んでください! 」
「結衣ちゃんか、よろしくね! 」
「結衣でいいですよ! 」
「わかったよ 」
「じゃ、また! 」
こうして、結衣は唯斗の前から去って行った。
唯斗が教室に着き、入った。後ろの席にいる莉奈の元へ近づくと、不穏なオーラが漂っていた。何か怒っているような様子が一瞬でわかる。
「莉奈、怒っているか? 」
「なに? 」
「いやー、そのあれはぶつかっただけで、おれは名前も知らなかったんだけどな… 」
「あら、そうですか。とても楽しそうに会話していたので、私は邪魔じゃないかと思いまして… 」
「いや、違うんだってー 」
「ふんっ…… 」
「はぁ…… 」
朝から、今田結衣との出会いで唯斗は少し大変なことになってしまった。莉奈は怒ると機嫌を取り直すのが本当に大変だ。
その日の学校は口をきいてくれなかった。唯斗から話しかけることもあまりなかったが。
下校の時間になり喋ることはなかったが、唯斗は莉奈の横を歩いて、下校しようとしていた。
「唯斗せんぱーい! 」
「あっ…… 」
「いま帰りですかー? 」
「そうだけど、どうしたんだよ結衣 」
「帰りなら少しお話ししたいので、一緒に帰れないかな〜って 」
「いや、そのね… 」
莉奈は早歩きで家に向かって歩き出していた。だんだん莉奈の姿が小さくなっていった。
「あの可愛い方とは、付き合ってないのに一緒に来て一緒に帰るんですね 」
「いや、だからその色々あるんだって 」
「教えてくださいよー 」
「それはちょっとできないけど 」
「えー、先輩いじわるー! でもあの人とは付き合ってないんですよね? 」
「付き合ってはないよ 」
「じゃ、私と一緒に帰っても別に、なんの問題もないですね? 」
「まぁ、問題はないけど… 」
「じゃ、行きましょ! 」
「ちょっとおい…… 」
結衣は唯斗の手を引っ張って歩き出した。
結局唯斗は結衣の家の近くまで送っていった。唯斗たちの家と同じ方面だったため、そこまで困ることはなかったが…
とにかく唯斗は家に帰りづらくなってしまった。
それでも唯斗は家に向かって歩き出して、家に着き、玄関を開けた。
「ただいま 」
「おかえり〜 」
「莉奈は帰ってきましたか? 」
「うん、なんか無言で上がって行ったよ〜 」
「やっぱりですか… 」
「何か喧嘩でもしたの〜? 」
「いや、喧嘩とかはしてないんですが、ちょっと今日色々とあって 」
「あら、まぁ仲直りしておいで〜 」
「はい、ちょっと話してきます 」
そう言って、唯斗は2階に上がって莉奈の部屋に向かった。
トントン……
「莉奈、入るぞー 」
「…… 」
ガチャ……
唯斗は部屋に入った。
「莉奈、また結衣になんか捕まっちゃってごめんな 」
「で、なに? 」
「いや、ごめんって言いにきただけ 」
「なにがごめんなの? 」
「なにがって、言われても…… 」
唯斗はこの時、莉奈の質問にしっかりとした答えを答えられなかった。
「そーいうとこだよ… はっきりしないよね唯斗は 」
「なにがだよ、いきなりどうしたんだよ 」
「この際だから、言うよもう。桃香のこともそうだけど、その1年生の子とかはっきりしないのは良くないよ。本当に唯斗のこと好きな人がいるってことちゃんと覚えておいた方がいいよ… 」
「なんだよそれ 」
「そのままだよ 」
「別に俺は桃香も、結衣も好きじゃないけど何か莉奈は勘違いしてないか? 」
「じゃそろそろはっきりしてよ…… 」
「なにをだよ…… 」
「ううん……なんでもない。今回は私が勝手に怒っちゃっただけだから、気にしないで 」
「う、うん 」
「ごめんね… 」
唯斗は莉奈の部屋から出て行った。
莉奈は何かいけつかない表情だった。気持ちの整理が上手く出来ずにいた。どうすればいいのかわからない自分と素直になれない自分との葛藤が莉奈の心を苦しめる。
莉奈の気持ちはとっくに決まっていた。それでもなかなか言えない。素直になれない。唯斗はそんなことはまったく知らない。しかし、それは伝えなければわからないのかもしれない。でもここまでの行動などで気付かない唯斗もかなり鈍感だ。
唯斗も自分の気持ちを伝えるべきであると自分でもわかっている。しかし莉奈の気持ちを考えてしまっていた。自分のことを好きだなんて1ミリも思っていない。
この2人はあと一歩お互いが変われば、2人とも幸せになれる。その一歩が大きいのかもしれない。それを少しずつ理解し始めた。
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