第35話 変哲「ヘンテツ」


 色々とあったバレンタインも過ぎ去り、3月に入った。寒さも少しずつ和らぎ、過ごしやすい気候になり始めた。


 唯斗たちもこの3月を終えると、4月からは高校3年生になる。そんな時期だ。



 3月に入ってすぐの日の学校のことだった。


 その日、授業で進路について決める時間があった。唯斗はその時間自分の進路が全く決まっていなくて、困っていた。



「唯斗ーどうするの? 」


「うーん、何したいとかまだ決まらないんだよな 」


「えー困るじゃんー 」


「莉奈はなんて書いたの? 」


「私は、大学進学かな 」


「そうかー、お前は頭いいもんなー 」


「まあねー、唯斗も大学にすればー? 」


「いやー、それが大学まで行って勉強はしたくないんだよな 」


「あらー、そうなのねー 」


「うーん 」



 結局、唯斗はその時間に決めることが出来ず、明日までに提出する今日の宿題になった。


 そうして、授業も終わり唯斗たちは学校から家に帰った。


 家に帰り、すぐに唯斗は美奈に相談した。



「美奈さんー、俺進路どうしたらいいんだろうー 」


「う〜ん、やりたいことが見つからないのもわかるけどな〜 」


「なんでみんながそんなに決まってるのか不思議でしょうがないなー 」


「たしかに私が高校生の時も、みんな結構早かった気がするな〜 」


「なんで美奈さんは、大学へ進学しようと思ったんですか? 」


「私も特にやりたいこととかがあんまりなくて、とりあえず大学を出ておきたいからって感じかな〜? 」


「それで大学に行ける頭がすごいですよー 」


「全然だよ〜 」


「俺に比べたらいいですよ 」


「快斗くんは、すぐにモデルって決めたのかな〜? 」


「兄は高校生の時から、少しモデルの話を貰ったりしてて、卒業と同時に正式にスカウトされてすぐになったって感じですかね 」


「それもなかなかすごいよね〜 」


「はい 」



 唯斗はこうやって悩むことを心のどこかで分かっていたのかもしれない。小さい頃から兄は何をするのも上手くこなす。自分とは違った兄を持つと、兄に憧れるものではあるが兄にはなれない。それがまたモデルなんて、そう簡単になれるわけがない。唯斗のルックス的には別にそう難しいことではないとも思うが、本人の気持ち的にも難しいのだろう。



 そんな唯斗の相談だったが、結局解決することなく夜になり、快斗も帰宅して夕飯の時間になった。


 いつも通りの食卓だったが、唯斗の顔は何かいつもより曇っていた。


 夕飯が終わると、そんな唯斗を見て心配したのか快斗が唯斗を二階のベランダに呼び出した。


 快斗を追いかけて、唯斗はすぐにベランダに向かった。



「兄さん、急にどうしたの? 」


「それはこっちのセリフだ、莉奈とでもなんかあったのか? 」


「何にもないよ 」


「じゃあどうしたんだよ 」


「うーん、進路で悩んでて 」


「進路か 」


「うん 」


「やりたいこととかはないのか? 」


「それが全然なくて、困ってる 」


「じゃ、モデルやれよ 」


「え、俺には無理だよ 」


「お前ならできるよ、俺ができたんだから 」


「それは兄さんだから、できてるんだよ 」


「お前にもできるよ絶対に 」


「できないよ俺には 」


「向いてると思うけどな 」


「そうかなー? 」


「少しやってみればいいじゃないか 」


「そんな簡単にできるものじゃないでしょ 」


「大丈夫だよ、お前のルックスがあれば、なんの問題もない 」


「本当に? 」


「ああ、是非お前にもこの仕事の楽しさを理解して欲しいな 」


「うん、前から興味がなかったわけでもないし、少しやってみようかな 」


「そうだな、頑張れよ 」


「うん、ありがとう 」


「おう 」



 そう言って、唯斗はベランダから部屋に戻り、1階に降りて行った。


 快斗は1人ベランダに残った。何かを考えた様子で快斗は空を見つめていた。




 こうして、唯斗は一応モデルの仕事や、雑誌の仕事をしたいと決めて、その道に行くことを決めた。


 美奈や莉奈も、もちろん後押ししてくれて、本人的にもこれで良かったのかもしれない。





 次の日の学校で無事に先生にも言うことが出来てよかった。唯斗も少し安心していた様子を見せていた。



 その日の放課後、駅の近くにあるスイーツを主に営業しているお店にフルーツパフェを食べに行った時のことだった。



 唯斗と莉奈と桃香と陸の4人は、パフェを美味しく食べて、それぞれの帰り道に向かって歩き出した。


 唯斗と莉奈が家に向かって歩き出してすぐのことだった。



 駅前にある大きな病院から、快斗が出てきた。



「え、あれ快斗くんじゃない? 」


「本当だ、兄さんだ 」


「病院で、何してたのかな? 」


「気になるな 」


「快斗くーーーん! 」



 莉奈が大きな声で快斗を呼んだ。


 快斗はそれに気づいて、手を振ってきた。


 唯斗と莉奈がすぐに快斗の方へ走り、合流した。



「快斗くん、病院で何してたのー? 」


「あー、友達がたまたま入院してて、そのお見舞いに来ていただけだよ 」


「あ、そうだったんだー! 」



 莉奈はすぐに納得したが、唯斗は少し何かを疑っている様子を見せた。



「兄さん、本当だよね? 」


「なんで嘘をつく必要があるんだよ 」


「そうだよね 」


「じゃ、事務所に一回戻ってから家帰るから先に帰っててくれ 」


「わかったよ 」


「じゃあねー、快斗くん 」


「またあとで 」



 快斗は唯斗と莉奈と別れた。




 快斗は唯斗と莉奈の背中を見ながら呟いた。



「もうそろそろ、時間の問題か…… 」



 快斗の抱えていた問題が少しずつ浮き彫りになってきた。




 唯斗と莉奈は、その後まっすぐ家に帰宅した。



「ただいま 」


「おかえり〜 」


「美奈さんただいま 」


「おかえりなさい〜 」


「あ、お姉ちゃん、さっき快斗くんに会ったよー 」


「あら、そうなのね、お仕事中だった〜? 」


「ううん、病院の入り口から出てきたのー 」


「え? 」


「なんか、友達のお見舞いで病院にちょうど来ていたらしいよー 」


「そうなの? 」


「うん、らしいよー 」


「唯斗くんそれは本当? 」


「はい、多分本当だと思いますよ 」


「うん、そうだよね 」


「なんか事務所行ってから、家帰ってくるってー 」


「そうなんだ〜 」



 美奈は少し不安になった。いや少しではない。不安になっていた。快斗の問題に少しずつ美奈と唯斗が気づいてきたのか。



 しかし、快斗は何も言うことはない。快斗の口からしか真実はわからない。だから本当に快斗に何かあるのか、それともないのか、それはまだわからないことだ。


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