第33話 準備「ジュンビ」



 1月も終わり、2月に入った。寒さが和らぐことはなく、日に日に増しているような気もしていた。


 唯斗たちもそんな季節と共に関係も明らかに変わり出していた。


 2月に入ると、すぐにあの季節がやってくる。


 世の中の男たちが異常に盛り上がる時期。そうバレンタインだ。


 日本では女性から想いがある男性にチョコレートを送る本命チョコレートや友達に送る義理チョコレートや友チョコレート。様々な形でチョコレートを送り合うイベントのことだ。


 高校生にとってバレンタインは一日中ソワソワした気持ちになる落ち着かない日である。そんな日をもうすぐに迎えようとしていた唯斗たち、莉奈や桃香からチョコレートは渡されるのか。





 バレンタイン3日前の2月11日のことだった。



 この日は金曜日で土日を挟んで月曜日が2月14日にあたる。そんな今週最後の学校の日のことだ。


 

 唯斗はいつも通りの朝を迎え、美奈に起こされて準備をして、莉奈と学校に向かった。



「おはようー 」


「おはよう桃香ー 」


「唯斗もおはようー 」


「おはよう 」


 

 学校に着くと、いつものように桃香と陸と挨拶を交わして、話をしていた。



「そういえば、来週の月曜バレンタインだよ莉奈ー 」


「えー、もうそんな時期? 」


「うん、そうだよー 」


「全然忘れてたー 」


「誰か渡す人とかいるの? 」


「うーん、いるかな 」


「私も一応いるかなー 」



 この時、莉奈と桃香は2人ともお互いの気持ちに気づいただろう。それでも口にすることはなかった。



「じゃ、お互いちゃんと渡せるように頑張ろうね 」


「うん! そうだね! 」



 莉奈の言葉に桃香はそう返したが、内心どう思っていたのだろう。お互いにお互いのことをライバルとしてもう意識しているのか。それとも……



「莉奈、お前にチョコレートなんて作れるのかー? 」


「できるし! 唯斗にはあげないから関係ないしー 」


「はいはい、どーせ俺には何もくれないことくらいわかってるよ 」


「なに、どーせって 」


「なんだよ、くれるつもりだったのかー? 」


「うるさい、あげないってばー! 」


「あはは、朝から2人とも仲良しだねー 」



 こんな唯斗と莉奈を目の前で見せられる桃香の気持ちは複雑だろう。唯斗と莉奈が悪気があってわざと見せているのはではなく、あくまで自然体でいつものように接している。それが逆にまた桃香からすれば辛かった。幼馴染みとしてずっと一緒だった唯斗が自分からどんどん離れていく、そんな気がしてならなかった。



 そんな今週最後の金曜の日の学校の時間も過ぎて、それぞれの想いを抱えて、家に向かって帰宅し始めた。


 唯斗と莉奈も家に向かってまっすぐ帰宅した。



「ただいまー 」


「ただいま 」


「2人ともおかえり〜 」


「お姉ちゃん、ちょっと相談があるー 」


「どうしたの莉奈〜? 」


「ちょっとあっちで 」


「え、あ、うん 」

 


 莉奈はそう言って、美奈の手を引っ張ってすぐにキッチンの方へ行った。


 唯斗はなにか不思議に思いながら、自分には関係ないことだと思い、2階の自分の部屋に向かって行った。



「どうしたの莉奈〜? 」


「あ、あのさバレンタインじゃん 」


「そうだね〜、来週の月曜だよね〜 」


「うん、そうなんだけど… 」


「唯斗くんに、渡したいってことね〜? 」


「いや、うん… まあその風邪ひいたときのお礼?というか、別にバレンタインだからってことじゃないからね! 」


「ほんと莉奈は素直じゃないんだから〜 」


「うるさいー! 」


「私も快斗くんに渡すけどね〜 」


「お姉ちゃんは本命だもんねー 」


「あはは、そうだよ〜? 」


「す、すごいねお姉ちゃん… 」


「莉奈だって本命のくせに〜 」


「わ、私は違うって! 」


「まぁそれは置いといて、作り方を教えてってことだよね? たぶん 」


「さすが、お姉ちゃんー 」


「やっぱりその通りだったか〜、いいよ、じゃ作ろっか〜 」


「うん!! 」



 こうして、莉奈は唯斗にチョコレートを渡すため美奈に教えてもらいながら作り出したのだった。






 その頃桃香は…


 まだ学校からの帰り道で、陸と話していた。



「私、チョコレート渡すのやめようかな… 」


「なんで? 」


「だって、唯斗は多分私からのチョコレートなんて、幼馴染みからの友チョコ?義理チョコ?としか思わないんだよ 」


「まぁそうかもしれないけど、渡すことに意味があるんじゃないかな? 」


「そうなの? 」


「僕だって欲しいと思う人はいる。だけどその人は僕ではない他の人にあげるんだ。こうやってもらえない人だっているんだよ 」


「陸…… 」


「だから、莉奈に対して遠慮しなくていいんじゃないかな? 桃香の好きな気持ちはそんな簡単に片付けられるほど小さくないでしょ? 」


「うん…… 私もっとちゃんと向き合ってみるよ 」


「うん、頑張れ 」


「ありがとう陸 」


「うん! 」


「じゃ、また月曜日ね! 」


「うん、じゃあね 」



 途中まで一緒だったが、別方向なところで2人は別れた。



「君はいつも、唯斗のことしか見ていないんだな… 」


 

 そんな陸の深い想いが詰まった言葉は桃香の耳に届くはずがない。桃香の背中を後ろから眺めた陸の独り言に過ぎなかった。



 それから土日は、美奈と莉奈は様々なチョコレートを試行錯誤して作っていた。唯斗と快斗は作る度に試食を頼まれて、甘いものをたくさん食べ過ぎて気持ち悪くなってしまいそうになっていた。



 渡す人に試食を頼むという少しおかしい形ではあったが、素直な意見を聞くこともできた。



 最終的に、美奈と莉奈は共に自分の納得ができる良いものができたのだろうか…


 果たしてそれを2人は兄弟に渡すことができるのだろうか…





 また、このバレンタインが莉奈と桃香の気持ちを大きく動かす出来事になる。






 そして、美奈も快斗に対する気持ちに異変が……




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