第30話 最初「サイショ」


 年末年始の楽しい行事なども、終えて新年度の最初の学校が始まる日がやってきていた。



「唯斗くん、起きて〜 」


「……ん、まだ7時ですよ… 」


「なに言ってるの〜、今日から学校だよ〜 」


「え! 忘れてた 」


「もーう、唯斗くんは〜 」



 唯斗は飛び起きた。今日から3学期。今学期で2年生も終わる。そんな大事な時期だ。



「おはよう唯斗 」


「莉奈おはよう 」


「早く準備しないと、私先行くからね 」


「待ってよー 」



 唯斗は急いで準備を進める。その間莉奈は座ってテレビを見て待っていた。


 半年前なら、唯斗を待つことなく行っていた莉奈だったがかなり変わっていた。それどころか、出会った頃は無視して、唯斗のことなど考えてもいなかった莉奈にとってはかなり変化だ。



「美奈ー、行ってくる 」


「行ってらっしゃーい〜 」


「あ、今日夜ご飯いらないかもー 」


「わかったよ〜 」



 そう言って、快斗は仕事に出かけた。



「唯斗まだーー? 」


「今急いでるからもう少し待ってくれー 」


「はーやーくー 」


「できたできた 」


「やっとだー、じゃいこっか 」


「美奈さん行ってきます 」


「お姉ちゃん行ってくるねー 」


「はーい、2人とも行ってらっしゃーい〜 」



 こうして、2人は学校に向かった。美奈もそれから時間が少し経った後大学に向かった。



「ううう寒いねー 」


「そうだな 」



 莉奈の首元には、しっかりと唯斗からのプレゼントのマフラーをつけていた。



「マフラー気に入ってるんだな 」


「うん! お気に入りだよー 」


「それは良かったよ 」



 そんな会話をしながら学校に向かい、着いて教室に入っていった。



「おはよう唯斗ー 」


「おー、おはよう桃香 」


「おはよう莉奈ー! 」


「おはようー桃香、元気だったー? 」


「元気だったよー! 」


「おはよう唯斗 」


「おう、陸おはよう 」



 久しぶりの挨拶を交わした。


 

「莉奈のマフラー、可愛い!! 」


「でしょー、これ唯斗がくれたのー 」


「えー、そうなんだー 」


「うん! すっごい気に入ってるんだー 」


「いいなぁー 」



 桃香は新年早々、それは痛いパンチだった。まさかの唯斗からのプレゼント。それを大事に首元に巻いている莉奈。この2人には入る隙がないと改めて思ってしまう出来事であった。



 冬休み明けの学校はみんな憂鬱だ。授業にも身が入らず、寝ている生徒や喋っている生徒も多かった。



 そんな初日の学校も終えて、1日の中で寒さが一段と増す夕方になり、生徒たちは学校から下校をし始め出した。




 その頃、家では大学から帰ってきた美奈が家の掃除をしていた。


 比較的いつも綺麗な快斗の部屋の机の上に、沢山の紙が散らばっていた。気になった美奈はその紙を見に行った。



「なに、これは… 」



 たくさんの量の病院の領収書だった。何かを詳しく見ようとした時、玄関の開く音がした。



 ガチャ……


「ただいま 」

「ただいまー 」



 唯斗と莉奈が帰宅した。



 美奈は何かいけないことをしてるような罪悪感からか、すぐに快斗の部屋から飛び出して唯斗と莉奈の元へ行った。


 何の領収書なのか、気になる美奈だった。


 そして、美奈はいつも通り夕飯を作っていた。毎晩おいしいご飯を作る美奈。


 美奈は、食事から洗濯、掃除までしっかりと家事をこなす。ここまで家事をすることが負担になってないといいが。それがどうなのかは本人しかわからないことだ。



「唯斗くん、莉奈ー、ご飯だよ〜 」


「はーい 」


「いまいくー 」



 一階から、美奈の呼ぶ声がした。呼ばれた唯斗と莉奈は返事をしてすぐ下に降りた。



 快斗の帰宅が今日は遅く、3人での食事になった。


 いつもと変わらない、とてもバランスの取れた高いクオリティの食事だ。姉妹と唯斗は箸を進めた。


 

 そして時間が経って、快斗が帰宅した。



「ただいま 」


「おかえりなさい〜 」


「ありがとう美奈 」


「ご飯食べて来たんだよね? 」


「うん、事務所の先輩と食べて来た 」


「うん、じゃお風呂入ってきな〜 」


「はいよ 」



 美奈は、これの領収書のことを聞きたい様子だったが、なかなか聞き出せないでいた。


 唯斗と莉奈が自分の部屋に戻り、美奈はリビングに1人きりだった。


 快斗が風呂から上がったら、あの領収書のことをふ聞くと決めていた。2人きりなら聞けるような気もしていた。



 時間が経って、快斗が風呂から上がってきた。



「ふうー 」


「ねえ快斗くん 」


「どうしたんだ 」


「快斗くんって、何か病気だったりする? 」


「え? 俺がか? 」


「うん… 」


「全然大丈夫だよ俺は 」


「病気じゃないよね? 」


「うん、喘息くらいかなー、持ってるのは 」


「あ、喘息持ってるんだね 」


「うん、それくらいしかないよ 」


「良かった〜 」


「なんで? どうかしたのか? 」


「いや、少し気になっただけだよ〜 」


「そうか 」



 美奈は、安心していた。快斗が喘息だということも分かり、何か重い病気を持っていると勘違いしていた美奈にとって、安堵の息を漏らすのも無理がなかった。



「じゃ、おやすみ 」


「うん、おやすみ〜 」



 そう言って、快斗は自分の部屋に上がっていった。



 ガチャ……



 快斗は何かを考える様子で部屋に入った。机の上に

広がった領収書を見つめていた。




「美奈…… 」





 快斗は、本当に喘息なのだろうか…




 いや、そうであるだろう。




 嘘はもうつかない、そう心に決めた快斗を美奈は信じていた。信じるしかなかった。

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