第29話 参拝「サンパイ」
家族で過ごす最後の日。神社に参拝に行くことになっていた。
「莉奈ー、準備できた〜? 」
「待ってーー 」
「ちょっと急いで〜 」
美奈が莉奈に急ぐように言った。
莉奈以外はみんな準備ができて、下で待っていた。
「よいしょ、えっとこれとこれと…… 」
莉奈は準備に時間がかかっている様子だ。
心配した、美奈が部屋まで来た。
「莉奈ー、まだかかりそう〜? 」
「もうそろそろ! 」
「あと何がダメなの〜? 」
「えっーとね、何か忘れてるような…… 」
「参拝に行くだけだから、大丈夫だよ〜 」
「えーと、まぁいっか!よし、お待たせー 」
美奈と莉奈が一階に降りてきて、姉妹の父親が待つ車へとみんな乗り込んだ。
唯斗は、すぐに莉奈を見て気づいた。そして嬉しそうな表情をしていた。
「なに唯斗ー、なんか私変?? 」
「いーや、何にも変じゃないよ! 」
「なんなのーー 」
「なーんにもないよ 」
唯斗があげたマフラーをしっかりと身につけていた。プレゼントをあげた側としては、これほど嬉しいことはない。唯斗が嬉しくなる気持ちは誰にでも分かることだろう。
車内は、とても賑やかだった。
道がお正月ということもあり、混んでいた。
それなりに混んでいたが、神社の近くまでたどり着いていた。
「いやー、混んでいるね 」
「パパー、これ駐車場入れるかな〜? 」
「わからないけど、時間がかかるかもなー 」
車の出入りは激しく、なかなか駐車できるスペースが開かない。
それから時間が経って、やっと車を停めることができて、参拝の道を歩き出した。
人混みの中、歩き出すと快斗が声をかけられる。
「えー!! 二階堂快斗くんですよね!? 」
「はい 」
「雑誌いつも見てます! 応援しています! 」
「ありがとうございます 」
それを見た唯斗と莉奈は言う。
「やっぱモデルってすごいねー 」
「唯斗は声かけられるかなー?? 」
「バカにしてんのかー、俺はモデルでもなんでもないんだぞ 」
「ごめんごめん 」
「ほんとお前ってやつは 」
「でも、私は唯斗も普通にモデルできると思うよ? 」
「そうかー? 」
「うん、できるよきっと! 」
「それはありがとうな 」
「お世辞だけどねー 」
「だろうなー! 」
「うそうそー 」
「なんなんだよ 」
歩き続けていると、他にも何人かに快斗は声をかけられていた。
人によっては、写真を求める人もいたが、仕事ではないプライベート中である今日は断っていた。
他には、美奈に彼女さんですか?と聞いてくる人もいた。周りから見れば美男美女そのものだろう。快斗の彼女が美奈でもなにも不思議ではない。そんな2人と唯斗と莉奈、姉妹の父親、兄弟の母親は、道なりに足を進めた。
進んでいくと、だんだんと出店を増えてきていろいろな店が参拝の道を盛り上げていた。
「あー! あれ食べたい 」
「どれだよー 」
「あ、あれもー! 」
「おい、莉奈! 」
莉奈は前にも、イルミネーションに行った時もあったが唯斗たちとはぐれてしまいそうになる。
「莉奈、お前勝手にいくなー 」
「あら、ごめんごめん 」
「まったくー 」
「じゃ、唯斗私とずっと一緒にいてね 」
「え? 」
「そんな重い意味じゃなくて、唯斗が私の側にいてくれれば迷子になることもないし、困らないからー 」
「ああ、わかったよー 」
唯斗は、最近の素直な莉奈に驚きを所々隠せない。
そんなこともありながら、本堂までたどり着いた。
それぞれしっかりと自分の願い事を込めて、お参りをした。
何を願ったのだろう。大事なこと。忘れちゃいけないこと。人それぞれだが、願うことはみんな大切な人を想ってのことだろう。自分のためでもあるが。
そして、唯斗たちは帰り道に向かって進み出した。
「唯斗は何をお願いしたのー? 」
「みんなの無事を祈ったのと、俺がどうしても叶えたいことかな 」
「なにそれ! 教えてよー 」
「なんで教えなきゃいけないんだよ 」
「えー、意地悪ー 」
「莉奈はなにをお願いしたんだ? 」
「私もみんなが幸せで無事でありますようにと、私の大事な人と私が誰よりも幸せになれますようにってお願いしたよー 」
「へぇー、いいじゃん 」
「なんか興味なさそー 」
「そんなことないよ 」
「あっそー 」
そんな弟と妹の会話とは全く違う兄と姉だった。
「快斗くん、いつも外だと結構こういう風に話しかけられることあるの〜? 」
「前はあまりなかったけど、最近はちょっと増えてきたかもな 」
「それだけ有名になれてるってことだね〜 」
「全然まだまだだけどな 」
「私のことその辺に置いてかないでね〜? 」
「当たり前だよ 」
「うん!! 」
快斗と美奈の関係は日に日に良好になっていた。もうお互いが好きなのが目に見えてわかる。でも、周りからすればなぜ付き合ってないのかは不思議に見えるだろう。
そして美奈、本人も快斗に待ってて欲しいと言われたがいつまで待てばいいのか。そしていつになるのか、少し心配になるような気持ちも出てきていた。
快斗の本心など誰にもわからなかった。分かりたくても分かるようなことではなかった。それが分かるのはまだ後のことだが。
参拝は終わり、姉妹の父親と兄弟の母親と別れる時間がやってきた。
「じゃ、みんないろいろと頑張ってくれよ 」
「パパもお仕事頑張ってね〜 」
「ありがとう美奈 」
「莉奈、パパにちゃんと言わなきゃ〜 」
「あ、うん、パパ仕事頑張ってね 」
「ありがとう莉奈、しっかりと勉強頑張りなさい 」
「うん 」
「唯斗ー、あんたはみんなに迷惑かけないように頑張りなさいよー 」
「はいはい、大丈夫だよ母さん 」
「快斗も、あんまりお仕事無理しすぎないように頑張ってね 」
「わかってるよ母さん 」
「じゃ快斗くん、みんなのこと頼んだよ 」
「はい! 」
こうして、姉妹の父親と、兄弟の母親は仕事のために、また大阪へと帰っていった。
この時は唯斗たちはまだ知らないことが多すぎた。それを知った時、どうなるのだろう。唯斗だけじゃない。姉妹はどう反応するだろう。そんなことその時にならなければわからない。しかし、それがどれだけ大きなことでどれだけ大切なことだったか過去を振り返ればわかる。
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