第27話 年末「ネンマツ」


  

 快斗と美奈の距離が近づいたクリスマスイブデート。そして唯斗と莉奈と桃香の色々あったクリスマス。そんな唯斗たちの少し変わったホワイトクリスマスが終わり、今年も終わりに近づいてきた。



 兄弟と姉妹で過ごす初めての年末が近づいてこようとしていた。




 12月30日


 今日は大阪に転勤した美奈と莉奈の父親と、それに付き添い行った快斗と唯斗の母親が久しぶりに帰宅する。年末の家族の再会の日だった。三が日まで家に滞在する予定らしい。


 久しぶりの再会を楽しみにしている4人は、リビングで待っていた。



「なんか久しぶりにパパに会うけど、緊張するな〜 」


「そうかー? 」


「快斗くんは、しないのー? 」


「別に、母さんに俺たちはしないよな唯斗 」


「うん、母さんに緊張なんてしないよ 」


「ええー、そうなんだ〜 」


「美奈さんよりも、莉奈のほうがもっと緊張してるっぽいよー 」


「別にしてないしー! 」


「あら、莉奈もなんだ〜 」


「してないってばー! 」



 家族との再会が待ち遠しい4人の元へ、姉妹の父親と、兄弟の母親は帰宅した。



 久しぶりの再会に最初は少し慣れないところもあり、緊張が隠せなかったが徐々にお互いに慣れて行った。



 唯斗の母親は、唯斗のことがよほど心配だったらしい。



「美奈ちゃん、莉奈ちゃん、唯斗はいろいろと大丈夫だったー? 」


「はい! 全然大丈夫でしたよ〜 」


「良かったー、美奈ちゃんがいれば本当に安心だね 」


「ほんとに、唯斗の面倒大変でしたよー 」


「あらー、莉奈ちゃんには迷惑を結構かけちゃったかなー? 」


「嘘ですよ、全然大丈夫ですー 」


「あはは、よかったー 」


「莉奈お前なぁー 」


「なにー? 間違ったことでも言ったー? 」


「いや……言ってねーよー 」


「ですよねー 」


「はぁ…… 」


「あら、唯斗と莉奈ちゃんも仲良くなったみたいで、母さんうれしいよー 」


「母さん、やめてくれ恥ずかしいから 」


「ごめんごめんー 」

 


 母親の目にも唯斗と莉奈の関係は、よく映ったのだろう。



「快斗は、お仕事大丈夫ー? 」


「うん、大丈夫だよ 」


「無理せずにね 」


「わかってるよ 」



 快斗に対して、母親の心配はどこか唯斗に対してなものとは違うような気がしていた。そんなことを姉妹や、唯斗が気付くことはなかったが。



「莉奈、勉強は大丈夫か? 」


「うん、大丈夫 」


「そうか、良かった 」



 莉奈と父親の会話はあまりなかった。莉奈は緊張していてたが、何かを伝えたい様子が見えていた。日頃の感謝の気持ちなどを伝えたかったのだろう。でも、莉奈にとって父親との確執が完全になくなったとは言えず、さらに久々の再会でさらに気まずさが強くなっていた。


 そんなせいか、会話が少なかったのだろう。



 あの時、伝えておけば良かった。そう後悔するのはいつも後からだ。そんなことまだ莉奈にはわからない。


 


 会話も弾み、姉妹の父親ならではの豪華な夕食の時間がやってきた。


 年末ということもあり、より一層高そうな食事が並んでいた。


 夕食の会話も今までにあったことや、様々なことを話して、とても有意義な時間だった。


 夕食が終わった後も、兄弟の母親と唯斗、そして姉妹は楽しそうに話していた。この4人は最初の頃から家にいることも多かったため、話もよくしていた。




 その頃、姉妹の父親は、快斗と2階の広いベランダで星を見ながら酒を飲み始めていた。


 冬の星空はとても綺麗だ。闇を照らす星たち、そしてそれに負けないくらい明るい月。そんな空を見上げながら酒を酌み交わした。



「快斗くん、仕事も大変だっただろうが、家族のことありがとうね 」


「いえいえ、俺も本当に美奈や莉奈、そして唯斗にも感謝しています 」


「そうかね、何か快斗くんも変わったようだね 」


「はい、あいつらが俺を変えてくれました 」


「本当か、良かったよ 」


「はい、だから俺はあいつらのことを大切にします 」


「君があの子たちのことをそう言ってくれて、私も本当に心から嬉しいよ 」


「こちらこそです 」


「ところで、美奈とはどうだね? 」


「い、いきなりどうしたんですか 」


「あはは、君もいい反応を見せるね 」


「いや、びっくりしますよ 」


「すまないすまない、君たち2人はうまくやっていけると思うけどな 」


「まぁ俺なりにちゃんと向き合って、頑張っていきますよ 」


「そうかね、君なら大丈夫そうだね 」


「はい、莉奈も唯斗がいれば大丈夫です 」


「ほう、君たち兄弟は本当に頼りになるね 」


「いえいえ、こちらこそですよ 」


「ありがとう、これからもよろしく頼むよ 」


「はい! 」




 満足そうな姉妹の父親と快斗は、良い気分でお酒を飲み続けた。




 こうしてお酒を飲むようになれたのも、家族の関係が良い方向になっていたのも、色々なところで唯斗の活躍が大きかったと言えるだろう。自分と兄を比べて兄に劣る自分が嫌だった弟は、他にはない優しさと人を想う気持ちで、家族を良い方向へ変えていったのだろう。




 それだけじゃない。美奈や莉奈、快斗にもそれぞれの良さがあり、それぞれがしっかりと向き合ってきたからこそ、こう変わっていけたのだろう。




 このまま、良い方向にただ向かっていく。そう進んでいく、全員がそう思っていただろう。いや全員ではない。1人だけずっとそう思えない者もいた。それがどれだけ重大でどれだけ不安になっていたかなど、他人が気づけるわけがない。


 


 当たり前の日常が壊れそうになる日は、もう近づいていた。




 その時、兄弟は、姉妹は、どうなるのだろう……

 

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