第23話 赤点「アカテン」
莉奈は唯斗に素直になれず、桃香への嫉妬の感情を抱いていた。
そんなこと、唯斗は気づくはずがない。
次の日になり、桃香が来る時間になった。
「お邪魔しますー 」
「いらっしゃい〜! 唯斗くん呼んでくるね〜 」
「はい! 」
「唯斗くんー、桃香ちゃん来たよ〜 」
「あ、はい! 今行きますー 」
唯斗が降りてきた。
「おお桃香、ありがとう来てくれて 」
「うん、じゃ勉強頑張ろっか 」
「おう! 」
2人は2階に上がって、唯斗の部屋に入っていった。
「ねえ、莉奈ちゃんいないの? 」
「いるけど、昨日の夜、少し喧嘩したから来ないよ 」
「そうなんだー 」
「うん 」
「なんで喧嘩したのとか、聞かないほうがなんか良さそうだね 」
「そうしてくれるとありがたい 」
「うん、わかったよ 」
「ありがとう 」
「うん! じゃ頑張ろっか! 」
「おう! 」
そんな2人がいる唯斗の部屋のドアの前には、開けようか、開けまいか悩む莉奈の姿があった。
昨日のことがあっての今日である。莉奈はどうしても自分から踏み込まないでいた。それでも部屋で2人きりの唯斗と桃香が気になるのであった。
人に優しい唯斗。女の子にも優しい。それは下心や、作っている優しさではなく唯斗の性格そのものが優しいのだ。そんな唯斗と桃香が2人きり。幼馴染みという繋がりを持ち、可愛い桃香のことを好きなのではないかと莉奈は心配になるばかりである。
夕方まで続いた唯斗と桃香の勉強会はとても濃い時間となった。なんとか唯斗も明日自分で勉強をすれば赤点は回避できそうなところまでは来ていた。
逆に、莉奈はずっと気持ちがソワソワして勉強に集中できていなかった。
「お邪魔しましたー 」
「ご飯食べていけば良いのに〜 」
「今日はちょっと帰らないといけないので、またご馳走してください! 」
「そうなの〜、またおいでね〜 」
「じゃ、美奈さん俺送ってくるね 」
「はーい、いってらっしゃい〜 」
そう言い、唯斗と桃香は家から出ていった。
美奈は莉奈のことが気になったのか、すぐに莉奈の部屋に向かった。
「莉奈ーー 」
「どうしたの? 」
「ううん、ちょっとね 」
「何かあったの? 」
「それは莉奈でしょ〜、唯斗くんと喧嘩でもしちゃった〜? 」
「別にー 」
「やっぱり〜、したんじゃん〜 」
「別にって言ってるでしょー 」
「今日だって、喋ってるところ見てないし、桃香ちゃん来てるのに会ってないでしょ〜 」
「だって…… 」
「素直になりなよ〜 」
「そんなのできないよ…… 」
「私もそうだけど、こんな当たり前の今の日常をもっと大切にしなきゃって思うの 」
「うん…… 」
「後から、後悔はいくらでもできるけど、その時の過去は変えられないんだよ。だから今ちゃんと素直になって唯斗くんと向き合ってね 」
「うん…… 」
その頃……
「明日も唯斗ちゃんと、勉強してよねー 」
「わかってるわかってる 」
「うん、ならいいけど 」
「赤点だけは嫌だわー 」
「うん、そうだね! 」
「ねえ唯斗 」
「うん? 」
「唯斗は莉奈のこと好きなの? 」
「………わからない 」
「そうなんだ…… 」
「うん 」
「ごめんね変なこと聞いて 」
「いや、大丈夫 」
2人は少し気まずくなりながらも、歩き続け桃香の家に着いた。
「わざわざ、ありがとうね 」
「こちらこそ、いろいろありがとうな 」
「じゃ、明日も勉強頑張ってね 」
「おう! じゃあな! 」
「うん! ばいばいー 」
唯斗は家に向かって一人で帰っていった。
わからないなんて、そんな嘘つかないでよ……
桃香の想いは、辛くなるばかりであった。
「ただいまー 」
唯斗が桃香を送り終えて、戻ってくると家には快斗がもう帰宅していた。
「おかえり〜 」
「おかえり 」
「兄さん、帰ってきてたんだ 」
「今日は早く帰れたからな 」
「そうなんだ 」
美奈はもう夕飯の支度が出来上がっていた。
少しいつもより早かったが、夕飯を食べ始めた。
夕飯の時も、変わらず唯斗と莉奈は目も合わせずにいた。
食べ終わった唯斗はすぐに部屋に行って、勉強を始めた。
その日、唯斗と莉奈が話すことはなかった。
次の日になって、明日からのテストに向けて最後の追い込みだ。唯斗は普段からは予想もつかない、あり得ない必死さで勉強をしていた。
そんな唯斗に美奈さん差し入れに、お菓子や飲み物などを差し入れていた。
唯斗はそれもあってか、集中して勉強できていた。
「なんだこれ、おれ今までにこんな問題やったことないな 」
唯斗は難しい問題に躓いていた。
わからない唯斗は仕方なく、その問題を捨てることにした。
1日中、それなりにずっと集中して唯斗は勉強をすることができた。
夕飯を食べ終えても、唯斗はすぐに部屋に行き、1人で勉強をしていた。
そんな唯斗の元へ……
トントン……
「誰ー? 」
「私 」
「莉奈か、どうしたの 」
「入ってもいい? 」
「いいよ 」
「ありがとう 」
莉奈は唯斗の部屋に入ってきた。
「で、どうしたの? 」
「うん、あのさ、ごめんね…… 」
「え? 」
唯斗はびっくりした。莉奈が素直に謝ってきたのだ。
「どうしたんだよ 」
「だから、ごめんね…… 」
「う、うん 」
「あんな言い方してごめん…… 」
「いや、俺も悪かったよごめんな莉奈 」
「ううん、私が悪いの 」
「俺もだからそんなに謝らなくていいよ 」
「うん、ありがとう… 」
「うん 」
「じゃ…… 」
そう言って、莉奈が部屋から出て行こうとした時だった。
「莉奈! 」
「うん? 」
「わからないとこあるから、教えてくれないか? 」
「え? 私でいいの? 」
「もちろんだ 」
「うん、わかったよー! 」
2人はそれから同じ机で一緒に勉強をしていた。
昨日の2人からは想像できない笑顔だった。
トントン……
「唯斗くん入るね〜 」
「あ、はいー 」
「お茶とおにぎり持ってきたよ〜 って、莉奈もいるじゃん〜 」
「えっと、これはその…… 」
「あら〜2人とも仲直りしたんだね〜 」
「あれ、バレてたんですか? 」
「仲直りってか、喧嘩なんてしてないし! 」
「あらそうなの〜? 莉奈も素直になればいいのに〜 」
「素直になってるよ! 」
「お姉ちゃん良かったよ〜、安心安心 」
「お姉ちゃんってば! さっきからからかってるでしょ! 」
「全然そんなことないよ〜、じゃお二人さんで楽しんでね〜 」
「もう!! 」
美奈は笑顔で、部屋から出ていった。
「ほんと、お姉ちゃんってば! 」
「美奈さんほんとに優しいよな〜 」
「感心してないで、勉強!! 」
「はいはい、もう少し頑張るかー 」
「うん! 頑張ろー! 」
12月1日
ついに期末テストを迎えた。
唯斗はこの1週間必死に勉強したことをなんとか生かして、テストに臨んでいた。
そして……
唯斗は全ての教科を赤点回避することができた。桃香と莉奈のおかげであろう。
クリスマスも近づき、一気に気分が高まる季節がやってくる。
そんなクリスマスは、快斗と美奈。そして唯斗と莉奈と桃香。このそれぞれの想いはどうなるのか…
伝えなければ伝わらない想い。簡単に片付けられない想い。そんな様々な想いが交錯し始める……
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